341 ジンアレクVS赤い煙 ③
「いてぇなぁ。何だそのスキル? 聖属性じゃないよなぁ? 意味わかんねぇ。それによ~。お前、闇冥属性が効いていないだろぉ? 隠しているみたいだけどよ~。流石にあれだけダークレインが命中していれば、嫌でもわかるぜぇ」
怒るかと思いきや、赤い煙は予想外にも冷静である。更に闇冥属性が効かないことについても、気がついたみたいだ。
またどうやら、神属性については知らないらしい。これまで神力を含めて目にする機会があったのかもしれないが、聖属性と思っていたのだろうか? あるいは、別のスキル効果と考えていた可能性がある。
「それによぉ~。サイコウェーブは確実に貫通したはずなのに、どうやってやり過ごしたんだぁ? 今ごろ狂乱しているはずなのによぉ」
加えてカルトスガードにも、気がついていないみたいだ。赤い煙にとって、あれは予想できない回避方法だったのだろう。
「さてな。自分で考えろ」
「そうかよぉ。教えてくれなくても、別に構わねぇ。だがなぁ。俺様が使える属性がそれだけだと思ったら、大間違いだぜぇ! ひひゃひゃ!」
「!?」
すると突然俺の目の前に、火の津波が現れて押し寄せてくる。
火属性だと?
俺はとっさに半円状のバリアーを展開して、やり過ごす。今度は大きさも調整できた。
しかしそう思ったのも束の間、今度は石の槍が地面から生えて内側からバリアーを破壊する。
「ぐっ」
それにより一瞬だけ火の津波に飲まれるが、テレポートステップで空中へと移動すると、翼を羽ばたいて宙に浮く。
「ひひゃひゃ! まだまだ続くぜぇ!」
「なに?」
赤い煙が言う通り、続いて上空からとてつもないダウンバーストのような突風が起こり、俺を火の海へと押し込もうとしてくる。更に周囲からは、水の杭がいくつも飛んできた。
地属性に風属性、それに水属性まで使えたのか!?
俺はそのことに驚きつつも、テレポートステップを駆使してその場から抜け出すと、距離をとる。
冥王の体躯で全属性と物魔に強い耐性があるはずだが、思ったよりもダメージがでかい。
込められた魔力が莫大だとしても、これは少し異常だ。まさか今使った属性が、全て得意ということはないだろう。
それに適性が無くても他の属性を使えるといえば、生活魔法がそれに該当する。だが生活魔法に、ここまでの威力が出せるはずもない。魔力を込めればどうにかなる規模ではなかった。
だとすれば戦闘版の生活魔法のような何かを、赤い煙は所持しているのかもしれない。どちらにしても、闇冥属性で攻撃されるよりは面倒だった。
「ひひゃひゃ! 驚いたかぁ? これはなぁ。イリュージョンマジックという幻属性の上級魔法だぜぇ。火、水、風、地の属性を模した魔法を発動することができるってわけだぁ。
それによ~。属性は変わるが、扱いは幻属性のままになるんだぁ。この意味がわかるかぁ?」
なにやら嬉しそうに、俺が気になっていたことを赤い煙が暴露する。これは俺を舐めているのか、それとも言ったところで何も変わらないと思っているかのどちらかだろう。
それに赤い煙は幻属性の魔王だ。当然幻属性は得意であり、幻属性を強化する何かを持っている可能性が高い。つまりその効果が、適用されているということになる。
本来適性の無い属性を、幻属性と同じように扱えて、また強化もされるという訳か。にもかかわらず、攻撃された側の俺はその変換された属性ダメージを受けることになる。そういうことなのだろう。
これは、面倒なことになったな。俺には神力と神属性の攻撃があり、向こうには他属性に変換した幻属性攻撃がある。どちらにも、有効打がある状態ということだ。
それに赤い煙には、ターンセイントもある。もしかしたら、他にも隠し玉があるかもしれない。
するとそう思ったのと同時に、赤い煙が次なる一手を打ってくる。
「ひひゃひゃ! 更にここで俺様の眷属を召喚するぜぇ! 出てきやがれぇ!」
「ちっ、眷属召喚か」
眷属召喚は、ボス系モンスターがよく使うスキルだ。問題は赤い煙が使った場合、どれほどの眷属が召喚されるかということになる。俺は現れるモンスターへと、警戒を強めた。
そして赤い煙の眷属召喚によって、それは次々に現れる。
やはり、レイス系か。
現れたのは紫色のレイスであり、顔はハニワに似ている。ただその目と口は深い闇のようであり、見ているだけで気が触れてしまいそうなおぞましい何かがあった。
俺は鑑定を発動させると、思考加速を併用して素早くその内容を確認してみる。
種族:ナイトメアレイス
種族特性
【悪夢の亡霊】【闇属性適性】
【サイコショック】【シャドーステップ】
【シャドーランス】【ダークネスチェイン】
【絶隠密】【生魔ドレイン】【生命感知】
【闇属性耐性(大)】【精神耐性(大)】
【魔力上昇(中)】【魔力操作上昇(中)】
名称:悪夢の亡霊
効果
・対象の夢の中に入り込むことが可能。
・夢の世界ではあらゆる効果が上昇する。
・睡眠や夢に関連する効果を上昇させる。
・このスキルは以下のスキルを内包している。
【幻属性適性】【スリープ】【フィアー】
【ナイトメア】【ペイン】【フェイク】
【夢喰い】【物理無効】【物理干渉】
見た限り、Aランクのモンスターだろう。まさか眷属召喚で、ここまで強いモンスターが出て来るとは……。
だがスキル構成的に、俺の相手にはならないだろう。闇冥属性は無効にできるし、精神耐性も極大で持っている。更に称号効果も合わさって、夢の世界に落とされる可能性は低い。
また残念なのは眷属召喚故に、カード化ができないことだろう。
そして単体なら別に相手ではないが、問題はその数になる。見た限り、100や200ではない。もしかしたらそれは、1,000以上いるようにも思えた。
Aランクモンスターが、1,000体以上か……。
相性的には問題ないとしても、流石にこの数は面倒だ。
少し前までAランクモンスターは、希少な相手だったんだが……まるでAランクモンスターのバーゲンセールだな。
酷いインフレを見たと思いながら、俺はセイントカノンを撃っていく。今の俺の力なら、一度に十数体巻き込んだ上で、一撃で倒すことが可能だった。相性的にも、聖属性がよく効くというのもある。
しかしそれでも、数が多い事には変わりない。合間合間に飛んでくる赤い煙のイリュージョンマジックも加わり、じわじわと俺の体力が削られていく。
「ひひゃひゃ! どうだぁ? 数と質で攻められる気分はよぉ~? これって、お前の得意技だよなぁ? おかわり自由だから、遠慮しなくてもいいぜぇ~。ひひゃひゃ!」
そう言って、ナイトメアレイスを倒した先から赤い煙が補充していく。
くっ、赤い煙の魔力量は底なしか。一向に途切れる様子がない。であれば、対処方法を変えよう。ナイトメアレイスを、一度に多く消し飛ばせばいい。
故に俺は、使用する魔法を変更する。
「質? 数は多いがそんなもの、どこにもいないだろ。雑魚をいくら召喚しても無駄だ。喰らえ、ダークデストラクション!」
そう言って俺が使ったのは、ゲヘナデモクレスのスキルだった。紫黒の炎によって、広範囲への破壊が巻き起こる。
闇属性に強いナイトメアレイスであるが、ダークデストラクションは火闇冥属性による三属性攻撃だ。軽減するにしても、限界があるだろう。
もちろん赤い煙のような馬鹿げた魔力量があれば、一属性のシールドでも防げた可能性はある。だがナイトメアレイスには、そもそもそういったシールド魔法はない。
結果としてその身に直接攻撃を受けたナイトメアレイスたちが、一度に数百体単位で消し飛んでいった。
更に各方位にも同時に発動させ、一気に壊滅させていく。流石の赤い煙も、これには召喚が間に合わないようである。
「まじかよぉ。Aランクモンスターが、ザコ扱いかぁ……まぁ、俺様も雑魚だと思っていたから、どうでもいいけどなぁ! ひひゃひゃ!」
負け惜しみなのか、赤い煙がそんなことを言う。だが実際次の言葉で、赤い煙にとってナイトメアレイスが、その程度の存在だったことが明らかになった。
「それによぉ。こいつらは、単なる時間稼ぎだぁ。本命は、こいつらだぜぇ! メモリーリバイバル!」
するとその瞬間、新たなモンスターが姿を現す。だがそのモンスターを見て、俺は言葉を失ってしまう。
「なん……だと……」
現れたモンスターは、レフ、アンク、ルルリア、そして、ゲヘナデモクレスの四体だった。




