343 ジンアレクVS赤い煙 ⑤
赤い煙が爆笑している間に、俺はストレージから魔神剣を取り出す。
当然その魔神剣とは、二重取りで融合を果たしたルインダークネスのことである。
名称:魔神剣ルインダークネス
説明
・全ての攻撃に任意で闇冥神属性を付与する。
・闇冥属性の効果を極大上昇させる。
・神属性の効果を中上昇させる。
・光聖属性に与えるダメージが極大上昇する。
・神属性に与えるダメージが中上昇する。
・持ち主のあらゆる能力を極大上昇させる。
・一日に十回無条件で耐性、無効、反射、再生を無効化する効果を任意で攻撃に付与できる。
・一ヶ月に三分間だけ、この魔神剣に神滅属性を付与することができる。
・一ヶ月に三分間だけ、無条件で自身の魔力を無限にする。使用後は反動により、消費した魔力量の五倍を支払うまで、あらゆる魔力消費行動が不可能になる。
・この魔神剣に認められた者にしか使用できず、念じると手元に戻ってくる。
・この魔神剣は、冥神属性適性が無ければ使用できない。
・この魔神剣は神力を消費し続ける。また神力が切れると鈍らになり、効果の大部分が使用できなくなる。
・この魔神剣は、時間と共に修復される。
・この魔神剣は持ち主と共に成長し、以下のスキルを内包している。
【魔力超再生】【魔力解放】【カオスブレイク】
【剣心一体】【上級スキル郡(剣)】
未だ完全には認められてはいないため、全ての能力を引き出すことはできない。
だが、それでも十分すぎるほどに、この魔神剣は強力な剣だった。
「ひひゃ? おぉ! ようやく出してきたなぁ! 見てたぜぇ~。俺様の傑作を倒した、とてつもない剣だよなぁ? しかもその剣の元は、幻属性の極意で創られていたはずだぁ。それが突然二本に増えて融合したときは、流石に俺様も驚いたぜぇ~」
魔神剣の登場に赤い煙も警戒心を露わにしたのか、笑い声が止んだ。
加えて今、二重取りで増えたことを認識していたよな? 同じ転移者以外でそれに気がつかれたのは、何気に初めてのことだった。
だとしたら初見で認識していたのは、やはり魔王だからかもしれない。
またアルハイドが言っていた通り、幻属性の極意とやらで、この魔神剣の元になった魔剣が創られたことも把握しているようだ。
ちなみに、その魔剣を創り出したゲヘナデモクレスのスキルは、魔想現具召喚というらしい。
名称:魔想現具召喚
効果
・自身が想像した物体を召喚する。
・創り出した物体の格によって、維持コストが変化する。
・本来よりも過剰な魔力を消費することで、維持コストが無くなり、独立した物体に変えることもできる。
・創り出した物体の居場所を把握することができる。また任意で消滅させることも可能。
・創り出した物体に限り、専用の異空間に収納することができる。
・自身が想像した物体を創りだす度に、その格によって魂を少しずつ摩耗させていく。
どうやら魔剣を創り出すのには、とても苦労したみたいだ。また魂の摩耗だが、カルトスの魂を犠牲にすることで、ゲヘナデモクレス自身の魂の摩耗は最低限で済んだらしい。
カルトスが老人のようになっていたのは、これが原因の一つだったみたいだ。
それと俺が最初に貰った紫黒の指輪
だが、これも魔想現具召喚によって創られた物だった。
この時はまだカルトスの魂は無かったので、ゲヘナデモクレスの魂が摩耗することになったのだが、そもそもゲヘナデモクレスはリビングアーマー千体分の魂から誕生した存在である。
結果紫黒の指輪を創った程度では、そこまで影響はなかったとのこと。
そんな幻属性の極意に相当するスキル、魔想現具召喚で創られた魔剣を、神授スキルで増やして融合させたのが、この魔神剣ルインダークネスである。当然、弱いはずがなかった。
だが赤い煙もこの魔神剣を使うのは、想定内だったようである。警戒はしていても、焦ったような素振りは見えない。
しかし俺としても、まだこれで切る手札は終わりではなかった。自身に神命として、赤い煙を倒すことを命じる。
それにより使徒のスキルが働き、能力が上昇した。神と使徒の両方であるというおかしな状況だが、問題なく発動したみたいである。
名称:使徒
効果
・仕える神の神託をいかなる場所でも聞くことができる。
・仕える神からの神命を拒否できなくなる。
・神命を実行する時、あらゆる能力が増加する。
・使徒同士であらゆる情報を共有することができる。
更にここへ、厄災の猛獣に内包されている限界突破も発動させた。
名称:厄災の猛獣
効果
・このスキルは以下のスキルを内包している。
【爪牙顎強化(大)】【身体能力上昇(大)】
【生命力上昇(大)】【身体操作上昇(大)】
【魔力上昇(中)】【物理耐性(中)】
【魔法耐性(中)】【自然治癒力上昇(大)】
【自然魔力回復量上昇(中)】【限界突破】
この限界突破は一日に一度だけ、発動中は自身の全ての能力を大幅に上昇させる強力なスキルである。
しかしその代わりに発動中は常に魔力が消費され続け、解除後は発動時間のおよそ三倍の間、自身の全ての能力を大幅に低下するというデメリットがあった。
けれどもこのデメリットなど、今行っているアルティメットフュージョンのデメリットに比べたら、かわいいものだ。故に使うならこの瞬間、この戦いしかない。
加えて魔力の消費も、魔神剣の魔力超再生で常に回復し続けており、消費を上回っている。なので魔力のことは、そこまで気にしなくても問題はなかった。
そしてダメ押しで、俺は更にここへ裁きの瞳の効果も加わる。
名称:裁きの瞳
効果
・罪と判断した行為を目視した場合、その対象へ与えるダメージが増加する。
・罪を重ねた相手ほど、対象のあらゆる能力や考えを看破する。
・暗視効果に加えて、何かしらのスキルで隠れた対象を看破する。
・一日に一度だけ、【裁きの神光】を発動することができる。威力は相手の罪の大きさに応じて変わる。
罪と判断した行為の目視が、融合前のものも適応されているのであれば、かなりのものになるだろう。
ただ赤い煙の能力や考えを看破することはできていないので、あまり期待しない方がいいかもしれない。
また一日に一度だけ使える【裁きの神光】だが、これは奥の手の一つとして、チャンスが来れば使うつもりだ。
こうして見るとレフの種族特性のスキルは、強力なものが多い。とても頼りになる相棒だ。
そうして俺は魔神剣と様々なバフの効果により、能力がかなり強化された。
「ひひゃひゃ! 怖いなぁ〜。そういうの、チートってやつなんだろぅ? 俺様知っているんだぜぇ。勇者に教えてもらったからなぁ~。
でもよぉ~。お前以上に俺様の方が、よっぽどチートなんだよなぁ。それを今から、見せてやるるぜぇ~。オラッ! 幻魂の牢獄、全開放!」
「なっ!?」
するとその瞬間、赤い煙の周囲からおびただしい数の魂が溢れ出す。その中にはなんと、アルハイドの魂も存在していた。
ご丁寧に、他の魂が人魂のような姿にもかかわらず、アルハイドだけが普段と変わらない、人としての形をしている。
これは、誘われているな。俺がアルハイドの魂を確保することを、赤い煙は誘導しているのだろう。その隙に、何かするのかもしれない。
だとすればここはアルハイドの魂を見捨てて、赤い煙の攻撃へと向かうべきだろうか? いや、だがこの機会を逃せば、アルハイドの魂は確実に失われるかもしれない。
俺の直感もこれを逃すと、アルハイドの魂を救うことが出来なくなることを告げていた。
そして同時に、今が赤い煙を攻撃する最大のチャンスの可能性があるとも告げていたのである。
俺はこの一瞬の間に、選択をしなければいけなかった。アルハイドの魂を救うか、それとも赤い煙に攻撃をするかである。
合理的に考えれば、赤い煙に攻撃すること一択だろう。このチャンスを逃したら、後が無くなるかもしれない。それは、よく理解している。
アルハイドも、その選択を勧めるだろう。魂の回収は、可能であればということだったからだ。故に残念ではあるが、アルハイドの魂はここで散ってもらうしかない……そう、頭では理解していたのである。
だがそれでも気がつけば俺は、アルハイドの魂を赤い煙から奪って、魂庫へと収納していた。
体が勝手に動くというのは、まさにこのことだろう。少し前までの俺なら、悩んだ末に赤い煙へと攻撃をしていたかもしれない。
けれどもこのファントムワールドに来てから、俺は偽物のタヌゥカや、怒りと後悔から初めて融合したときの自分自身と戦った。
それが、過去を思い出させたのかもしれない。あのとき救えなかった、幸運の蝶のゲゾルグとサンザのことだ。
だから手を伸ばせば救うことのできるアルハイドの魂を、俺は選択してしまった。
これを予想して、赤い煙が偽タヌゥカや過去の俺と戦わせたのだとしたら、見事としか言いようがない。
だがアルハイドの魂を手に入れたことに関して、俺に後悔はなかった。
「なんだよぉ。そっちを選んだのかぁ。意外だぜぇ~。見た目は魔王なのに、心は勇者なのかぁ? 俺様としてはどっちでもよかったんだけどよぉ。これはこれで、面白れぇなぁ。ひひゃひゃ!」
どうやらどちらを選択しても、赤い煙としてはよかったみたいだ。だとすれば攻撃しても防がれていたか、大きなダメージは見込めなかったのかもしれない。
だがそれでも、赤い煙にダメージを与えるチャンスだったことには間違いなかった。
しかしだとしても、アルハイドの魂を手に入れたのは、間違いではなかった気がする。
それにアルハイドの言葉通りだとすれば、これでアルハイドが復活することができる可能性があった。女王も、きっと喜ぶはずだろう。
俺はそんな風に、この選択が正しかったのだと、自分自身にそう言い聞かせた。
すると俺が思考加速の中でそう思っている間に、赤い煙は続いて、あるスキルを発動させる。
「じゃあいくぜぇ! これだけあれば、十分だぁ! メモリーリバイバル!」
「!?」
そうして赤い煙が発動させたスキルは、俺の配下の偽物を作り出した、あのスキルだった。おびただしい数の魂が生贄になったのか、全てが跡形もなく消えていく。
この魂たちは、生贄用でもあったのか。アルハイドの魂を一つ奪うのが限界だったことが、悔やまれる。
赤い煙に所有権がある魂を無理やり奪うのは、実際かなり難しかったのだ。
だがそう思ったとしても、それはもう後の祭りだった。俺と赤い煙のちょうど中間に、それが現れる。
なんだ……こいつは……。
それは、茶色のぼろいローブを身に纏う、人型の何かだった。背は低く、腰は曲がっているように見える。顔の部分は暗黒に染まっており、何も見えない。
加えて鑑定を発動しても、簡単に弾かれてしまった。ここまで容易に対処されたのは、初めてかもしれない。明らかに、普通の存在ではなかった。
やばい。何だかよく分からないが、とにかくやばい気がする。
「……」
あの赤い煙ですら言葉を発せず、沈黙していた。
赤い煙はいったい、何を作り出したというんだ? 俺の配下の偽物のことを思えば、この存在も偽物だろう。だがあれほどの魂を生贄にしたのであれば、弱体化せずに本物に近い再現度の可能性もある。
どちらにしても、このヤバさは普通ではない。本能が、危険だと告げていた。直感ですらも、今すぐ逃げろと警告してくる。
だがそれでも、俺は動けなかった。何かスキルによって、動けないというわけではない。目の前の存在から、どういう訳か目が離せないのだ。
そうしている間に、謎の存在がゆっくりと動き出す。ローブの中から皺だらけで枝のような、紫色の右手が現れる。
爪は全て尖っており、悪魔の手のようにも思えた。またその中の人差し指を、俺へとゆっくりと向けてくる。
対して俺は、まるで金縛りにあったかのような体をなんとか動かして、できる限りの防御方法を行った。
そうして謎の存在から、老爺の声と共に、何かが発動する。
「……ソウルマイニング」
「――!?」
結果としてそれは、俺の発動した防御を難なく突破してしまう。俺の意識が、深い深い闇へと落ちていく。だがその間際に、耳元で老爺の声が聞こえてきた。
「君は、君の起源を知るべきだろう。それが、大きな“カギ”となる。これは、あやつへの罰なのだ。偽物とはいえ、私はもう退場している。それなのにあやつのせいで、本物が目覚めてしまったではないか……」
起源……退場……目覚め……?
どういうことなのか思考を巡らす前に、俺の意識は完全に途切れるのだった。
これにて、第九章は終了です。
すごくいいところで終わってしまいましたが、実は文字数が既にだいぶ超過しているんですよね。このまま進むと、この章だけで二十万文字を軽く超えるのは確実です。
私は基本的には本一冊程度で区切ることにしているので、『続きが気になる!』というところですが、一旦ここで切らせていただきます。タイミング的に、ここしかなさそうだったので。
そして次のちょうど第十章で、アンデット大陸編がいよいよ終わる可能性が高いです。長かったアンデット大陸編も、終わりは近いですね。
またこの作品の重要な何かが、判明するかもしれません。そんな次の第十章を、どうぞお楽しみに!
あとは第九章についての語りは、活動報告の方に載せるので、気になる方はそちらをご覧ください。
それとカクヨムにて☆5,000とPV500万突破記念のSSを、毎日二話、合計十四話投稿します。
加えてこの七日間を、いつも通りプロットの調整と私の休暇として頂こうと思います。なので第十章のスタートは、6/2を予定しています。
ちなみにこのSSは元々カクヨムのサポーター様用に書いていたものなので、ストックがあります。ですのでSSの更新を止めても、第十章の更新が早くなるということはございません。申し訳ないです。
そういうわけで引き続き、『モンカド』をどうぞよろしくお願いいたします。
<m(__)m>
乃神レンガ




