287 城のダンジョン ⑤
あれから数時間経ったけど、オラはまだ生きていた。というよりも、何かがおかしい。
現れるアンデッドたちは、なぜかオラたちに止めを刺すのを躊躇っているように見えた。
何度か死ぬかもしれないという場面があったけど、その度に運良く生き延びている。
けれどもよくよく思えば、その時だけ相手の動きがぎこちなかった。
それはオラだけではなく、周囲の冒険者たちも同じように見える。
でもそれはこの闘技場の仕掛けを探す者たちだけであり、あのスケルトンナイトたちは普通に上位冒険者たちを殺していた。
だとすれば、そこに何か仕掛けがあるのかもしれない。オラたちが生きていることで、相手に何か利点があるのだろうか?
そう考えるけど、オラにはこれ以上分らなかった。仕掛けは見つからないし、倒しても倒してもスケルトンが無限に現れる。
でもDランク以上のアンデッドは、なぜか新しく現れることはなかった。
ちなみにその中には、別のスケルトンナイトたちもおり、最初はあまりの絶望感にオラは動けなくなってしまう。
けれどもそのスケルトンナイトたちは、いたって普通のスケルトンナイトたちだった。あの三体のスケルトンナイトたちとは違い、ランク通りの強さしかなかったのである。
やはり、あの三体のスケルトンナイトたちだけが、特別のようだ。
それよりも驚いたのが、守護者と同一種類のモンスターが現れたことである。これは、あまりにも酷すぎだ。
正直こんなことは初めての経験だった。それくらい、これは異常事態である。
けれどもそんな文句は、言っていられない。生き残るためには、戦うしかなかった。
でも本当に死にそうになったら、この場から逃げ出すしかない。どうやら幸いにもこの守護者のエリアは、封鎖をされていないみたいだった。
それによって既に何十人かは、この闘技場から逃げ出している。
しかしそれを見て、AランクとBランクの冒険者たちが黙ってはいなかった。なんと逃げ出す冒険者たちを、攻撃し始めたのである。
自分たちが強すぎるスケルトンナイトを相手にしているのに、逃げ出すのは何事かと怒りを露わにしたのだ。
なのでオラたちDランクとCランクの冒険者たちは、残って戦うしか道は残されていないのである。闘技場から逃げるのは、最終手段となった。
幸い周囲のアンデッドモンスターたちは、オラたちを殺そうとはあまりしてこない。どうにも、時間稼ぎをしている気がしている。
いったいなんの時間稼ぎをしているのか、オラには全く分からない。けど、このままだと不味いことは、何となく分った。
しかしこの情報を覆す術を、オラは持っていない。
ここはBランクとAランクの冒険者たちが、どうにかして倒してくれることを祈るしかなかった。
それかこの闘技場の仕掛けを見つければ、一発逆転できるかもしれない。でもその肝心の仕掛けが、全く見つからないのだ。
「これは本当に、いったいどうすれば……」
先の見えない危機的な状況に、ついオラは弱音を吐いてしまう。
このままでは本当にジリ貧だ。もうこれは、神様に祈るしかない。
そう考えたオラは、藁にも縋る思いで神様に祈った。
どうか創造神様! オラを助けてください! この際もう他のよく分からない神様でもいい、どうかオラを助けてくれ!
オラは心の中で、そう叫ぶ。
けれども状況は変わらず、数十分が更に経過した。
手持ちの消耗品も減っていき、本当にこのままでは不味い。見れば死者の数も、だいぶ増えていた。
特にBランクとAランク冒険者たちの数が、著しく減っている。
でも幸いなのは、スケルトンナイトたちの動きがかなり悪くなっていることだろう。
最初の時と比べて、その動きはオラにも多少見えるくらいになっている。
また周囲のアンデッドモンスターも、大部分が普通のスケルトンばかりになっていた。
復活しないことが分かっているDランク以上のモンスターを、率先して倒していった結果である。
けれどもやはり、ガシャドクロを倒すのには多くの犠牲が出てしまった。
BランクとAランクの冒険者たちは、こちらに一切手を貸してくれなかったのである。
彼らにとって、オラたちの価値などそんなものなのかもしれない。
いや、分かっている。彼らもあのスケルトンナイトの相手で、精一杯だったのだ。
しかしそう思っていても、オラたち側の不満が収まるはずはない。こちら側も、率先して向こう側に手を貸すことはなくなった。
といっても、生き残るために仕掛けを探すのは続けている。
それは結局のところ彼らが全滅したら、自分たちも当然おしまいということが分かっているからだ。
でもここまで探して見つからないとなると、その仕掛けはオラたち冒険者には、どうにもできないところにあるのかもしれない。
なのでオラたちは、探すことよりもモンスターを殲滅することに重点を置き始めた。
このいつ終わるかも分からない状況には、流石にオラたちも精神が削られる。
そして脳裏によぎるのは、故郷のことや、これまでの人生。楽しかったことや、苦しかったこと。
まるで人生がもうすぐ終わりそうだという思考が、それを映し出してしまう。
英雄に憧れるんじゃなかった。勇者様がいれば大丈夫なんて、思わなければよかった。オラは所詮、どこにでもいる程度の人族だったんだ。
まるで自分を遠くから眺めているような感覚になり、身体が勝手に動いているような錯覚に襲われる。
でもそんな地獄のような状況も、突然終わりを告げた。
「うむ。時間が来たようだ。倒しきれなかったことに悔いは残るが。仕方がないだろう」
「ドヴォールよ。そうであるな。むしろ、このような強者たちを倒せたことに、今でも驚きを隠せぬよ」
「カタタッ」
するとスケルトンナイトたちがそんな風に声を上げた瞬間、それは起きる。
「さらばだ、冒険者たちよ」
「よき戦いであった」
「カタタ!」
最後にそう言うと、三体のスケルトンナイトたちは、灰のようになって消え去った。
スケルトンナイトが言葉を話すことに驚く暇もない、一瞬のできごとである。
加えて周囲のアンデッドたちも、同じように灰になり、残らず消えていく。
「……お、終わったのか?」
オラは突然の出来事に、思わず声を漏らした。しかしそれは、周囲の冒険者たちも同じみたいである。
「た、倒したのか?」
「いや、勝手に灰になったみたいだが……」
「それにスケルトンナイトが喋っていたよな」
「い、いったいどういうことだ!?」
「とにかく俺たちの勝ちだ! 勝ったんだ!」
当然、戸惑いはあるみたいだった。しかし勝ったことは事実なので、次第に喜びの声が上がっていく。
そして勝利を示すかのように闘技場の中央には、赤い旗と宝箱が現れた。
こ、これで本当に終わったみたいだ……よく分からないけど、オラは生き残ったぞ。
すると急に体の力が抜けて、オラはその場に座り込んでしまう。
周囲の冒険者たちも同じようで、力尽きたように倒れたりしていた。
そんなオラたちを見て、BランクとAランクの冒険者たちは悪態をつく。
また旗と宝箱の中身を回収すると、オラたちをそのままにして行ってしまった。
中には無能は始末しようと過激なことを言う上位冒険者もいたが、流石にそれが実行されることはなく、オラたちは捨て置かれる。
けどむしろ、ここで脱落して正解だったかもしれない。正直この先ついていけば、オラは確実に死ぬことになるだろう。そんな予感がする。
聞けば城下町の先にある城も、これから攻略をしなければいけないらしい。そしてそこには、魔王がいると言っていた。
やっぱりCランク程度じゃ、ついていける世界ではなかったのだろう。勇者様の隣に立つことなど、夢のまた夢だった。
そうして残されたオラたちは、ここからどうにかして脱出しようと考える者と、上位冒険者たちを追いかける者で分かれる。
当然オラは、脱出を目指す者たちに加わった。
しかしそう思ったところで、脱出なんてできるのだろうか? もうこれは本当に、神様に祈るしかない。
なのでどうか神様、オラを助けてください。もし生き残ることが出来たら、今後の人生は祈り続けますので。お願いします。
これまで碌に神様に祈らなかったオラは、この時ばかりは必死な思いでそう祈りを捧げるのだった。




