285 城のダンジョン ③
おっす! オラの名前はモブメッツ! 落とし穴を通過した俺たちは、先を目指して再び走り出したところだ!
けど何人かは落とし穴に縄などを垂らして、仲間の救出を試みている者が残ったみたいだった。
まあオラはソロだから関係ないこともあり、このまま先へと向かう。
しかしこれでAチームの人数も、千人を切ったきがする。
少し不安だが、まだまだ大丈夫な人数だろう。守護者とやらは強くてもCランクらしいし、楽勝に違いない。
そう思いながら、オラは駆ける。すると何やら前方に、砦のようなものが見えてきた。
本当にこのルートであっているのか心配になるが、他に道は無いみたいなので、オラたちはこの砦に入ることを選択する。
城下町の中に突然砦が現れるのは不思議だが、ダンジョンだし気にし過ぎても仕方がないかもしれない。
また砦の内部には当然罠があるに違いないと思っていたので、オラは警戒心を強めた。
「え? 迷路? それに森林!?」
すると砦の内部は迷路になっており、しかも森林のように木々や草花が生い茂っている。
「この大陸にこんな場所が……」
「久々に自然を見た気がする」
「どうなっているんだ!?」
当然、周囲の冒険者たちも困惑気味だった。しかしそれでもやることは変わらず、オラたちは迷路を攻略し始める。
しかし千人規模で攻略するのは難しいので、結果的にオラたちは複数に分かれることになった。
オラはその中で、一番強そうな集団の後に続く。こういうとき、ソロだとその辺すぐに判断できる。
そうして先に進んでいると、おかしなモンスターが現れた。
「ごっぶ!」
「は? なぜここにゴブリンが???」
なんと現れたのは、ゴブリンである。
この大陸は、確かアンデッドしかいないと聞いたはずだが……。
オラがそう思っていると、他の冒険者に向ってゴブリンが走り出す。
「はっ、ゴブリン程度、今更相手になるか!」
するとそう言って、DかCランクと思わしき少年が、ゴブリンを剣で斬り裂いた。
「ごばっ!?」
「ふんっ、楽勝だぜ!」
そして少年がそう言った瞬間、斬り裂いたゴブリンの背中に、腹のでかいネズミが張り付いていたことにオラは気がつく。
なんだ、あのネズミは?
オラがそう思った瞬間、それは起きた。
「ジュウ!」
「は? ――ぎゃぁあ!?」
なんとその腹のでかいネズミが、突然爆発したのである。近くにいたその少年は、爆発に巻き込まれて死亡してしまった。
「なっ!?」
オラは幸い離れていたので、それによる被害は無い。対して近くにいた他の冒険者たちには、爆発によるダメージを負っている者もいた。
だが逆に、警戒して事前に守りを固めている者もいる。しかしそうした者たちは、他の冒険者を守る気はなさそうだった。
くっ、結局オラたちは、勇者様の元に集まっただけの、烏合の衆ということだろう。自分の身は、自分で守るしかない。
オラたちは仲間という以前に、ライバルでもあった。活躍して、勇者様に注目してもらう必要がある。
なのでライバルが減れば、その分自分が注目してもらえる可能性が高まるのだ。
ソロのオラは、こうした部分では不利になる。頼れる仲間がいないというのは、かなり致命的かもしれない。
しかしそれでも、オラは生き残ってみせる! そして勇者様の英雄譚に、名前を残すんだ!
そう思いながら、オラは迷路の攻略を進める。けれども現れるのは、やはり場違いなモンスターたちだった。
ゴブリン、グレイウルフ、オーク、ジャイアントリーチ、アシッドスライム、ミディアムマウス、他にも様々なモンスター。
現れるのは、この大陸では違和感しかないモンスターばかり。
一体一体は弱いけど、とてもやっかいだった。なによりオラも含めてここに来た冒険者たちは、対アンデッドを想定している。
なので想定外のモンスターが現れると、対応が遅れてしまう時があった。
特に度々現れる、巨大な蚊のようなモンスターがやばい。対応の難しい、病に関する状態異常を与えてくるのである。
他には即死攻撃を仕掛けてくる、カエル系のモンスターもいた。
これは即死耐性を持っていたり、上位冒険者であれば耐えられないことも無い。
けどランクの低いDランク冒険者の中には、このカエルの歌声を聞いて死亡した者もいる。
オラは幸い即死耐性(小)があるので、何とか大丈夫だった。
即死を仕掛けてくるモンスターはほとんどいないので、取得した後に後悔したこともあったけど、この時ほどこのスキルに感謝したことはない。
それとオラは罠感知だけではなく、気配感知も持っている。それによって、巨大な蚊に刺される前に何とか気がつくことができた。
しかしこの砦の迷路には予想外なモンスターが多く、思ったよりも冒険者たちに被害が出ている。
更には先に進んでいくと、CランクやBランクのモンスターまで現れ始めた。
流石にこれはおかしくないか!? なんでこんなところでBランクが出るんだよ!
オラは心の中で、そんな叫び声を上げる。明らかにモンスターのランクが上がるのが、早すぎだった。
幸いこの集団にAランクパーティがいたので、なんとかオラは生き残ることができた感じだ。けど他の集団の中には、大きな被害を出しているところもあるだろう。
そんなことがありつつもオラのいる集団は、数十分後になんとか砦を抜けることができた。
また中に残っている冒険者たちも、先に迷路を抜けた者が再び入って誘導することで、多くが抜け出すことに成功する。
人数が減ったほうが目立つが、流石に減り過ぎると攻略に支障がきたすので、こうして待ったり誘導したりすることになった。
けれども人数がある程度そろえば、残りは知らんとばかりに先へと進み始める。
思ったよりもだいぶ減っているけど、本当にこの人数で大丈夫だろうか? ここまでのことを考えると、どうにも不安になる。
たぶんやられた冒険者とまだ迷路を彷徨っている冒険者の数を引くと、残ったのはおそらく七百人前後くらいかもしれない。
砦の迷路を過ぎるまでは、千人近くいたことを考えると、これには驚きを隠せなかった。
しかし周囲を見れば、残っているのは実力のある冒険者ばかりである。
なので残れなかった者のほとんどは、DランクとCランクの冒険者がほとんどなのだろう。
だとすれば、まだ大丈夫なはずだ。けど、このダンジョンはやっぱり、どうにもおかしくないか?
謎の落とし穴の罠といい、場違いなモンスターたちが現れる砦の迷路……。どう考えても、普通ではない。
なんだか、とても嫌な予感がする……。
オラはそう思いながらも、他の冒険者に続いて走り続けるのだった。




