316 城のダンジョン ㉘
「ぬぅ? 勇者共が既にやられているではないかッ!!」
するとゲヘナデモクレスは死亡している勇者たちに気がつき、そう声を上げる。
「一足遅かったなぁ~。本当はもっと時間を稼げると思ったんだが、あの鎧使えねぇなぁ。
でもよ~。何かおかしくないかぁ? お前、どうして強くなっている?」
対して赤い煙は、ゲヘナデモクレスにそう言いつつ、どこか警戒心を露わにした。
俺としても、なぜゲヘナデモクレスが強くなっているのかについて、気になっている。
「ふはは、それは簡単だ。我がジルニクスを吸収し、力に変えたからである。貴様、自身の配下にもかかわらず、何も気がつかなかったのか?」
ジルニクス? 吸収? 言葉の意味は理解できるが、疑問が尽きない。本当に、何があったのだろうか。
「ひひゃひゃ。面白れぇ。なるほどなぁ。でもよ~。吸収なんかして、魂の方は大丈夫かぁ? 安易に力を得ると、後々大変なことになるぜぇ。
それとよ~。俺様はこれでも魔王だからなぁ。配下との繋がりを元に、居場所を発見される訳にはいかねぇんだぁ。だからよ~。こちらから繋がりを断つことで、それを実現しているんだぜぇ」
なるほど。つまり赤い煙は自身の居場所を見つけづらくする代わりに、配下に何かあっても、あまり気がつかないのだろう。
それと吸収が魂に影響を与えるというのは、思ったよりも重要な情報かもしれない。
これは融合にも、当てはまりそうだ。以前俺がレフと融合した後、性格に少し変化が現れたことにも、関係していそうである。
「ふん。そんなことは、十分承知しておる。だがその影響は皆無だと、そう断言しよう。我は我のままである。貴様が気にすることではないっ!」
色々気になるところではあるが、ゲヘナデモクレスがそう言うなら今は信じよう。
後々面倒なことにはなりそうだが、強くなったことは現状プラスに働くに違いない。
「ひひゃひゃ。そうかぁ。面白れぇ。俺様、お前にも興味がわいてきたぜぇ。でもよ~。力を得たからって、調子に乗り過ぎだぁ。
俺様に余裕で勝てるとか、勘違いしてないかぁ~? それに、まだ俺様と戦うには、早いぜぇ?」
「なに?」
「!?」
すると赤い煙がそう言った瞬間、周囲の死体が消えたかと思えば、一か所に集まる。そこには当然、勇者たちのものも含まれていた。
これから何か起きるのは、どう見ても明らかだ。故に俺は、セイントカノンを反射的に放つ。
だがその攻撃はまるで幻を攻撃したかのように、そのまま通り抜けてしまった。離れた床を破壊しただけに終わる。
「おいおい。焦るなよぉ。ここからが、楽しい楽しい時間だぜぇ!」
そして次の瞬間、死体の山はピンク色をした醜い肉の巨人へと変貌していた。肉体はまるで皮を剥いだ容姿であり、体からは蒸気のようなものが僅かに発生している。
更には体の内から溢れるようにして、ドロドロとした体液が滴り落ちていた。また歯茎はむき出しであり、瞼の無い赤く血走った目が怪しく光っている。ちなみに、頭髪や性器等は見当たらない。
そんな身長およそ5mで筋骨隆々な全裸の巨人は、その容姿も相まって、化け物と言っても過言ではなかった。
俺は当然のように、鑑定を飛ばす。もしかしたら通らないかとも思ったが、意外にもあっさりと内容を知ることができた。
種族:不完全な勇聖なる冥戦のフレッシュゴーレム
種族特性
【闇冥属性適性】【闇冥属性耐性(極大)】
【光聖属性攻撃無効】【超速再生】
【生命感知】【悪臭】【自己崩壊】
神授スキル
【勇者の聖光】【聖女の慈愛】
【大戦士の本能】
エクストラ
【不完全な勇聖なる冥戦】【ボスモンスター】
【魂への楔】【言語マスター】【鑑定】
【無属性適性】【ストレージ】【連撃】
【気配感知】【超直感】【パワーアップ】
【ヒール】【キュア】【ライトアーマー】
【ライトシールド】【セイントアロー】
【セイントヒール】【状態異常無効】
【身体能力上昇(特大)】【魔力上昇(特大)】
【魔法耐性(特大)】【魔封じ耐性(大)】
スキル
【上級生活魔法】【上級鑑定妨害】
【再生】【集団行動】【集団指揮】
【念話】【投擲】【威圧】【悪食】
【手加減】【シールド】【衝撃波】
【チャージ】【スピードアップ】
【強撃】【ブーメランアックス】
【ワイルドアックス】
【フルスイングアックス】
【ライトアロー】【ライトシールド】
【ライトスペース】【ライトレーザー】
【ライトオーラ】【ライトウェーブ】
【ライトベール】【ライトクラッシュ】
【ハイヒール】【マインドヒール】
【クイックヒール】【ディジィーズヒール】
【エリアヒール】【ハイキュア】
【セイントカノン】【セイントシールド】
【ホーリーエンチャント】【ホーリーオーラ】
【ターンアンデッド】【リジェネーション】
【リカバリー】
【身体能力上昇(中)】【斬撃強化(中)】
【精神耐性(大)】【自然治癒力上昇(中)】
【魔力上昇(中)】【魔力操作上昇(中)】
称号
【勇者】【聖女】
「な、なんだこのステータスは……!?」
あまりの情報量に、俺は思わず声に出してしまう。
神授スキルが三つに、勇者に聖女の称号だと? これはどう考えても……。
すると俺が驚く姿が面白かったのか、赤い煙が笑い声を上げる。
「ひひゃひゃ! どうだ! これこそが、俺様の最高傑作だぁ! 時間があれば、もっと凄いのができたんだが、それだけが残念だぜぇ~。
でもよ~。今でも十分の力を持っているはずだぁ! 何といっても、四つの神授スキルを持つモンスターだからなぁ! ひひゃひゃ!」
ん? 四つ?
俺はその言葉に、違和感を覚える。
待てよ、このモンスターが所持しているのは、勇者の聖光、聖女の慈愛、大戦士の本能の三つだけだ。一つ足りない。
だとすれば名称からして、足りなくなっているのは明らかだ。間違いない、斥候の少女ヤミカの神授スキルだけが存在していない。
俺がそのことに気がついている間も、喋りたがりの赤い煙は、楽しそうに語り続ける。
「上質な冒険者どもを生贄にできたことで、これは実現したんだぜぇ。特に無双のゼンベンスは、素材として最高だぁ!
それに神授スキルだけではなく、エクストラや通常スキルも引き継いでいるはずだぜぇ~。しかもエクストラに関しては、被りがあればランクアップしているはずだぁ!」
赤い煙の話を聞きながら、俺は周囲を確認していた。しかし斥候の少女ヤミカの姿は無く、気配も感じられない。
やはりあのとき、アンクが倒したのは間違いないのだろう。本来なら転移者を倒した事でポイントが手に入るが、まだ戦闘中である。
これが終わるまで、アナウンスが入ることはない。だとすれば原因は、一つしかないはずだ。
俺はそう思い、原因となっているアンクのステータスを覗き込む。
種族:レイヴンホロウ(アンク)
種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(中)】
【死魂霊鳥】【死鎌霊鳥】【七毒の爪】
【爪強化(中)】【再生】【瘴気生成】
【魔力感知】【魔力操作上昇(中)】
【魔力上昇(中)】【状態異常耐性(中)】
【シャドーネイル】【シャドーサイス】
神授スキル
【盗賊の極意】
エクストラ
【エリアボス】
【フュージョンモンスター】
スキル
【鷹の目】【声真似】【魔法耐性(大)】
【シャドーステップ】
称号
【魂を喰らう者】
んんん?? まじかこれ……。こいつ、喰ってやがる。
アンクのステータスには、なぜかヤミカが所持していたであろう神授スキルが存在していた。
加えてその原因を示すかのように、【魂を喰らう者】という称号が増えている。
とりあえず原因を知るために、俺はその称号効果を確かめることにした。
名称:魂を喰らう者
効果
・この一度に限り、喰らった主の神授スキルを得る。
・〇〇〇〇資格を得る。
・魂捕食系統のスキル効果が大幅に上昇する。
・魂捕食、吸収、干渉系統のスキルに対して、耐性(大)を得る。
・魂捕食によるデメリットを緩和する。
色々気になる部分はあるが、とりあえずアンクが神授スキルを手に入れたのは、ヤミカの魂を喰らったことが原因で間違いはなさそうだ。
アンクは死魂霊鳥というスキルを所持しており、その中には魂奪、魂喰いというものが存在している。
あのときアンクは倒したヤミカの魂を魂奪で手に入れると、そのまま魂喰いで捕食したのだろう。
そういえば作戦時に可能であるならば、アンクには敵の魂を奪うように言っていたんだった。
しかしそれと同時に、食べるなとも言ってはいない。アンクは進化前からちゃっかりしているところがあるので、自己判断でそのまま食べてしまったのだろう。
結果的に、これはどうなるんだ? 【魂捕食によるデメリットを緩和する】という項目があるが、アンクは大丈夫なのだろうか?
とりあえず見た限りは、いつものアンクのようだった。しかし俺もレフと融合したことで変化があったし、性格面に何か出るかもしれない。
あとは【〇〇〇〇資格を得る】というのも気になる。だが今は状況が状況だ。これについては、いずれ考えることにしよう。
そして今のうちに、アンクが手に入れた神授スキルの効果についても確認をした。
名称:盗賊の極意
効果
・高度な罠と鍵の感知、解除が可能になる。
・様々な気配を感知し、遮断も可能になる。
・毒の無効化及び、毒の製作が可能になる。
・偽装を看破し、強力な偽装が可能になる。
・直接攻撃時に持ち物を一定の確率で奪う。
・この神授スキルは、以下のスキルを内包している。
【短剣適性】【アイテムボックス】
【幸運】【鑑定】【暗視】【忍び足】
【宝感知】【罠作成】【地図作成】
【身体操作上昇(大)】【技量上昇(特大)】
やはり、多彩なことができる神授スキルだったようだ。その代わり、決定打には欠けているかもしれない。
しかし仲間の中に一人いれば、確実に頼りになるだろう。所持スキルもこれに合わせることで、斥候としては最高峰の役割を熟すことができるはずだ。
実際戦闘中は、とてもやっかいな相手だった。あのヤミカという少女がいなければ、戦闘はもっと早く終わっていたことだろう。
故にアンクがこの神授スキルを手に入れたことは、とても大きい。相性もかなり良いはずだ。これは、今後が期待できるだろう。
そうして俺がアンクのステータスを確認している間も、赤い煙は喋り続けていた。
「女戦士の魂が気になるかぁ? あれは事前に回収しておいたんだぜぇ! その横で生き返らそうとか言っていた勇者は、お笑いだったなぁ! ひひゃひゃ!」
愉快そうに語る赤い煙は、まだ神授スキルが一つ欠けていることに、気がついていないみたいである。であれば、まだ余裕がありそうだな。
俺はその隙に、フレッシュゴーレムのスキルの詳細も確認するのだった。




