314 城のダンジョン ㉖
レフが戻ってきたおかげにより、俺は勇者パーティへと戦いを集中することができる。
相手は勇者、聖女、斥候、ゼンベンスの四人だ。もちろん赤い煙についての警戒も忘れない。
その中でまず誰を倒すべきかだが、やはり回復役の聖女だろうか。聖女を倒せば、デバフの解除も消えてなくなる。
しかし勇者側も、それは理解しているだろう。聖女は一番安全な配置におり、誰かが常にサポートに入ることが可能な形だった。
であれば次に邪魔な、斥候の少女を倒すべきか? 鑑定を無効化する何かを所持しているみたいだし、それ以外にも何をするのか分からない。
だが斥候故に、回避行動は上手いだろう。その隙に、他の者の攻撃を受ける可能性がある。
特に勇者の攻撃は、俺に致命傷を与えるかもしれない。それにゼンベンスも、タンク系のスキルを有しているだろう。一筋縄ではいかない。
なるほど。勇者パーティを相手にするのがやっかいな理由が、なんとなく分かった気がする。
とりあえずは、様子見の一撃を放ってみよう。戦いを見ていたとはいえ、実際の実力差はこの手で確かめてみたい。
俺はそう思いながら勇者パーティ全体に向けて、セイントカノンを放つ。
「セイントカノン」
だがそれと同時に、勇者パーティも対応した動きを見せる。
「セイントシールド!」
「ワイドシールド!」
聖女が聖なるシールドを発生させ、ゼンベンスが範囲防御スキルを発動させた。
セイントカノンはそれに命中すると、爆発を引き起こす。だがその攻撃は、相手の防御スキルに阻まれて、失敗に終わる。
勇者パーティはおろか、聖女のセイントシールドを破壊することもできなかった。
まあ、そうなるか。聖属性が得意そうな相手に、聖属性のセイントカノンは効かないようだ。
「な!? 何で魔王が聖属性を使えるんだ!? 聖属性は、正義の属性だぞ!!」
するとその攻撃を見て、勇者が驚きの声を上げる。どうやら勇者にとって、聖属性は特別なものらしい。
元々聖属性は、勇者と聖女が使っていた属性らしいので、そう思ってしまうのも無理はないだろう。
だが聖属性は冥属性も含めて、とても希少というだけで、勇者と魔王専用の属性という訳ではない。
それに聖属性なら、ルルリアも使えたはずだ。もしかして、気がつかなかったのか? それとも、納得した上でスルーしていたのだろうか?
「ブレイブ、気を付けて! こいつのセイントカノン、威力だけなら私のものに匹敵するわ!」
「な、なんだって!? 魔王なのに、聖女であるセーラの聖属性攻撃に匹敵するなんて、嘘だろ!?」
「なら、俺の防御だけだと厳しかったかもしれないな。これは、気を引き締めた方がよさそうだ」
「ん。直撃したら、僕だと危ないかも」
ふむ。今のが聖女の攻撃と同等の威力なら、魔力量や操作能力などに関しては、こちらに分があるな。様子見故に、威力はかなり抑えめに撃っていた。
それに俺は現状、ダンジョンの制限を受けている。スキルはともかく、身体能力や魔力などといった基礎能力を完全に発揮するには、ある程度のダメージを受ける必要があった。
また俺は全種族特攻や、転移者の天敵の称号も所持している。
名称:全種族特攻
効果
・全種族に与えるダメージが50%上昇する。
名称:転移者の天敵
効果
・転移者に与えるダメージが50%上昇する。
・転移者から受けるダメージが50%減少する。
・転移者を殺害した際のポイントが倍になる。
つまり転移者に限れば、俺は常に二倍のダメージを相手に与えることが可能であり、逆に受けるダメージは半減するのだ。
ただそれでも属性相性という観点からすれば、聖属性攻撃であるセイントカノンは、有効打にはなりそうにはない。
故にここで問題になるのは、俺に攻撃手段が乏しいことになるだろう。
この戦いでは、流石に生活魔法は威力不足な上に効率が悪すぎる。加えて追尾の瞬弓も、この場面では不適格だ。
単独対複数で弓を使う隙は、中々訪れないだろう。それに使い慣れていない弓よりも、普段使っている双骨牙の方が戦いやすい。
結果としてこの戦いで主に使えそうなのは、双骨牙に内包されている双撃と双連撃、そしてカオスアーマーの技だけになる。
もちろん場合によっては生活魔法や瞬弓を使うこともあるかもしれないが、可能性は低いだろう。
そう考えると、思ったよりも攻撃手段が少ない。だが俺のスキル構成はどちらかといえば万能型なので、仕方のない面もある。
だが攻撃手段に関しては、今後増やしていった方がいいかもしれない。実戦でこれを理解できたのは、収穫だろう。
すると俺がそう思っているのと同時に、背後に気配が突然現れる。しかしそれを普通に攻撃したのでは、俺の隙に繋がってしまう。
故に俺はカオスアーマーに魔力を送ると、蛇腹剣を彷彿とさせる尻尾を巧みに動かして、その相手を貫く。
「む?」
だがその感触に、何となく違和感を抱く。実際それと同時に感触が消えると、気配が近くへと転移している。
そしてそれを見越した行動だったのか、その転移した相手、斥候のヤミカはスキルを発動し終えていた。
「シャドーバインド」
発動した闇属性魔法である束縛が、俺に纏わりつく。
「ライトレーザー!」
「ショットスラッシュ!」
「アスポーツ」
「ッ! ショットスラッシュ!」
更にそれに合わせるようにして、四つの攻撃が飛んでくる。
シャドーバインド自体は簡単に抜け出すことはできたが、相手の連携は巧みであり、タイミングが完璧だった。
結果として回避が間に合わないと判断した俺は、防御態勢に移り、その攻撃を受け止める。
聖女のライトレーザー。勇者とゼンベンスのショットスラッシュ。そしてなぜかもう一人いるヤミカのアスポーツ。
またアスポーツは物体移動スキルなのか、毒液のようなものが俺に降り注ぐ。
「ぐっ」
そしてこれほどまでの一斉攻撃を受けたのは、初めてのことだった。
故に俺はそれなりのダメージを受けてしまう事を、覚悟する。
ん?
だが結果として、思っていたよりも軽傷で済んでいた。多少のダメージはあるが、それも再生の種族特性スキルで治り始める。
また毒液に関しても、状態異常耐性(特大)を所持していたからか、全く効果が現れてはいない。俺は自分で考えていたよりも、頑丈だったみたいだ。
そして俺もやられっぱなしではない。攻撃を受けながらも意識を集中させ、無数に召喚していたザコモンスターの一体に召喚転移を発動させる。
召喚転移を発動するには多少の時間と集中力が必要だが、こうしてダメージを受ける前提で意識をすれば、使えないこともない。
結果として召喚転移を無事に発動させると、俺は位置的に狙いやすく、やっかいな相手に目星をつける。
そしてカオスアーマーに魔力を込めると、瞬く間に俺は距離を詰めるのに成功した。加えて同時に、スキルを発動させる。
「双連撃」
「!?」
「え?」
「なに!?」
「ヤミカぁ!!」
俺が双骨牙で斬り裂いたのは、斥候のヤミカ。完璧に攻撃は決まり、仕留めたと俺は感じた。
だがその瞬間、近くに転移するかのようにして、もう一人のヤミカが現れる。それを目にした俺は、ある既視感を覚えた。
これは……間違いない、自称ハイエルフの一人、あのボンバーが使ったスキルに酷似している。だとすれば、爆発するかもしれない。
俺はそう考えると、即座に距離をとる。だがその斬り裂いた偽物が爆発することはなかった。その代わりに、幻のようにして姿を消す。
どうやら、爆発するのはボンバーの時だけのようだ。もしかしたら、他のスキルを同時に発動させていたことで、爆発していただけかもしれない。
そして確かこのスキルが発動する回数は、一回のはずだ。ボンバーの時が、そうだったはずである。
しかしその瞬間、ある違和感を覚えた。
それはシャドーバインドを使った、もう一人のヤミカについてである。
あのとき背後に現れた存在に対して攻撃を行ったが、何か違和感がしていた。
既に消えてなくなっているみたいだが、おそらく偽物に変わるスキルが発動したのだろう。
そしてその効果で転移して、シャドーバインドを放ったことになる。
またシャドーバインドを放ったヤミカ以外にも、勇者側にもう一人存在していた。
つまりあの瞬間、斥候の少女ヤミカは二人存在していたのである。
やっかいなのは、ボンバーも一度しか使用できなかったあのスキルを、それぞれ使用できたことだろう。
そのことから分かるのは、ヤミカは何らかのスキルで分身が可能であり、なおかつ分身もスキルを使用できることだ。
一応闇属性魔法にドッペルシャドーというスキルがあるが、あれは確か簡単な攻撃系スキルしか使用できなかったはずである。
時間があるときに城の図書館で読んだ本に書かれていたので、間違いない。
もしかして、これも神授スキルの効果だろうか? だとすれば、できることがいささか多彩すぎるな。
ゲシュタルトズンプフの魔石を盗んだり、鑑定や鑑定の妨害もしていた。そこに分身も加わっている。
他にも隠し種があるかもしれないし、やはり先に倒しておいた方がいいかもしれない。
幸いそれぞれが身代わりのスキルを発動したのであれば、次は確実に仕留められるだろう。ただこれは、ボンバーと同じスキルだった場合になる。
俺がそう分析をしていると、突然勇者が怒りの声を上げた。
「許さない、許さないぞ! 例え身代わり人形のスキルで無事だったとしても、お前がヤミカを殺そうとしたことには変わりない! 特別な鎧を纏えるのが、お前だけだと思うなよ! ライトアーマー!」
そう言って純白の全身鎧に身を包んだ勇者が、俺に突撃してくるのだった。




