326 ファントムワールド ⑤
「魔゛王゛コ゛ロ゛ス゛!」
フレッシュゴーレムは相も変わらず、猪突猛進にこちらへと向かってくる。
現状ではバリアーで何とか防げているが、そろそろフレッシュゴーレムも、別の攻撃方法をしてきてもおかしくはない。
なのでその前に俺は死魂霊鳥に内包されているスキル、魂看破を発動した。
これは鑑定のスキル効果も含まれているが、本質は相手の魂を外側から見ることができることである。
たとえ絶隠密を発動していても、おそらく防ぐことはできない。そんな優れたスキルだった。
そして魂看破でフレッシュゴーレムを見れば、その異常さが浮き彫りになる。
見れば体の中央に、三つの塊が球状に無理やり合わさったような魂があった。おそらくこれが、勇者たちの魂だろう。
ただその魂からまるで湯気のように何かが漏れ出しており、それが体の中で血液のように流動している。
おそらくこの湯気は、自己崩壊による継続ダメージによって、剥がれ落ちている魂片だろう。
不完全な勇聖なる冥戦の効果で、『一定のダメージを受けるたびに、魂が剥がれ落ちて弱体化していく。また末端のスキルから使用不可能になっていく』とあったはずだ。
それが剥がれ落ちても何故か体内に残り続けているので、体外への流出を防がれている状態だった。
これがもし体の外に漏れ出ているようであれば、魂奪や魂庫で奪うことができたかもしれない。だがそれができない以上、何か他に方法を考える必要がある。
しかし幸いなのは、体内に魂が全て残っていることだ。戦いながら漏れ出た魂を回収する予定だったが、その場合多少は取り切れずに失われていた可能性がある。
俺がヤミカとの約束で確約するのではなく、協力すると言った理由はここにあった。剥がれ落ちた魂を、全て回収するのが困難だったと最初から思っていたからである。
けれどもこうして体内に残っているのであれば、全て回収できる可能性があるかもしれない。
俺はそう思いながらも、次にその魂を奪う方法について考え始める。
さて、とりあえず魂が全部残っているのは判明したが、どうやって奪おうか。確かヤミカは、融合が完了すればその方法が分かると言っていたが……。
するとそう考えた瞬間、ある情報が脳内に流れ込んでくる。それは盗賊の極意の隠し効果であり、流動しているのであれば、魂でも奪えるというものだった。
これは流動しているならモンスターの魔石を奪える隠し効果の、延長上のものだと思われる。
ただし奪えることには変わりないが、直接攻撃時に一定の確率という条件はそのままだ。そして奪ったとしても、本来魂をこの神授スキルでは、どうすることもできない。
だがそれについては、別に問題は無さそうである。アンクの魂庫があれば、奪った直後に収納することができるという訳だった。
おそらくヤミカの言っていた勇者たちの魂を解放するための方法とは、このことだったのだろう。
アンクからフレッシュゴーレムの情報を得ていたのであれば、魂が剥がれ落ちることも知っていたはずだ。
もしかしたら先にフレッシュゴーレムに対して、アンクが魂看破を使用していたのかもしれない。
だったら俺にも情報共有をしてほしかったが、そのときは状況やタイミングが合わなかったのだろう。また俺の熟考を、アンクなりに邪魔をしないようにしていたのだと思われる。
そして結局こうして目の前に現れたので、俺が直接魂看破を使用することに繋がったのだろう。まあそれについては、今更気にしても仕方がない。
問題は直接攻撃をする必要があるのと、倒した瞬間、即座に魂が消滅してしまうことだ。
前者は何とかなるかもしれないが、後者はどうしようもない。魂庫に入れれば、消えずに残るのだろうか? いや、確信が持てないな。
そもそも全部奪い切る前に、フレッシュゴーレムを倒してしまうかもしれない。その場合魂庫の中身に影響が無いとしても、奪う前の魂は消滅してしまう。
これは、難しい問題に直面してしまった。とりあえずそれについては、現状戦いながら考えるしかない。
まずはこの隠し効果が実際に使えるか、試してみる必要がある。
俺はそう思いタイミングを計ると、テレポートステップでフレッシュゴーレムの背後に回り込んだ。
そして爪による連続攻撃を行うと、即座にテレポートステップで離脱する。
「コ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!」
フレッシュゴーレムの裏拳が高速でくり出されたが、何とか命中する前に事は済んだ。
ふむ。本当に奪えたな。魂看破で見れば、フレッシュゴーレムの体内にある剥がれ落ちた魂片が無くなっている。
また奪った瞬間に自動で魂庫に収納できるようで、時間的なロスも無い。
ただ問題なのは、今の攻撃が全く効かなかったことだろう。爪で斬り裂くはずが、少し傷をつけるだけで終わってしまった。
もしかしたらこの爪自体に、闇冥属性が付与されているのかもしれない。
過去にレフとの融合の時も、装備は全てシャドーアーマーが元になっていた。であれば今回も、爪も含めて全部がカオスアーマーを元に作られているのだろう。
相手の属性耐性を考えて通常攻撃をしたのだが、これは少々考えものである。
それに加えて七毒の爪で状態異常を付与しようとしたが、やはり無駄のようだ。状態異常無効でも適応外のものがあると考えたのだが、そう上手くはいかない。
ちなみに七毒の爪の効果は、このようになっている。
名称:七毒の爪
効果
・爪での攻撃時に一定の確率で、対象に以下の状態異常をランダムで与える。
【猛毒】【麻痺】【眠り】
【呪い】【衰弱】【病】【腐食】
また元々フレッシュゴーレムがアンデッド系だとすれば、そもそも状態異常が効きにくいというのもあったかもしれない。なんとも、やっかいな相手である。
それと耐性を抜きにしても、フレッシュゴーレムは硬かった。まるで弾力のあるゴムに対して、切れ味の悪い刃物を使い引っかいたような感触である。
加えてあのときの裏拳も、実はかなり危なかった。命中していたら、そのダメージはおそらく計り知れない。それくらいの脅威を感じた。
これは、想像以上に強敵だ。たぶんフレッシュゴーレムはスキルが無くても、素の能力自体がずば抜けている気がする。攻撃するにしても、強力な一撃が必要になりそうだ。
するとここで、フレッシュゴーレムが新たな動きを見せ始めた。
「ラ゛イ゛ト゛ア゛ロ゛ー!!」
「!?」
それは、単なる下級光属性魔法。だが、その数が異常だった。まるで万の矢が降り注ぐかのように、こちらへと次々に飛んでくる。
更に一本一本が、とても太い。槍とまではいかないが、普通の矢よりも明らかに巨大だった。
俺はそれに対してバリアーとテレポートステップで回避するが、神経をかなり使うことになる。
「魔゛王゛コ゛ロ゛ス゛!」
加えてこの上空から降り注ぐ光の矢の雨の中、フレッシュゴーレムはライトアローを新たに何度も発動させながら、構わずこちらへ突っ込んできた。
当然フレッシュゴーレムにも命中するが、そもそも光聖属性攻撃無効である。
フレッシュゴーレムがそれを理解して行ったかは不明だが、理にかなった攻撃方法だった。
俺はそんな中回避しながらダークスモッグを展開すると、次にドッペルシャドーを発動させる。そして俺自身は、絶隠密を使って気配を断った。
すると少しして、破壊音が耳に届く。見れば俺の分身は遠くの壁にめり込み、そのまま地に倒れてしまう。
加えて腹部には巨大な穴が見えたので、何か攻撃を受けたのだろう。結果として、分身は消えてしまった。
能力値が減少した分身とはいえ、こうもあっさりやられるとは……。
おそらく光の矢を回避しながら、フレッシュゴーレムの攻撃をやり過ごすことが、できなかったのだと思われる。
それと俺が想像していた以上に、フレッシュゴーレムの与えるダメージは大きいのだろう。
様々なバフや特殊な効果が積み重なったことで、その攻撃威力は異次元の上昇をしているみたいだ。
防御力には自信があったのだが、これでは分身ではなくとも、大ダメージは避けられないだろう。
ただ分身はいくつか強力なスキルを制限されているので、同じ通りになるとは限らない。
しかしそれでもフレッシュゴーレムの攻撃を直接受けるのは、避けた方がいいだろう。
これは状況次第では赤い煙と戦う前に、フレッシュゴーレムに敗れる可能性も出てきたな。
けれども当然ここで、負けるわけにはいかなかった。なんとしてでも、フレッシュゴーレムに勝たなければいけない。この状況を打破する方法が、きっとあるはずだ。
俺はフレッシュゴーレムの強さを脅威に感じながらも、諦めずに勝ち筋を模索し始めるのであった。




