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353 封印された記憶の真実 ①

 

 気がつけば俺は、真っ白な空間にいた。異世界に転移する前の空間に酷似しており、どこまでも同じ空間が続いている。


 そんな場所には、長方形のテーブルがあった。手前には椅子があり、そこに座っているのは過去の俺である。


 白いゲヘナデモクレスのような鎧に殺されたはずだが、何故か無傷の状態で座っていた。


 またそんな過去の俺の向かいには、(うり)二つの人物が二人座っている。


 頭からつま先まで真っ白な人物であり、長い髪と整った容姿をした中性的な印象を受けた。


 まるで双子のようなその人物たちは、唯一瞳の色だけが違う。過去の俺から見て、左側の人物の瞳の色は金色。右側の人物は銀色である。


 得体のしれない雰囲気を醸し出す二人の人物は、同時にどこか神秘的な感じもしていた。


 対して過去の俺も状況に戸惑いながらも、席から立ち上がらず、また声を荒げることもしていない。いや、よく見れば声を出せないようだった。口を開いては、何も言えず閉じるを繰り返している。


 これは、転移前の空間と同じだな。喋っても、相手に声が届かない。おそらく聞こえないのだろう。


 逆に俺は状況が少しずつ飲み込めてきたからか、冷静さを取り戻すとそのように分析を始める。


 あの白い鎧への怒りはあるが、これは過去の出来事だ。そしてこの謎の白い空間は俺にとって、最も重要な場所な気がする。


 であるならば乱れた心を落ち着かせて、状況を把握するべきだろう。


 自分自身にそう言い聞かせると、俺は軽く深呼吸をする。そしてここから何が起きるのか、状況を見守ることにした。


 するとタイミング良く、金目の存在が喋り始める。


神谷仁(かみやじん)、君は選ばれた。死した君は拾い上げられ、これより異世界に行くことになる。新たな体と、神授スキルとなったエクストラスキルを携えてね」


 金目の存在は、中性的な声でそのようなことを話した。


 この言葉だけで、色々と分かってくるな。やはり、エクストラスキルは神授スキルの元になっていたのか。それと、俺の本名がここで判明したな。まあ、それについてはどうでもいいか。


 続いて金目の言葉を引き継ぐようにして、銀目が話し始める。


「けどここで一つ、問題が起きた。本来この場所に現れるのは、一人だけ。我々も、当然一人だけのはずだった。けど実際には、二人いる。この意味が分かるかな?」


 銀目の問いかけに、過去の俺はその理由を理解したみたいだ。当然俺も、それは分かっている。つまり向こう側に二人現れたのは、こちら側も二人と判定されたからだろう。


 しかしそれは、こうして覗いている俺のことではない。過去の俺と融合している文香の魂が、カウントされたのだと思われる。


 その答えを示すかのように、金目が口を開く。


「理解しているようだね。そう、君は一人であって、一人ではない。麗沢文香(れいさわふみか)という魂が混じっている。これは、極めてイレギュラーな出来事だ。

 しかしこうしてこの場所に来た以上、それもまた許されたことを意味しているのだろう。故に君は他の者とは違い、二人分の力を持って異世界に行くことになる。それを前提として、話を進めさせてもらう」


 二人分の力か。二重取りとカード召喚術の二つを持っていたのは、これが理由だったのだろう。色々とまだ気になる部分はあるが、それはこれから語られるのだと思われる。


 慌てずに、俺は状況を見守ることにした。


「さて、まず初めに君が選ばれた理由だが、エクストラスキルという神授スキルになり得る力を持っていることが一つ。

 次に君の世界は既に神が放棄した世界であり、魂の所有権が存在していないことが一つ。

 最後に他世界からやってきた全属性の魔王(・・・・・・)が儀式を行ったことで、ここと繋がりやすくなっていたことが一つ。この三つが挙げられる。それ以外は偶然の結果だ。あの場で死亡して適性を持つ者は、同じようにすくい上げられている」


 神が放棄した世界というのも気になるが、それよりも全属性の魔王だと? 名称通りだとすれば、それは全ての属性を持つ魔王ということになる。


 赤い煙の強さを考えれば、途方もない力を持っているはずだ。それが何の儀式だかは不明だが、過去の俺たちを一か所に集めて、黒い鎧に始末させようとしていた。


 あれはもしかすると、生贄的な意味があったのかもしれない。確か十年ごとにダンジョンから人が消失する事件があると聞いたが、それはこの儀式を行うためだったのだろう。


 そしてそこで殺された者を、この空間へとすくい上げた。いや、この場合かすめ取ったとも言えるかもしれない。


 だがどちらにしてもこれによって、過去の俺はある意味救われた訳だ。


 すると過去の俺も。その言葉に様々な疑問を抱いたようである。それを察したのか、次に銀目が語り出した。


「君たちの世界、地球は、だいぶ前にそこを管理する神が放棄したのだよ。禁則事項なので詳しくは言えないが、そういうことなのだ。

 結果そこにつけ込んで、他世界から全属性の魔王が侵食を開始したようである。ダンジョンや覚醒者、モンスターが現れた原因も、全てそこにある。その地球で全属性の魔王は、神のまねごとを始めたようだ」


 なるほど。そういうことだったのか。要するに地球は、全属性の魔王に支配されていたのだろう。神のまねごとをするための実験場や、覚醒者になった人間を管理する牧場という面もあるのかもしれない。


 つまり地球は、既に詰んでいたのだ。神に見放されており、根本的に何かが改善されることはおそらくは無い。


 例外的なのはこうして所有権が無い魂を、外部から拾い上げることくらいなのだろう。


 これに対しては何とも(むな)しい気持ちになるが、それが現実のようである。


「さて、これで理由は理解したようだ。では、話を戻そう。君はこのあと基礎的な知識などを除いて、記憶の大部分を封印されることになる。またその内の多くは、消費されることだろう。

 封印はこの先を円滑(えんかつ)に進めるためであり、消費はエクストラスキルを神授スキルに変化させるための、僅かながらの代償となる。言っておくが、代償としては破格のものなのだ」


 金目はそう言うが、過去の俺は納得していないみたいだった。だが、それはそうだろう。話からして、大切な記憶を失う可能性があるからだ。


 過去の俺にとってそれは、当然文香との思い出になる。他の何を失ってでも、これだけは守り通したいはずだ。同じ自分自身だからか、それがよく分かる。


「どうやら、失いたくない大切な記憶があるようだ。ならばそれは、可能な限り残すようにしよう。封印された記憶は、条件を満たすことで後に解かれる。安全な場所で眠りにつけば、夢を見るかのように思い出すことだろう」


 そうだったのか。本来この封印された記憶を思い出すには、何か条件を満たす必要があったようだ。そして安全な場所で眠りにつくことで、それを思い出せたらしい。


 だが俺の場合はあの謎の存在によって、強制的に思い出すことになった。これはいったい、どういうことだろうか? 


 あの存在は前の幻の魔王だと思われるが、こんな事が可能なほどに力を持っていたということになる。それも、赤い煙が作り出した幻という状態でだ。


 未だに過去の記憶の封印を解いた理由も不明だが、ただ者ではないのは確かだろう。この封印を解くことによって、いったい何が起きるのだというのだろうか。


 俺はそんな事を思いつつも、話の続きを聞くことにする。過去の俺も、大切な記憶が残ると聞いて、とりあえずは安堵しているようだった。


 そして金目と入れ替わるようにして、続けて銀目が口を開く。だがその内容は俺にとって、いや転移者にとっては無視できない内容だった。


「さて、次に君を異世界に送り出す目的であるが、それは新たな“神候補”を選定するためだ。しかしこれは、必ず選定しなければいけないという訳ではない。

 送り出す者全てが条件を満たせずに、全員がそこで、()したいことを()して生を終えても構わないのだ」


 薄々気がついていたが過去に俺がした予想は、やはりほぼ当たっていたようである。転移者の中から、新たな神になる可能性のある者を生み出す。


 明確な答えがあるのと、単なる予想では大きな違いがある。無事に全てが終わったときには、これについて考える必要があるだろう。


 ここに来てとうとう、これまで謎だった転移者をが異世界に行くことになった目的が、こうして判明するのだった。


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