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倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~  作者: 乃神レンガ
第九章

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330 勇者パーティの最後


「まさか、本当に叶えてくれるとは思わなかった」


 ヤミカの第一声はそんな言葉であり、俺が勇者たちの魂を回収できるかは、かなり賭けの部類だったのかもしれない。


「とりあえずはこれで、完遂ということでいいか?」


 俺は背後の三人が気になることもあり、先にそう問いかける。


「ん。約束は約束。お兄ちゃんたちの魂を解放したら、僕はこのままおとなしく消える」


 よかった。どうやらヤミカも、約束は守ってくれるみたいだ。


 しかし俺がそう思った時、やはり危惧(きぐ)していたことが起きる。


「待ってくれ。ヤミカの魂も解放してくれないか?」


 するとこれまで黙っていた勇者が、そう割り込んで言ってきた。その言葉の端々には、どこか抑え込んでいるであろう怒気が漏れ出ている。


 勇者の言いたいことは理解できるが、それは到底受け入れられることではない。


「無理だ。こちらは既に願いを叶えている。報酬の踏み倒しは認められない」


 俺がそう言うと、勇者は納得できないのか反論をしてくる。


「くっ、だがヤミカの力が無ければ、そもそも倒せなかっただろ! それだけでメリットがあったはずだ! それに、お前は俺たちを殺しただろ! それを飲み込んで、こっちは譲歩をしているんだ!」


 こいつ、本気でそう思っているのだろうか? まあだからこそ、面と向かって言えたのか……。だとしたらこういうタイプは、非常に面倒くさい。


「許すも何も、俺たちは最初から敵同士だろ。恨むのは勝手だが、お前に許されることに意味などはない。

 それにお前たちだって、俺の力が無ければ永遠にあのままだったことを、全く理解していないのか? たとえ俺がお前たちを殺さなくても、いずれはフレッシュゴーレムになっていたと思うぞ?」


 俺の言葉に対して、勇者が射殺すように(にら)みつけてくる。


 つい言い返してしまったが、このままだと不味いな。最悪報酬を踏み倒された上で、全力でこちらの妨害をしてきそうだ。


 幸い俺の協力がなければ、勇者たちの魂を解放することはできない。なので、逃げられることはないだろう。


 するとそこで、聖女が会話に加わってきた。


「ねえ、私の魂をあげるから、ブレイブを復活させてくれない? もちろん邪魔なんてしないし、おとなしくしているわ。それならそっちも神授スキルが手に入るし、十分得するでしょ?」

「セーラ!?」


 勇者は聖女の言葉に驚きの声を上げるが、俺としてはとても魅力的な提案だった。しかしそれは、実のところ現実的ではない。


 なぜなら聖女の魂を喰らったところで、おそらく神授スキルを取得できないからだ。


 その理由は、魂を喰らう者の称号に答えがある。 



 名称:魂を喰らう者

 効果

 ・この一度に限り、喰らった主の神授スキルを得る。

 ・〇〇〇〇資格を得る。

 ・魂捕食系統のスキル効果が大幅に上昇する。

 ・魂捕食、吸収、干渉系統のスキルに対して、耐性(大)を得る。

 ・魂捕食によるデメリットを緩和する。



 この通り神授スキルを手に入れられるのは、ヤミカの魂を喰らった時の一回だけなのだ。


 その事を、俺は聖女に伝えた。


「残念だが、そういう訳でお前の魂を喰らっても、神授スキルを得られることはない。こいつの復活は不可能だ」

「……そう」


 この空間では、お互いに嘘をついているかどうかが分かる。故に聖女は酷く落ち込みながら、静かに引き下がった。


 聖女の神授スキルが手に入るなら欲しかったが、これについてはどうしようもない。


 またそれを聞いた勇者は、どこかホッとしたような表情と、残念そうな表情が入り混じった顔をしていた。

 

 おそらく聖女が犠牲になるのを避けられたが、代わりに自分が生き返る可能性が(つい)えたからだろう。


 するとそんな中、次に提案してきたのは女戦士だった。


「じゃあいつでも好きなときに、あたしがあんたにサービスするっているのはどうだい?

 あんたがムラムラした時、この場所で色々と相手をするよ。だから、ヤミカも解放してほしいんだけど、だめかい?」

「なっ!? そ、それだけは許さないぞ!!」


 勇者は反対すると同時に、俺に怒りの表情を向けてくる。だが勇者の怒りは、杞憂(きゆう)にほかならない。


 正直俺としては、全くもって迷惑な提案だったからだ。それに神授スキルと比べたら、全然それは釣り合ってはいない。


 一応女戦士は褐色で長身の美人だが、正直興味は無かった。性癖がどうとかではなく、俺はこの世界に来てから、そういった欲求がそもそも薄いのである。


「悪いが、その提案は受け入れられない。ヤミカの神授スキルの方が、正直価値が高いからな」

「そうかい。まあ無理だとは分かっていたよ。あんたはどうやら、鳥に欲情するみたいだからね」

「は?」


 女戦士の言葉に、俺はついそんな声を出してしまう。


「アンクって名前だっけ、そいつから色々と聞いているよ。ダーリンはあーしにメロメロで、いつも一緒に寝てるって言っていたはず。

 噓じゃないことはこの場所だと分かるから、あたしもそれには流石に驚いたよ」


 続けて言われた女戦士の言葉に、俺は頭が痛くなる。


 な、なんてことを言いふらしているんだ。アンクの思い込みと、抱き枕にしていることが変な風に誤解されているじゃないか。


 というか、アンクは何でこの場所に出てこないんだ?


 すると脳内に、『あーしがこの空間を維持しているの! だからダーリンの近くにはいけない!』という返事がきた。


 魂関連のスキルは元々アンクのものだと考えれば、納得はできる。ただあいつらに変なことを吹き込んだことについては、後で(しか)る必要がありそうだ。


 ちなみに勇者たちは、俺に対してどこか変態を見るような視線を向けてきていた。


 なので一応俺は弁明をして、誤解を解いておく。幸い嘘をつけない空間なので、どうにか信じてもらえた。


 そうして話は振り出しに戻り、勇者によるヤミカの魂を解放しろという要求が、再び出てくる。


 しかしそこで、ようやくヤミカが待ったをかけた。


「お兄ちゃん、もういいよ」

「だ、だが」

「約束は約束。それに要求を求め過ぎたら、向こうがお兄ちゃんたちの魂を消しちゃうかもしれない。僕は、それだけは絶対に嫌だ」

「ヤミカ……」


 ここまで勇者たちの言葉を見守っていたヤミカだが、流石に自分の魂の解放は無理だと悟ったのだろう。


 逆に俺が怒って勇者たちの魂を消すかもしれないという、そんな不安を抱いたのかもしれない。


「それに来世か来来世、その更に先で、またきっと会えるはず。だから先に行って、僕を待ってて」


 ヤミカの言葉に、勇者は唇をかみしめる。少しの間口を開こうとしては閉じて、葛藤をしていた。


「ブレイブ……ヤミカを信じましょう」

「あたしも、セーラと同じ気持ちだ」


 するとそんな勇者に、聖女と女戦士が落ち着かせるように触れて、(なぐさ)める。


 勇者は二人にそれぞれ視線を向けた後、一度大きく息を吐いてから、ようやく覚悟を決めたように口を開いた。


「……ああっ、わかった。俺たちは、この先で待っている。絶対、絶対ヤミカをまた見つけてみせるからな!」

「うん。お願い」


 そう言ってヤミカは、勇者たちに優しく微笑んだ。


 俺はそんな感動的な場面に遭遇しながらも、同時にあることを思う。


 たぶん勇者は、ヤミカがこのままアンクの中で溶けるようにして消滅することを、全く知らないのだろう。


 でなければ、その提案に乗るはずがない。なんとしてでも、ヤミカの魂を解放させるために動いたはずだろう。そうなれば、俺との対立は避けられない。


 故にこれは予想なのだが、ヤミカはそれを危惧(きぐ)したからこそ、あえて教えなかったのだと思われる。アンクもその情報を、渡さなかったみたいだ。


 それにたとえ来世があるとしても、そこにヤミカが加わる可能性は低い。その魂自体が、この後アンクの中で消滅してしまうのだから。


 なんだかこの場面だけ見ていると、俺が凄く悪者に思えてしまうな。


 あとは勇者たちがここまで落ち着いていたのは、きっと来世があると信じていたからだろう。


 この世界に来たこと自体が転生みたいなものだし、魂の存在もこうして証明されている。


 それに本来人が死を怖がるのは、全くの未知だからだ。記憶をこのまま保持できるかは不明だが、何かしらの次があることについて、勇者たちは確信をしているのかもしれない。


 まあそう思わなければ、精神的にどうにかなってしまうというのもあるだろう。


 俺はそんなことを思いながら、四人の感動的な場面を眺めるのだった。


 そうして四人が落ち着きを取り戻すと、本来の約束通り、勇者たちの魂を解放することが決まる。


 またその代わりにヤミカの魂は、この後アンクの中で溶けて、そのまま消えてしまうことになる。だがそれについて、俺とヤミカが口に出すことはない。


 すると最後だからか、勇者が俺に声をかけてきた。


「正直お前のことは絶対に許せないが、これだけは言っておく。本物の魔王を、どうか倒してくれ。お前以上に、あいつだけは許せないからな」


 勇者は赤い煙が本当の魔王だとここで知ったのか、俺に託すようにそう言ってくる。


「ああ、元から倒すつもりだから、言われなくてもそうするつもりだ」


 すると堂々と言う俺に対して、どこか(くや)しそうな表情をしながら、勇者はポツリポツリと何かを(つぶ)く。


「やっぱり俺は、この世界の主人公じゃなかったのかもしれないな。だとしたら、この世界の本当の主人公はお前だったのだろう。流石にチートすぎて、疑いようもない」

「?」


 よく聞き取れなかったが、主人公やチートがどうとか言っていた。勇者の中では、この世界は物語かゲームの中のような感じだったのかもしれない。


 そうしてその後、最後に四人がそれぞれ別れの挨拶を交わす。涙を流し、抱き合いながら別れを惜しんでいた。


 けれどもそんな時間もあっという間に過ぎ去り、いよいよその時が来る。


「ん。じゃあ、お願い」

「ああ、わかった」


 準備が整ったので、俺はヤミカに合図を出されると、意識を集中していく。


 そして勇者ブレイブ、聖女セーラ、女戦士アネスの三人の魂を、それぞれ解放していった。


「ヤミカ、来世で待っているからな!」

「絶対にまた会いましょうね!」

「あたしたちの代わりに、魔王を倒してくれよ!」


 三人は最後にそう言うと、光に包まれて消えていく。


「ん。また会おうね」


 ヤミカも三人に向けて、再会を約束する言葉を送った。しかしそれと同時に、一筋の涙が(こぼ)れ落ちる。


 おそらくその約束がヤミカ自身、叶わぬものだと分かっているからだろう。


 そうして勇者たちの魂は天に帰り、この場には俺とヤミカの二人だけが残る。


 静寂(せいじゃく)の時が流れる空間で、俺は気がつけば、こんな言葉を放っていた。


「邪魔をしないのであれば、消滅しなくても構わない」

「え?」

「それといつか必要無くなったときか、あるいは神授スキルと魂を引きはがせるようになれば、ヤミカの魂も解放しよう」


 俺の言葉に、ヤミカは唖然(あぜん)とする。まさかそんな提案をされるとは、思いもよらなかったみたいだ。


 しかし俺としても、今の光景を見てヤミカを消すほど非情にはなれない。このままヤミカを消すのは、俺も気分がいいものではなかった。


 それに先ほどからアンクが脳内で、ヤミカの魂を消滅させることに対して強く反対をしていた。


 アンクとしても、色々と思うところがあったのだろう。


 加えて元々魂の消滅云々(うんぬん)は、ヤミカが(みずか)ら申し出たことだ。


 故に俺としてもおとなしくしてくれるのなら、別に魂の消滅まで求めることはしない。


「あ、ありがとう……」


 するとやはり魂の消滅は怖かったのか、ヤミカがポロポロと涙を流し始める。


「別に、礼を言われるほどのことではない。俺たちの邪魔をしなければ、それでいい」


 ヤミカは俺の言葉を黙って聞いてから、小さく頷いた。


 これなら今後邪魔することは、おそらくなさそうだ。とりあえずはこれで、勇者関連のことは決着したと考えてもいいだろう。


 そうして役目を終えたからなのか、この空間が揺らいでいく。終わりの時が来たみたいだ。


「あなたとは、もっと別の出会い方がしたかった。そうすれば、この結果も変わったのに……」


 すると最後に、ヤミカのそんな言葉が耳に届く。

 

 その悲しそうな声色を聞いて、俺はあることを思った。


 もし塔のダンジョンで普通に出会っていれば、共闘していた未来も、訪れていたかもしれないな。


 けれどもその代わりに、女王やヴラシュと敵対していた未来に辿り着く可能性もある。


 全てが都合よく行くことなど、簡単には実現しない。現実とは、とても非情なものだ。


 しかし同時に、ふと思う。勇者パーティと共闘して、女王たちとも手を取り合う。そんな未来も、実はあったのかもしれないと。


 選択の一つ一つで、大きく変わってしまうものだな。今後はもう少し、人と対話することも考えた方がいいのかもしれない。


 そうして俺はどこか歯がゆさを覚えながらも、その意識が現実へと戻っていくのであった。



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