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032 タヌゥカの本性

 そういえばタヌゥカは、異性好感度上昇(大)というエクストラを持っていたな。


 勝手に発動するパッシブ効果だと思っていたが、意図的に発動することもできるのだろう。


 エクストラだし、そうした隠し効果があってもおかしくはない。


 特にタヌゥカはハーレムを囲っているし、そうした関連スキルの解析には手を抜かないだろう。


 だが結果として、それをプリミナに見抜かれたらしい。


「私はね、昔貴族のブ男に魅了系スキルを使われたことがあるの。あの時は危うく貞操を失いそうになったわ。それからは性格も見た目も好みではないのに、好感度が突然急上昇する際は気をつけているの。ねえ、魅了系スキル使ったでしょ?」


 プリミナの言葉は優しい雰囲気だが、目が笑っていない。あれはかなりキレている。


「な、何のことですか? そんなスキルを使っているわけないじゃないですか! 誰か鑑定スキルを持っていませんか? 鑑定して確かめてくださいよ!」


 タヌゥカは焦ってそう言うが、ここに俺がいることを忘れていないか?


「コイツは偽装スキルでスキルを偽っている。異性好感度上昇(大)というスキルを持っているぞ」

「なっ!? お前! 嘘を言うんじゃぁない!」

「嘘なわけないだろ? そもそもお前が先に俺を鑑定したから、お返しに鑑定したんじゃないか。偽装スキルを突破したら、お前が驚いて尻もちをついたのを今も覚えているぞ」

「なっ!」


 すると俺の言葉を聞いて、周囲に変化が訪れる。


「それは本当か? いや、確かにおかしい。なぜ私は、タヌゥカに惚れたんだ? 見た目は好みじゃないし、先ほどの言動も最悪だ。客観的には全く好みじゃない」


 女性冒険者は額を抑えて、冷や汗をかき始めた。


 その女性のパーティメンバーたちも、同様だ。


 しかし、取り巻きの一人が擁護をしはじめた。


「そんなわけないわ! だってタヌゥカは、暴漢に襲われそうなところを助けてくれたもの! それに、突然消えた父の代わりに母と妹の面倒を見てくれているのよ!」

「そうだ! 俺は正義の味方だ! 嘘をつくわけないじゃないか!」


 タヌゥカが笑みを浮かべてそういうと、もう一人の取り巻きに異変が起きる。


「ご、ごめんなさい。あの暴漢、タヌゥカさんが雇ったんです。父親も、タヌゥカさんがボコボコにして手切れ金を渡して、追い払ったんです。黙っててごめんなさい」


 そう言って、もう一人の取り巻きが涙を流した。


「えっ……うそ、でしょ。恩人だから、私も、母も妹も、タヌゥカとxxxxしたのに……三人で同時にxxxもしてあげたし、他の女に手を出すのも協力したのに……」


 取り巻きの少女は、抜け殻のように地面へと座り込んでしまう。


「なっ、嘘だ! なんで君までそんな嘘を言うんだ! 最初に愛したのは君なのに!」

「……奴隷から解放してくれたことも、良い生活をさせてくれたことも感謝しています。魅了されたとしても、文句はありません」

「な、なら何で!?」

「けどどうしても、私がタヌゥカさんを独占できないのが、我慢ならないんです! ねえ、もうやめましょう? 私だけじゃ、ダメですか?」


 涙ながらに、少女は言った。


 これでタヌゥカが心を入れ替えれば、多少マシな終わり方になったのかもしれない。


 けど、そうはならなかった。


「ダメだ! 君は初めての相手だから置いているが、見た目も及第点だしスキルも微妙だ! 俺は選ばれた英雄なんだ! たくさんの優れた美女や美少女を囲う義務があるんだよ! この世界の主人公はこの俺だ!」


 もはや、呆れてものが言えなかった。


 こいつの考えていることが理解できない。このような人間がいるとは、驚きだ。


 それにこいつは気が付いていない。異性好感度上昇(大)で上昇するのは、あくまで好感度だけだ。好感度が下がらないわけではない。


 現に周囲の好感度は、駄々下がりだ。百年の恋も冷めるレベルだろう。


「そんな……」

「タヌゥカがこんな奴だったなんて……私、馬鹿すぎでしょ……」

「これは流石に、擁護できない。それに気持ちが悪い。タヌゥカ。私たちのパーティから出て行ってくれ」


 案の定、タヌゥカのハーレムは崩壊した。


「嘘だ。噓だ噓だ嘘だ嘘だ! なんで俺が追放されるんだ! 神に選ばれてチートを手に入れたんだ! おかしいだろ! そうだ。俺は悪くない。お前だ。お前が現れたから全てがおかしくなった。神に選ばれた存在は、俺以外にはいらない!」


 すると突然、タヌゥカが剣を抜いて勢いよく振るう。


 俺は直感で、近くにいたプリミナを抱えて横に飛ぶ。


「撃滅斬!」


 その瞬間タヌゥカの剣が輝き、力の奔流(ほんりゅう)が解き放たれた。


 轟音(ごうおん)と共に俺のいた場所が抉り取られ、後方数メートルまで影響が及ぶ。

  

 当然無関係の者たちが巻き込まれて、甚大(じんだい)な被害を発生させる。


 待て、俺の後ろには誰がいた?


 見れば、地面にはサンザだったものが僅かに散らばっていた。


 そして俺の斜め前にいたゲゾルグは、左腕と左腹部が吹き飛び、左足が千切れた状態で倒れている。


「いやぁああ!!」


 プリミナの嘆きが、周囲へと響く。


「ちきしょう、虫の知らせで嫌な予感がしていたのに、避け切れなかったぜ。俺なら、対処できると、驕っていたようだ……。ジン、すまねえ……逃げろ……」


 ゲゾルグは最後にそう言い残すと、息を引き取った。


 何でこうなった? どこで間違った? どうしてこうなる?


「くそが! 避けるんじゃねえ! チッ、溜が足りなかったか。だが、これで終わると思うなよ!」


 タヌゥカがそう吠える。


 そうだ。コイツを見逃していたのが、そもそもの間違いだった。


 結果として、俺は恩人を殺してしまったことになる。


 これでは、ゲゾルグが虫の知らせによって、俺を助けた意味がない。


 彼らにはまだ、助けてくれた恩を返せていなかった。


 こいつが憎い。自分が情けない。


 俺の中に、これまで感じたことのない感情が生まれる。


 すると突然、一枚のモンスターカードが俺の前に現れた。


 それはホワイトキングダイルのカードであり、光り輝く。


「なっ!? なんだよお前! それは何だ!」


 目の前の光景に、タヌゥカが叫ぶ。


 気が付けば俺の背には、ホワイトキングダイルの幻影が浮かんでいる。 


 ”怒れ、暴れろ、姑息な外道を許すな”


 そんな感情が、ホワイトキングダイルから伝わってきた。


 当然だ。コイツは今ここで、消さなければいけない。


 俺がその意思に、同意した瞬間だった。


 ホワイトキングダイルの種族特性である、狂化が発動する。


 俺の瞳が赤く光り、オーラが湧き上がる。


「シャドーアーマー」


 続けて咄嗟にシャドーアーマーを身に纏うと、一瞬でタヌゥカと距離を詰める。


「ひっ!?」


 そして突然の出来事に怯えるタヌゥカの首根っこを掴んで、俺はその場から駆け出すと跳躍した。


 ここで暴れては、コイツと同じになる。


 怒りで塗りつぶされそうな感情を抑えながら、俺は最も人が少なく、周囲への影響が出ない場所を探す。


 ちょうど良い場所があったな。


 俺は (そび)え立つ高い壁を簡単によじ登り、乗り越える。


 そして俺が着地した場所は、壁に囲まれた国境門の前だった。


 タヌゥカをゴミのように投げ捨て、声をかける。


「立て、無様に抗え! お前には地獄を見てもらう!」


 赤く光る瞳とオーラを纏い、漆黒の全身鎧とホワイトキングダイルの幻影を背負う俺は、正に魔王と呼ばれても遜色のない威圧を放っていた。


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