294 城のダンジョン ⑫
※ジン視点です。
俺はルルリアを通じて、勇者パーティの様子を見ていた。
ふむ。そう何度も上手くいくとは、限らないわけか……。
闘技場とは違い城門前での作戦は、予想外の展開から修正する必要が出てきた。
まさか、ゲシュタルトズンプフが勇者パーティの斥候に瞬殺されるとは……。
ゲシュタルトズンプフは魔石が破壊されなければ、早々にやられることはない。
だが逆に言えば、魔石を狙われれば格下にもやられてしまう。
正直ゲシュタルトズンプフの対処をするために、赤い煙が何らかの動きをすると思っていた。
魔石も半壊した建物の地下に隠させており、やって来る者への罠や、情報収集のためのアサシンクロウも潜ませていたのである。
しかし蓋を開けてみれば、勇者パーティの斥候のスキルで倒されてしまった。
加えてあの斥候には、ルルリアのステータスまで鑑定されてしまっている。これについても、かなりの予想外だった。
俺は配下の繋がりから、鑑定を妨害することができる。自分への鑑定を妨害するよりは質は落ちるが、それでも魔力量と技量から、大抵の相手には鑑定されない自信があった。
だがあの斥候は、一瞬でそれを突破したのである。エクストラスキルの鑑定だとしても、それは異常だった。
なのでそれから導き出される答えは、一つしかない。あの斥候の鑑定は、神授スキルが関係している。
けれども、鑑定特化の神授スキルというよりも、神授スキルの効果の一つとして、鑑定があるような感じがした。
理由はルルリアのエクストラスキルである、【セイクリッドモンスター】については効果を鑑定されずに済んだからである。
おそらく【セイクリッドモンスター】は、カード召喚術と特に関係性が深いエクストラスキルのため、鑑定が難しかったのだろう。
実際俺も鑑定の抵抗を試みた時、他と比べてとても簡単に鑑定を弾くことができた。
故にこれがもし鑑定特化の神授スキルなら、流石にここまで簡単なはずはないだろうと予想したのである。
つまりあの斥候の神授スキルは、鑑定もできるサポート系なのだろう。もしかしてゲシュタルトズンプフの魔石を奪ったのも、それと関係しているのだろうか? 何となく、全容が見えてきた気がする。
そしてここまで触れてこなかったが、鑑定が神授スキルであった場合、当然あの斥候は転移者ということだ。しかし、そこに驚きは無い。
前提として情報収集をしている時、何となくそんな気がしていたからだ。特に勇者については、転移者だと元より考えていた。
聞けば勇者は真っ白な場所で神から力を与えられ、この世界にやってきたのだという。
これは様々な場所で、勇者自らがそう公言していたらしい。
多くの仲間を集める際にそれがより、自身を勇者だと認めさせるために一役買っていたみたいだ。
加えてパーティメンバー三名も、同じように神から力を与えられた、導かれし者たちだという。
これを聞いて、俺がキャラクターメイキングをしたあの真っ白な空間を思い出したのは、言うまでもない。
故に俺は勇者とそのパーティメンバーに、強い警戒心を持っていた。
特に神授スキルには初見殺しがある可能性があるので、何よりも情報を得ることが重要だ。
もちろん勇者たちの神授スキルのヒントになるようなものは、情報収集の過程で得ている。
だが噂は所詮噂であり、この目で実際に見た方がいいと判断した。
その結果として、ルルリアを出してまで情報を得ようとしたのである。
また同時に赤い煙の情報も得られれば一石二鳥と考えていたのだが、それについては勇者パーティの斥候の活躍により、失敗してしまった。
そしてゲシュタルトズンプフがやられたことにより、他の冒険者の相手をしているボーンドラゴンたちが現在ピンチである。
流石にAランク冒険者が数多くいれば、ボーンドラゴンとキャリアンイーターがやられるのも、時間の問題だろう。
しかし元々ゲシュタルトズンプフが赤い煙の手によってやられてしまう可能性も考えていたため、次の一手も当然考えてある。
故に俺は指輪から女王へと合図を送り、それを実行してもらう。
すると城下町にいる全てのアンデッド系モンスターたちが、城門近くへと転移してくる。ザコばかりだが、その数は膨大だ。軽く一万は超えているだろう。
流石にこの数には冒険者側も、対応に追われて勇者たちの手助けをするのは難しい。
ダンジョン的には大赤字になる行為だが、どの道ルルリアの奥の手である【救いの歌声】を発動すれば関係なかった。
それでどのみち弱いアンデッド系が消滅してしまうのなら、ここで使うのがベストだろう。
加えて今は、この冒険者たちへの時間稼ぎができればそれでいい。ボーンドラゴンとキャリアンイーターも、生存優先で戦ってもらう。
ちなみに建物の屋根の上で、こっそりジョンが狙撃していたりする。何度か撃ったら移動させたりして、相手からの発見を遅らせていた。
また魔導ライフル銃に加えて、以前手に入れた泥毒弾の砲をジョンは使い分けている。
泥毒弾の砲は見た目が茶色と紫色のバズーカだが、【魔銃召喚】の適応範囲内だったようで、取り込むことができていた。
名称:泥毒弾の砲
説明
・装備中に限り、スキル【泥弾】【毒弾】を発動できる。
・この砲は時間経過と共に修復されていく。
・この砲は装備する者のサイズに調整される。
名称:魔銃召喚
効果
・取り込んだ銃火器を召喚できるようになる。
・取り込んだ銃火器は、自動的に修復される。
・取り込める銃火器の数は、魔力量に依存する。
・またこのスキルは、以下の銃スキルを内包している。
【銃適性】【ショット】【クイックリロード】
【クイックショット】【サイレントショット】
【三点バースト】【ホーミングショット】
更に泥毒弾の砲による泥弾と毒弾は範囲攻撃のようで、今回のように敵が多いとより効果が高くなる。
ちなみに味方のアンデッドが多少巻き込まれているが、消耗を前提に動かしているのでそれも許容範囲だ。
そしてジョンはこれでもBランクモンスターなので、次々に冒険者たちを倒していっている。
また強そうなAランク冒険者についても、魔導ライフル銃に持ち替えることで見事に倒していた。
やはり格上にも、魔導ライフル銃は十分に通用している。
名称:魔導ライフル銃
説明
・魔力を使用することで、魔力弾を発射する。
・魔力を一度に解放するバーストモードに切り替え可能。
・一定量の魔力を蓄えることができる。
・周囲から魔力を少しずつ収集する。
・装備中銃適性を得る。
・適性があればスキル【ショット】【サイレントショット】【三点バースト】が使用可能になる。
・上級鑑定妨害を自動で発動する。
・この銃は時間経過と共に修復されていく。
それにジョンの素の魔力量や技量が上昇したことで、魔導ライフル銃の威力も上昇していた。
故に単体なら魔導ライフル銃、複数なら泥毒弾の砲と上手く使い分けているみたいだ。
そしてキャタピラーモンキー時から引き継いだ糸吐きのスキルだが、ジョンは練習を繰り返して手からも出せるようになっていた。
結果アメリカのクモ男のヒーローのように、建物と建物の間を高速移動することも可能になっている。
そんな神出鬼没なジョンは、まるで熟練のゲリラ兵のようだった。
俺が思っていた以上に、ジョンは活躍をしている。なので冒険者たちについては、特に問題はないだろう。
ちなみに召喚していたグライスだが、もちろん大噴火のために、今もチャージを続けさせている。奥の手の一つとして、もしもの時は発動してもらおう。
すると俺がそちらに意識を向けている間に、勇者たちがルルリアと戦うことを決めたみたいだ。
ルルリアが勇者にセイントノヴァを放った時は驚いたが、やはり勇者は聖属性にとても強いらしい。
だがこれについては、おおむね予想通りだった。それよりも気になるのは、あの聖剣らしき武器である。俺の直感スキルが、アレは危険だと告げていた。
なのでリーフェのイリュージョンチェンジで盗むのもありかもしれないが、もとよりリーフェは赤い煙と戦う時のために、温存しておきたい。
正直鑑定を飛ばしたくなるが、前提としてここからはかなり離れている。流石に鑑定も届かない。
それに仮に鑑定ができたとしても、今こちらに感づかれるのは避けたかった。
故に聖剣の効果を知るためには、ルルリアが勇者の力をどのくらい引き出せるかが、とても重要になってくる。
そのために元々ルルリアにはこんなこともあろうかと、新たな武器を以前ハパンナダンジョンで手に入れた収納リングと共に渡していた。
名称:収納リング
説明
・魔力を込めることで、アイテムなどを収納することができる。
・容量は使用者の魔力総量によって決まる。
・登録者以外は使用することができなくなる。
・この指輪は時間経過と共に修復されていく。
ちなみに大きさは、生活魔法の調整で合わせている。それにより、銀色のぱっと見シンプルな指輪は、現在ルルリアの左薬指に付けられていた。
正直最初はなぜそこに付けたのかと思ってしまったが、言えば面倒なことになる気がしたので、何も言わないことにしている。
なので一見何も武器を持っていないルルリアであるが、実のところ収納リングの中に武器を隠し持っていた。なおその武器とは、当然剣である。
レッドアイから手に入れた剣適性を活かさないのは、もったいないと思っていたからだ。
そういう訳で勇者が仲間との会話を終えて一歩前に出た時、俺はルルリアに剣を抜くように命じる。
するとルルリアの四本ある腕の内の二本、上にある左右の腕が動いた。
まるで空中から抜くように、巨大な剣をそれぞれ取り出す。
俺とクモドクロ、そしてヴラシュによって作られたそれは、剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
斬るというよりも、押し潰すという言葉が正しい。そんな大雑把すぎた大剣である。
「なんだあの巨大な剣はッ!?」
「だ、大丈夫だ! ひるむ必要はない! 大きいだけで、俺の聖剣アルフィオンと仲間たちの力があれば、防ぐことは容易だ!」
ルルリアを通して、そんな声が聞こえてくる。ルルリアは巨体だが、かなり耳がいいのだ。
その言葉を発したのは、無双のゼンベンスと勇者ブレイブである。
言葉では強気だが、一瞬勇者もひるんでいたのを、俺は見ていた。だとすれば勇者の発した内容は、自分自身にも向けた言葉だったのだろう。
確かにルルリアのサイズに見合った大剣が二本抜かれれば、かなりの迫力である。
戦隊ヒーローの巨大ロボットが振り回す、巨大な剣くらいのサイズがあるかもしれない。
ちなみにルルリアの大剣は頑丈なのが売りであり、特殊な効果はほとんどない。ただそれだけを追求した、巨大な剣である。
しかしルルリアの巨体から繰り出されれば、それだけで尋常ではない破壊力を生み出す。
一度ボーンドラゴンと模擬戦をさせたら、ボーンドラゴンが大剣の一振りで潰されるように瞬殺されたのを、よく覚えている。
それくらいルルリアの繰り出す大剣の威力は、とても破壊力があった。
なので材料を用意してくれた女王と、休まず作業をしてくれたクモドクロとヴラシュには、かなり感謝をしている。
俺も製作には参加したが、やったことはそこまで多くはない。クモドクロへの魔力の供給と、加工の補助をしたくらいだ。
ちなみにヴラシュは他にも色々と製作していたので、かなりブラックな状況だった。仮にヴァンパイアでなければ、おそらく過労死をしていたことだろう。
また精神疲労から最後はかなりやつれていたが、とても満足げな表情をしていたので、悔いは無いと思われる。
そんなクモドクロとヴラシュの頑張りで作られた二振りの大剣には、両方に【竜潰し】という名がつけられた。
名前の由来は確認のための模擬戦にて、ボーンドラゴンが一振りで潰されたからである。
しかし俺はその時なぜか隻眼で隻腕の狂戦士のキャラクターが脳内に思い浮かんできたが、おそらく何も関係ないだろう。それはいつもの度々出てくる、転移前の記憶の残滓に過ぎない。
俺はその時のことを思い出しながらも、勇者たちに意識を集中させる。
さて、勇者は聖属性にかなりの耐性があるみたいだが、物理耐性はどうだろうか? そこのところを、是非見せてもらうことにしよう。
そして巨大な剣、竜潰しの一振りを、ルルリアが振り下ろした。




