293 城のダンジョン ⑪
※勇者ブレイブ視点です。
一歩前に出た時、俺は事前にヤミカから教えてもらっていた情報を思い出すことにした。
俺たちはそれぞれ念話のスキルを所持しているので、短い間での情報のやり取りが可能なのである。
まずヤミカが言うには、神聖な美女にはルルリアという名前があるらしい。また見たことのない多種多様なスキルを所持しているようだ。
ただ時間が無かったため、スキルの詳しい効果までは調べられていないとのこと。
まあそれについては、あの泥のモンスターの対処をしていたので仕方がない。
なのでヤミカも改めて、ルルリアさんのスキル効果を隅々まで精査しているところだろう。
しかしその中で最も興味を惹かれたエクストラスキルの効果だけは、先に覗こうとしたみたいだ。
けれどもどういう訳か、そのセイクリッドモンスターというエクストラスキルの効果は、ヤミカでも覗くことができなかったみたいである。
名称からしてとても神聖な雰囲気があるので、かなりの力を有しているのは間違いない。
たぶんエクストラスキルの中でも、神授スキルに近いのだろう。
そんな凄い力を持つモンスターを、魔王はどうやって支配したのだろうか。
詳しいことは分らないけど、きっと卑怯な手を使ったに違いない。
俺は心の中で、ふつふつと怒りが湧いてくるのを感じていた。
大丈夫だ。俺がこの神聖な美女である、ルルリアさんを救ってみせる!
そう気合を入れると、俺は言葉を発した。
「俺の名はブレイブ! 勇者をしている者だ! 魔王に操られていることは知っている。けど、あなたはそれに抗っているのだろう!
それはとても苦しく、大変なことだとわかる。でも、もう大丈夫だ! 俺があなたを救う! そのために、まずはあなたを倒させてもらう! だから、あなたも頑張ってくれ!」
俺はルルリアさんに対して、そう言い放つ。自画自賛になるが、このセリフは決まったと思った。
それに操られているのなら、その支配権を奪えばいい。
以前高難易度ダンジョンで手に入れたアイテムに、支配の宝玉という物がある。瀕死の相手に埋め込むことで、支配することができるのだ。
支配権を上書きできることは、効果内容からも判明している。一度しか使えない、とても貴重なものだった。
最初は使うことは無いだろうと思っていたのだが、人生何が起きるか分からないものだ。
ルルリアさんも魔王に支配されているよりは、勇者である俺に支配された方がいいだろう。
大きさについてもちょうど、縮小のスキルオーブを持っているし、問題はない。
魔王から神聖な存在を救い出すというのは、何とも勇者らしいシナリオだ。
それにルルリアさんをここで支配することで、魔王との戦いで有利になる。
ゲヘナデモクレスや魔将ジルニクスが待っていることを考えれば、まさに丁度いい強化イベントだった。
やれやれ、俺は主人公なんてやりたくないんだけどな。しかしそれに相反して、どうにもこの世界は、俺を主人公にしたいらしい。
すると俺の言葉に感動したのか、ルルリアさんの体が僅かに震えている。きっと今希望が芽生えたことで、支配から抜け出そうと必死に抗っているのだろう。
なら、早く助けないといけない。よし、ルルリアさんのためにも、いっちょ頑張るか!
俺が、そう思った時だった。
「セイントノヴァ」
「ぎゃあっ!?」
突然聖なる爆発が俺を襲い、体が吹き飛ばされる。
「あ~もう! だから止めといた方がいいって言ったのにっ!」
「わざわざ律儀に言う必要はないけど、そこがブレイブの良いところなんだよな」
「うん。だから、お兄ちゃんについてきた」
「おいおい! お前ら落ち着きすぎだろ!! 勇者の小僧を早く助けに行くぞ!」
俺がルルリアさんの攻撃を受けると、三人はいつも通りの反応をしていた。でもゼンベンスさんは、凄く慌てている。
心配させすぎもよくないし、無事なことを伝えよう。俺は瓦礫の中から抜け出すと、声を上げた。
「ゼンベンスさん! 俺は大丈夫だ! 光と神聖系の攻撃には、俺超強いから!」
手を振ってそう言うと、ゼンベンスさんはどこか呆れと安堵が混じったような表情をする。
「あの攻撃をもろに受けて、ピンピンしてやがる。流石は勇者といったところか。しかし今の攻撃には、俺も肝が冷えたぜ」
「それは悪かったよ。でも、ルルリアさんの心を救うには、きっと必要なことだった」
俺は仲間の元に素早く移動すると、ゼンベンスさんにそう言っておく。
「なるほどな。そういうところが、勇者の小僧が勇者である所以の一つなんだろう。温存して欲しいと言ったが、勇者の小僧はやる気なんだろ?」
「ああ、これは俺がやらなきゃいけないからな。ゼンベンスさんには悪いけど、やっぱり俺もしっかり戦わせてもらうよ」
俺はゼンベンスさんの瞳を真っすぐと見ながら、その決意を表明した。
するとゼンベンスさんは一度肩をすくめると、俺の気持ちを汲んでくれる。
「ったく。困った勇者様だぜ。よし、やってみろ。俺も手を貸すからよ!」
「ゼンベンスさん……よろしく頼む!」
そうして俺は改めて前に出ると、聖剣アルフィオンを抜いた。
キャラクターメイキングの際に50ポイントも費やして手に入れた聖剣は、いつも俺の期待に答えてくれる。
金色と青色の装飾が施された純白の両手剣は、俺の手に良く馴染んだ。
改めて俺は、聖剣アルフィオンの効果を思い出す。
名称:聖剣アルフィオン
説明
・全ての攻撃に光聖属性を付与する。
・光聖属性の効果を小上昇させる。
・闇冥属性に与えるダメージが小上昇する。
・持ち主のあらゆる能力を中上昇させる。
・一日に三回だけ、無条件で攻撃系スキルの威力を三倍にする。
・この聖剣はブレイブにしか使用できず、念じると手元に戻ってくる。
・この聖剣は、聖属性適性が無ければ使用できない。
・この聖剣は、時間と共に修復される。
・この聖剣は持ち主と共に成長し、以下のスキルを内包している。
【スラッシュ】【サークルスラッシュ】
【ハイスラッシュ】【ショットスラッシュ】
【バーストスラッシュ】
この聖剣アルフィオンは、まだまだ成長途中だ。俺が強くなれば、同時に強くなる。
キャラクターメイキングの際に心惹かれて真っ先に手に入れたけど、あの選択は正解だった。
勇者には聖剣がつきものだと思い、エクストラではなくアイテムを先に見たあの時の俺を、自分で褒めたいくらいだ。
それにセーラたちが言うには、この聖剣アルフィオンをキャラクターメイキングで一度も見ていないらしい。
故にこの事実から分かることは、聖剣アルフィオンが早い者勝ちだったか、あるいは俺だけに現れた特別な物だったのだろう。
後から50ポイントはもったいなかったかもしれないと後悔した時もあったけど、これが無ければ乗り越えられなかった試練がいくつもあった。
きっと今回の魔王討伐でも、この相棒は俺に力を貸してくれるだろう。
俺は聖剣アルフィオンへと強い信頼を向け終わると、ルルリアさんの方へと視線を向ける。
「待たせたな。ここからは、この聖剣アルフィオンの力を見せてやろう。そして、あなたを魔王の支配から救ってみせる!」
俺は剣先をルルリアさんへと向けると、キメ顔でそう言った。
「そう。ならばその力がどれほどのものなのか、私に全て見せてみなさい! 余力を残して勝てるほど、このルルリアは甘くはありませんよ!」
するとルルリアさんにも思いが通じたのか、俺に全てをぶつけてくることを望んでくる。
ここで手を抜いたら、それこそルルリアさんに申し訳がない。ならば見せてやろう。この勇者、ブレイブの力ってものを。
「まったくもう。またブレイブの悪い癖ね。けどそういう真っすぐなところ、嫌いじゃないわ!」
「ようやく戦いかい? ならあたしも当然、混ぜてもらうよ!」
「ん。お兄ちゃんのために、僕も戦う」
「おいおい、この無双のゼンベンスも忘れないでくれよな!」
俺が気持ちを固めると、仲間たちも横に並ぶ。みんな、やる気は十分だ。
「行くぞみんな! ルルリアさんを魔王の支配から、解き放つんだ!」
そして俺は声を上げると、最初の一歩を踏み出した。
ルルリアさんとの戦いが、今始まる。