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283 城のダンジョン ①


 侵攻が始まったその直後、さっそく問題が起きる。


 なんと驚くべきことに、いきなり赤い煙の干渉が起きたのだ。


 城に侵入する本来の入り口は、普段ドヴォールたちが守っている、小さな出入り口だった。


 しかしどういう訳か、城下町に入るための正門が、ゆっくりと開いていく。


 正門は当然巨大であり、多くの者が出入りすることが可能になる。


 いつもの入り口なら、一度に侵入できる数もそれなりに制限できたのだが……しょっぱなから嫌なことをしてきたな。


 だがこれについては、ある程度の想定をしていたことだった。


 赤い煙がダンジョンに何かしらの干渉ができることは、船のダンジョンの件で知っている。


 故に女王との話し合いで、最重要のシステムを集中して守ることになった。


 全てのダンジョンシステムを守るのは、流石に難しいと判断したからである。


 その中で正門は、守りの薄い部分だった。なので開かれるのも、ある意味想定内なのだ。


 まあどの道、勇者勢力の大部分は侵入してもらうつもりだった。それが早まったところで、どうということはない。


 そんなわけで正門が開いたことに勇者勢力も驚いていたが、先頭の勇者が声を上げると、一番に突っ込んでくる。


 どうやら勇者勢力の先頭には、勇者(みずか)らが立っていたらしい。


 温存という意味では後ろにいた方がいいと思われるが、士気という意味では効果的だ。


 それに自ら先頭に立つのは、勇者らしいと言えば勇者らしいふるまいである。


 結果としてその後ろについている冒険者たちの士気は、最高潮に達しているようだ。


 そうして勇者勢力が、正門からなだれ込んでくる。規模としては、数千人という感じだった。


 入り口付近に配置していたゾンビやハイスケルトンは、当然一瞬にしてやられていく。


 だがそれについては、別に構わない。入り口付近のモンスターは、撒き餌のようなものだった。


 それにダンジョンでは、奥に行くほどランクの高いモンスターが出てくる。一部例外はあるものの、これは冒険者の中でも周知の事実だった。


 またこのことは冒険者が奥へと入り込みやすいようにするためというのもあるが、その方がコストが安くなるというのもある。


 入り口にAランク、ボス部屋前にFランクだと、洒落(しゃれ)にならないほどのコストが要求されるらしい。

 

 なのでダンジョンの入り口付近は必然的に、そのダンジョン内での最弱モンスターが配置されるのである。


 それが今回は、Eランクのゾンビやハイスケルトンという訳だった。ちなみにこのモンスターたちは、城所属のモンスターである。


 城所属のモンスターは、序盤は冒険者に怪しまれない程度に配置されており、奥に行くほどランクが高くなっていく感じだ。


 まあ、俺やその配下はこれに囚われない一種のイレギュラー状態になっているのだが、それについては後々再確認しよう。


 さて、現状では様子見というところだが、勇者勢力はどう動く?


 俺は慌てることなく、冷静に状況を見守る。


 すると勇者勢力は、いくつかの分隊に分かれて移動を始めた。勇者パーティと一部の冒険者は、城下町から城を目指している。

 

 対して残りの冒険者たちは、四つに分かれて迷いなく(・・・)それぞれが進んでいった。


 分ってはいたが、やはりダンジョンの構造については、情報が筒抜けだな。


 元々城下町には四体の守護者がおり、それを倒し旗を全て集めて特定の場所に運ぶことで、城の城門前に転移陣が現れるのである。


 しかしこの情報については、漏れていないはずだった。そこに至るためのルートを知るものなど、部外者にいるはずもない。


 侵入者は俺が来る数年前から、全て逃がしていないと聞いている。なので情報が漏れたとすれば、それはやはり赤い煙からとなるだろう。


 また勇者勢力の拠点に侵入している時に、この情報が流れていることは、俺も把握していた。


 なにより現状のような分隊の役割分担をさせるために、冒険者に情報が行き渡っていたため、このことは簡単に知ることができたのである。


 なので赤い煙も俺たちに情報を流していることについて、気づかれているのをよく理解していることだろう。


 だが不思議なのは、俺が勇者勢力に侵入していることについて、一切の情報が漏れなかったことである。


 おそらくそれを話すことによる何らかのデメリットの方が、赤い煙の中では大きかったのかもしれない。


 まあ、もはやそのことについては、どうでもいいことだ。戦いは既に始まっている。


 赤い煙が情報を教えていたことはやっかいだが、しかし一つだけいいことも分った。


 それは守護者の繋がりから女王と話した内容については、流石に赤い煙も知らなかったみたいである。


 でなければこんな大勢の冒険者たちを、四方向に分けるはずがないだろう。本当に知っているならば、それは最善策ではない。


 理由は簡単だ。そこに至るまでのルートには冒険者たちを迎え撃つための罠や仕掛けがあり、守護者のいる場所にも特別なアレがあった。


 なのでもし赤い煙がこの情報を知っていれば、それを回避するための助言くらいは、勇者にしていたはずである。


 またこれらの仕掛けについては、勇者勢力が城の外に集まって少し経ってから、女王がダンジョンを操作して変更した部分だった。


 こうすることで赤い煙が状況を把握して話したとしても、勇者勢力が作戦を変更する余裕はない。


 勇者勢力は巨大過ぎる故に、一度決めた作戦を変えるのが難しかった。ある意味それが、勇者勢力の弱点の一つだろう。


 そしてもし仮に赤い煙の更なる助言で動きを変えた場合、俺たちも第二の作戦を実行する予定だったので、問題は無い。


 準備をする時間は、十分にあったのだ。俺たちにできることは、おそらくやりきっただろう。


 さて、ここでいったい何十、いや何百何千人が、脱落するかな?


 俺はそう思いながら、動き出した状況を見守るのだった。


 ◆ ◆ ◆


 おっす! オラの名前はモブメッツ! え? いきなり誰だって? まさか、このCランク冒険者のモブメッツを知らないのか? まったく、遅れてるぜ!


 そんなことより今オラは、四つに分かれたうちの一つであるAチームにいて、この先にあるらしい守護者エリアへと多くの冒険者たちと一緒に向かっている。


 何でもこのダンジョンでは、四か所にいる守護者を倒して、旗を手に入れないといけないらしい。


 なのでこうしてオラたちは四つに分かれて、その旗を取りに向かっている。


 そして何とかここで活躍をして、勇者様に覚えてもらわないといけなかった。


 だからこの千数百人規模の中で、何か大きな結果を残す必要がある。正直自信はないが、やるしかない。


 オラはどこまでも続いていそうな石畳の上を走りながらも、そう自分に言い聞かせる。


 ちなみにそんな勇者様は、Sチームをまとめているようだ。オラも、そのSチームに入りたかった……。


 あとAチームに入れたのは、偶然という感じである。他にはB、C、Dのチームがあるんだけど、戦力が偏らないようにしているようだった。


 なので、Aチームが他より優れているということも無いわけだ。


 あれ? オラ、なんでこんなことを考えているのだろうか? まあ、それだけオラも緊張しているということだろう。


 とりあえず道中のモンスターを倒しつつ、オラたちは進んでいく。とても順調だ。


 しかし気がつけば、石畳から土の床へと変わっており、まるで雨でも降ったばかりのようにぬかるんでいた。


 罠というよりも、嫌がらせという感じがする。くそ、この日のためにピカピカにしたブーツが台無しだ!


 そんなことを思いながら、オラは走り続けた。そうして数十分、何事もなく進んでいく。


 さて、事前に説明を聞いた限りだと、もうすぐ道中の一つ目のポイントのはずだ。そこにはいったい、どんなモンスターが待ち構えているのだろうか?


 まあこの数だし、倒すのは一瞬だろう。くそ、オラにも遠距離攻撃があればなぁ。オラは軽戦士だし、攻撃するのは難しそうだ。


 何とかオラが攻撃するまで、そのモンスターには耐えてほしいところだった。


 くそ、それもこれも腹痛で少し離れていたら、一番後ろに回されてしまったせいだ。


 後ろからの敵に注意することも必要だが、運が悪すぎる。


 だがオラはこの時、これが幸運などということを、全くもって理解していなかった。


「ぎゃあああ!?」

「うわっ!!」

「さがれぇええ!!」

「お、おちっ!?」


 な、なんだ!? 前方から、叫び声が聞こえるぞ!?


 オラがその声を聞いて、思わず立ち止まったときだった。オラの見える範囲にも、変化が起き始める。


「な、なんだ!?」


 なんと目の前から、次々に人が消えていったのだ。いや、違う。落下していったという方が正しい。


 見ればオラの目の前の床には、巨大な穴が広がっていた。オラはギリギリのところで、その範囲から逃れたようである。


「うそ……だろ」


 オラは思わず、そう(つぶや)いた。巨大な落とし穴の罠。それは理解できる。だが、問題はそこではない。どうして誰も、この罠を感知できなかったのだろうか?


 オラは軽戦士であり、斥候と戦士の良いとこ取りをしたようなスキル構成だ。なので、罠感知のスキルも所持している。


 そのオラが、この落とし穴の罠には全く気がつかなかった。明らかにこれはおかしい。ここまでの巨大な落とし穴の罠であれば、感知は容易なはずだった。


 しかし現実では、こうして多くの冒険者たちが穴に落ちてしまっている。いったい、何人が落ちたのだろうか? 


 このAチームは、およそ千数百人ほどいる。そのうちの約三割くらいが、もしかしたら落ちてしまったかもしれない。


 オラはそう思いながらも、まずは助けるために穴を覗き込んだ。幸い、落ちた冒険者が光球をいくつも浮かべていたため、穴の底はよく見えた。


「な、なんだこれ……」


 見れば穴の底は、泥沼(・・)のようになっている。


「おーい! 大丈夫か!」


 オラは声を上げて、安否の確認をした。


「おぅ! 大丈夫だ! この泥沼があったおかげで、怪我もねえぜ! だがこの高さじゃ、上がるのも難しそうだ! 道があるみたいだし、俺たちはそこから進むぜ! お前たちも先へと進め!」


 すると落ちた冒険者の一人が、元気よく声を張り上げる。思っていたよりも、大丈夫そうだった。先へと続く道も見つけたようで、少々悔しそうにしながらも、オラにそう返事をする。


 ここは城下町みたいだし、もしかして下水道だろうか? なんか下水道にある泥沼って、臭そうで嫌な感じだな。


 落とし穴の罠を感知できなかった謎は残ったものの、この分なら問題はないだろう。


 逆にライバルが減って、オラの活躍する機会が増えたかもしれない。


 そうしているうちに、落ちなかった者たちで集まり始める。どうやら旗を守っている守護者を倒すために、再び走り出すようだった。


 また一部の冒険者たちは、仲間をなんとか引き上げるため残ったりしたみたいだけど、オラはソロなので構わず先へと進み始める。


 ちょっと驚きの罠があったけど、まだ序盤。勇者様の横に立つために、なにか活躍(かつやく)をしなければ!


 オラは走りながら、再び自分へとそう言い聞かせるのだった。



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