299 城のダンジョン ⑰
※モブメッツ視点です。
おっす! オラの名前はモブメッツ! Cランク冒険者だ!
闘技場での戦いが終わり、その場に置いていかれたオラたち中位冒険者。
少し休憩をとった後に、このダンジョンから脱出することを決めた。
しかし既に満身創痍の者も多く、脱出には犠牲が出ることは明らかだ。
けれどもオラたちはあの上位冒険者たちとは違い、仲間を見捨てないことを決めた。
そうして残った者たちで協力しながら、少しずつダンジョンの出入口を目指す。
オラはそんな中、比較的に傷も少なく斥候もできたので、最前線で安全を確保していた。
幸い罠類はほとんど残っておらず、再設置もされてはいない。加えてモンスターがほとんど現れなかったことが、助けになっていた。
またしばらくすると、驚くことに突然モンスターが一切現れなくなる。
これはいったい、何が起きたのだろうか?
周囲の冒険者たちも、この現象には驚きを隠せない。
もしかして、勇者様が魔王を倒したのだろうか? いや、流石にそれは早すぎる。どう考えても、旗が既に届いている距離ではない。
だとすれば、余計にこの状況の謎が深まった。しかし、オラたちからすれば、運が良い事には変わりない。
罠もほとんど残っておらず、モンスターも出ないとなれば、生きて脱出できる可能性が大きくなる。
オラたちはそうプラスに捉えて、進み続けた。そうしてあの砦の迷路まで、無事に戻ってくる。
砦の迷路は複雑だけど、冒険者の中にはマッピングをしていた者たちがいた。それにより、思ったよりも迷いなく進むことが出来ている。
更に迷路内にも、なぜかモンスターがいない。あとは罠も少し残っているけど、解除する際に襲撃がないこともあり、落ち着いて解くことができた。
またこの時オラたちは、迷路内の蔓を採取していく。理由はこの先にある巨大な落とし穴の底で、助けを待っている者がいた時のためである。
収納系スキルを所持している者もそこそこいたので、余裕で集まった。これくらいの量なら、あの高さでも底まで届くだろう。
すると、そんな時だった。
「た、助けてくれ……」
「!? だ、大丈夫か!」
助け声が聞こえて視線を向けると、仰向けの状態で倒れている人物が目に入る。
体中を蔓で拘束されており、右足は膝の少し下あたりから地面に埋まっていた。更に左足の膝には、矢が刺さっている。
幸い他に大きな怪我は見られないが、かなり衰弱しているのが見てとれた。
なので俺は一応警戒しながらも近づき、他に罠がないことを確認すると、その人物を助け出す。
またヒーラー冒険者にも手伝ってもらい、怪我を治してもらった。しかし時間が経っていたようで、膝に後遺症が残ってしまう。
これでは、走るのも辛そうに思える。けど命が助かっただけでも、運が良かったと言えた。
「た、助かった……だが、この矢を受けた膝じゃ、もう冒険者は続けられないな。もし生きて帰れたら、故郷の町で衛兵でもするしかなさそうだ」
そう軽く言っていたが、どこか哀愁がただよっていた。本心だと、かなり悔しいのかもしれない。
「じゃあその時は大冒険をしたことを、生涯酒の席で自慢できるな!」
「ああ、そうだな。勇者様の魔王討伐に参加できただけで、俺は満足だ」
あえてそう言ってやることで、少しは気分が落ち着いたようだ。
「ちなみにオラの名前はモブメッツ。Cランク冒険者だ!」
「よろしく、モブメッツ。俺の名はスカムだ。同じくCランク冒険者になる」
スカムと名乗った人物は、声からして三十代くらいの男性だろう。見た目は長っぽいフルフェイスヘルムと、革鎧を身に着けている。
また武器は長剣と丸盾、それと弓が多少使えるらしい。万能型の戦士といったところだろう。
ちなみにスカムはソロ冒険者であるにもかかわらず、方向音痴らしい。気がつけば、付いていっていた他の冒険者とはぐれてしまったみたいだ。
そうして彷徨うことしばらく、運悪く罠にかかってしまったらしい。結果最早これまでかと思ったところで、モンスターが消えたという。
あとはオラたちよりも先に冒険者の集団が通ったらしいが、助けてはくれなかったみたいだ。おそらく、旗を運んでいた上位冒険者たちに間違いない。
「そりゃ災難だったな。けど、もう大丈夫だ。オラたちと共に、このダンジョンを脱出しよう!」
「ああ、こちらからお願いする。戦力としてはあまり役に立てないかもしれないが、できる限りのことはしよう」
そうして、新たに戦士のスカムを仲間に加えて、オラたちは先へと進むことになった。
なおスカムは、最初に助けに動いてくれたオラに感謝しているらしい。なので隠し持っていたシュガーロールという、真ん中に穴の開いたお菓子をオラにくれた。
少し潰れてしまっているが、食べてみると吐きそうなほど甘い。けどせっかくの好意なので、オラはそのシュガーロールを食べ切った。
どうやらスカムは、かなりの甘党のようである。
それを見て、スカムは満足そうだった。どうやら故郷では人気のお菓子のようであり、盗まれるのを警戒しなければいけないほどのものらしい。本当だろうか?
オラはそんなことを思いながら、水を飲んで口の中の甘みを流し込むのだった。
◆
それからはなんの事件もなく、オラたちは大穴へと辿り着く。
周辺に冒険者は、一人も残ってはいなかった。もしかしたら、旗を運んでいる上位冒険者たちについていったのかもしれない。
一応念のため、大穴を覗き込む。そのとき光球を使える冒険者たちによって、暗闇が照らされた。
「……け……て」
すると大穴の底に、一人の人物が壁を背にして座り込んでいるのが見える。加えて何故かあれほどまでに満ちていた泥沼が、きれいさっぱり消えていた。
二つの意味で驚きながらも、オラたちはその人物を助けることを決める。
そしてここで役に立つのが、砦の迷路で集めておいた蔓だった。
蔓を一本の長い縄のように結び、代表者一名が救助のために自身の体にも結んでいく。
ちなみにその時の代表者は、なぜかオラになった。よく分からないけど、どうせお前が行くんだろ? という雰囲気になっていたのである。
大穴の底には何が潜んでいるのか分からないので、正直嫌だった。しかしだからといってそこで拒否してもいられないので、オラは諦めて代表者になる。
体に結んだ蔓縄に不備がないかを確かめた後、冒険者たちにゆっくりと降ろしてもらう。
そして何か襲ってくるということもなく、無事に底へと降りることができた。
「助けに来たぞ!」
「あり……が……とう」
見れば意識はあるが、かなり衰弱をしている。だが流血していることはなく、見た限りでは怪我はない。
おそらく緑色の神官戦士のような服装の見た目なので、自身で治癒系の魔法を使えるのかもしれない。
だとすればこれは、魔力欠乏症だろうか? オラにはそこのところ判断ができないので、他の知識のある冒険者に見てもらおう。
そう思いながら、オラはその人物の体に蔓縄を結び、後ろから抱きかかえるようにする。
これがもし女性冒険者なら役得だったのだけど、生憎彼は男性だった。若く、十代にも見えた。
そうして他の冒険者たちに引っ張り上げてもらい、無事に大穴から助け出すことに成功する。
また彼の症状を見てもらうと、どうやら魔力欠乏症に加えて、過剰回復状態らしい。
魔力欠乏症は、文字通り魔力が欠乏することで起きる症状である。そして過剰回復状態は、短期間で何度も治癒系魔法などを受けることで、起きてしまうみたいだった。
過剰回復状態になると、ほとんどの治癒系魔法やポーション類、薬品などを受け付けなくなるらしい。
加えて彼はどうやら軽い毒状態であり、血液不足にもなっているみたいだった。
怪我自体は自力で治したみたいだが、失った血液は戻らない。それに毒を治しきる前に、魔力欠乏症と過剰回復状態になってしまったのだと思われる。
つまり彼はこのままだと、死ぬ可能性がとても高かった。




