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倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~  作者: 乃神レンガ
第九章

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342 ジンアレクVS赤い煙 ④


 俺は目の前の出来事に、驚きを隠せない。だがそれもすぐに、落ち着きを取り戻す。


 道中に出てきたタヌゥカたちも、こうして作られたのかもしれない。しかし実際、これは厳しいな。どれだけ再現されているのかは不明だが、面倒なことになった。


 そう思いながら、配下の偽物たちのステータスを素早く覗いていく。すると、そこであることが判明した。


 なるほど。完璧に再現されているようでは、ないみたいだな。


 見た限り、いくつかの重要なスキルなどが欠如している。だとすれば、本物よりは弱いのかもしれない。


「どうだどうだぁ? 驚いたかぁ? ひひゃひゃ! どうやら鑑定したみたいだなぁ? こいつらは確かに本物よりはスキルは弱いけどよぉ、基礎能力自体は、本物と近いんだぜぇ?」


 その言葉に、俺は苦虫を嚙み潰したような表情になる。どう考えても先ほどのナイトメアレイスよりも、やっかい極まりなさそうだったからだ。


 加えて偽物とはいえ、配下と同じ姿をしているのが気にくわない。


 レフやアンク、ルルリアの偽物を倒すにしても、嫌な気分になるだろう。ただゲヘナデモクレスはいずれ決闘することが決まっていたからか、そこまで抵抗は感じない。


 嫌な気分になったとしても、これはやるしかないよな。


 俺は不快感を(あら)わにしながらも、配下の偽物を迅速に倒すことに決める。


 行くぞ。


 そうしてまずは闇雷瞬歩(あんらいしゅんぽ)でアンクの偽物に急接近すると、ゴッドネイルを発動して一撃で倒す。


 複合スキルの大部分とエクストラ、そして神授スキルのないアンクの偽物は、Aランクほどの実力しかなかった。故に、倒すのは容易い。だがその瞬間、俺の心がチクリと痛む。


 偽物とわかっていても、キツイものがあるな。


 俺がそう思っていると、そのタイミングでレフの偽物が、チェインダークライトニングを放ってくる。


 これは闇雷虎(やみらいこ)に内包されているスキルの一つであり、素早い闇の雷撃を相手に当てると、近くにいる敵にもそれが繋がるように伝播(でんぱ)していくものだった。


 だがそれに対して俺は、蓄闇電(ちくあんでん)を発動させる。これも闇雷虎(やみらいこ)に内包されているスキルであり、闇雷属性を問答無用で吸収して溜め込むことができるものだ。


 ちなみに、闇属性と雷属性のどちらか片方だけだと、吸収はできない。自分のスキルで闇雷属性を溜め込むのが、本来の使い方だったりする。


 そうして溜め込んだエネルギーを、横から迫ってくるゲヘナデモクレスの偽物に対して放つ。


放闇電ほうあんでん!」

「!?」


 この放闇電ほうあんでんは、蓄闇電(ちくあんでん)で溜めたエネルギーを一気に解放する攻撃魔法だ。瞬間的な威力は、かなりのものである。


 ゲヘナデモクレスの偽物はそれを喰らい、後方へと吹っ飛んでいく。


 ふむ。ゲヘナデモクレスに関しては、スキルどころか基礎能力も本物よりかなり低いな。もしかしたら、偽物の強さには上限があるのかもしれない。


 そう考えると、タヌゥカの偽物や俺の偽物などは、かなりの完成度だったな。もしかして似て非なるものなのだろうか? 神授スキルのようなものも使っていたし、色々と条件が違うのかもしれない。


 そんなことを思いながら、続けてレフの偽物をセイントカノンで消し飛ばした。


 ちっ、分かっていても、きついなこれは……。最悪の気分だ。


「ひひゃひゃ! 仲間と同じ姿をしているのに、呆気なく倒すとか、お前は血も涙もないやつだなぁ! ひひゃひゃ!」


 俺が偽物の配下と戦っている姿を見ていた赤い煙が、楽しそうにそんな笑い声を上げた。


 そういうことか。これは、精神的なダメージを目的としたものだったのだろう。


 だとすれば、早急に心を落ち着かせるべきか。あれは、単なる偽物だ。倒したところで、気に病む必要はない。


 するとそんな風に俺が心を落ち着かせるのと同時に、新たな偽物が現れる。


「!?」


 それはなんと二体目のゲヘナデモクレスの偽物であり、なぜか見慣れない槍を持った状態で迫ってきていた。


 先ほどの偽物を倒しきれなかったのか? いや、それでもこの現れ方は普通ではない。であれば、二体目か!


 俺はとっさに、ゴッドネイルで迎え討とうとする。だがそれを待っていたかのように、赤い煙が石の鎖を作り出し、俺の動きを一瞬縛る。


 イリュージョンマジックは、こんな芸当まで可能なのか!


 俺はそれに驚きながらも、即座にその束縛を引き千切る。だがその一瞬が、大きな隙に繋がってしまう。


 既に目の前まで、ゲヘナデモクレスの偽物が接近してきていた。


 しかしそれでも諦めずに、俺は思考加速の中で引き伸ばされた脳内時間を駆使して、対策を考え始める。


 偽のゲヘナデモクレスの槍が、怪しく光っているように見える。おそらくアレは、防御貫通のペネトレーションスピアだろう。


 ならここは物理無効で霊体化して、やり過ごすべきかもしれない。

 

 そう思い実行に移そうとするが、同時に直感が働いた。それこそが、赤い煙の狙いだと。


 物理無効による霊体化には、魔法に弱くなるという弱点がある。だからこそ、この戦いでは実体化をしていた。


 故に俺は直感に従い、物理無効の発動を見送る。


 だとすれば他に、どうするべきだろうか。攻撃魔法? いや、近すぎる。バリアー? 物理貫通の攻撃と相性が悪い。バリアーは魔法だが、物理的な側面がある。


 ならアポーツで武器を奪う? だめだ。可能性はゼロに近いだろう。しっかりと握っており、既にスキルを発動している。アポーツはそんな都合のいい魔法ではない。


 であれば、このままゴッドネイルで迎え撃つか? 可能性は、半々といったところになるだろう。無理にでも間に合わせれば、赤い煙に隙を(さら)すことになりそうだ。


 ならやはりここは、無難にテレポートステップでの回避一択だろう。


 思考を加速した脳内で、俺はその答えに辿り着く。だが、そんな時だった。思わぬ事態が発生する。


「グォオオ!」

「な!?」

「!?」

「ひひゃひゃ!」


 なんとグインがゲヘナデモクレスの偽物の真横に現れると、そのまま胴体を(あぎと)で挟み込んだ。


 突然の出来事に、俺も驚きを隠せない。それはゲヘナデモクレスの偽物もそうであり、赤い煙に至っては楽しそうに笑い声を上げていた。


 そしてグインは(あぎと)強化(大)と元から強い噛む力、更には狂化を発動して力を引き上げる。


「グォオオオオ!」

「!?」


 結果多くのスキルが無く、基礎能力も本物よりも低いゲヘナデモクレスの偽物は、その胴体をグインによってかみ砕かれた。そしてやられたことにより、幻のように消え去っていく。


「グォオオ!」

「――!」


 またグインの攻撃は、これで終わりではない。俺が放闇電ほうあんでんで致命傷を与えていた一体目に、全力のウォーターブレスを放つ。おそらくほぼ全ての魔力を込めていたからか、見事にそれを倒してみせた。


「グォオオオオ!!!」


 そしてやり遂げたと言わんばかりに雄叫びを上げると、グインは狂化を自力で解除した上で、即座にカードへと戻ってしまう。


「……」

「ひ、ひひゃ、ひひゃひゃ! 面白れぇ! 面白れぇじゃねえか! 何だよそれ! 今の奴、イレギュラーモンスターだよなぁ? 流石同類だぜぇ! 恨みを果たした。目的を遂げた。そんな喜びを感じたぜぇ? 俺様、そういうのは大好物だぁ! 気に入ったぜぇ! ひひゃひゃ!」


 赤い煙にとって今の出来事は、とても好ましいことだったみたいだ。笑いが止まらず、グインへの絶賛が止まらない。


 そんな中で、俺はグインの行動理由を推察していた。


 たぶん一番の目的は、ゲヘナデモクレスへの復讐だろうな。初めてゲヘナデモクレスが現れた時、グインは一撃で消し飛ばされている。


 そのことはグインにとって、最も苦い記憶だったのだろう。しかしグインとゲヘナデモクレスの実力は、正直離れすぎている。


 まともに戦えば、グインの敗北は避けられない。故に偽物とはいえ、スキルが少なく弱体化している今がチャンスだったのだろう。それを、グイン自身本能で感じ取ったのかもしれない。


 もちろんそれに加えて、ピンチである俺を助けるという気持ちもあったとは思う。実際テレポートステップで回避はできたかもしれないが、その後に赤い煙が仕掛けてくる可能性は高かったかもしれない。


 だとすればグインがカードから勝手に出てきたことは、悪くない結果だったと思う。


 というか、グインもレフのように勝手に出れたのか……。これまでは、それを隠していたのかもしれない。


 またもしかして、他の配下もそれができるのだろうか? まあそれについては、今は考えなくてもいいだろう。頭の痛くなる問題だが、それは未来の俺に託すことにする。


 それよりもここで、赤い煙の勢いのペースを乱せたことが大きい。若干ここまでは、俺の方が押され気味だった。故に流れをこの辺りで、変えなければいけない。ならばここで、手札の一枚を切ることにしよう。

 

 俺は魂の集まる場所で荒ぶるゲヘナデモクレスを(なだ)めながら、次の行動へと移し始める。


『あの駄鰐(だわに)めぇ! この屈辱(くつじょく)、たとえ偽物だったとしても、忘れぬぞ!!』


 そして新たな火種がここに発生したが、今は状況的に、俺は気づかない振りをするのだった。



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