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280 勇者勢力の拠点


 城で準備を済ませた俺は、現在勇者たちがいる拠点の近くまで来ていた。


 また装備については死竜の防具では目立つため、以前使っていたブラックヴァイパーの防具に変えている。


 加えてステータスも、捕らえた冒険者を参考に偽装をしていた。


 ちなみに見た目や年齢はそこまで変えてはいないので、周囲からは若くて優秀なCランクかDランクの冒険者くらいに見えるだろう。


 それと(かたわ)らにはレフを連れており、ぱっと見では毛長黒猫にしか見えない。


 正直レフは置いていこうと思ったのだが、どうにも言うことを聞かなかった。最後までついていくことに強くこだわったため、俺の方が折れた形である。


 黒猫を連れているのは目立つだろうが、昔からの相棒であり、普通の黒猫よりは強く頭がいいという設定で行こう。


 そういう設定の元、俺とレフは村のような大きさの拠点へと、こうしてやってきたのである。


 また拠点の周囲にはアンデッド避けの結界が張られており、ゾンビなどが触れると対となっている魔道具に反応が返るらしい。


 これについては、捕らえた冒険者から情報を得ていた。


 この大陸は基本的にアンデッド系しかいないので、それに特化した結界はかなり有効だろう。


 ただその代わり、他のモンスターには反応を示さないようだ。故に俺とレフが侵入しても、大丈夫なはずである。


 ちなみにテイマーやサモナーの使役しているアンデッド系モンスターは、事前に登録することで、結界を問題なくすり抜けることができるらしい。


 そう言う訳で、俺は平然とした態度でいかにも今帰ってきたという雰囲気をだしながら、結界を通った。


 よし、分かってはいたが、何も問題はないみたいだな。レフも無事に通り抜けられている。


 周囲を見れば、他の冒険者たちも普通に行き来していた。テントの数も多く、とても活気に満ちている。


 さて、しばらくこの周囲を散策しながら、情報収集をしよう。


 そうして俺とレフは、勇者勢力の拠点内を歩き始める。


 すると歩けばすぐに分かったのだが、冒険者以外にも多くの人たちがいた。


 それは商人や娼婦、鍛冶師など多岐にわたる。もはやここは、小さな町といっても違和感がないレベルだ。


 他にも宿屋や飲食店、賭博場まで見受けられた。人が集まればそこに様々な職種の者が集まるのは、自然な流れなのかもしれない。


 しかしここは、不毛な大地しかないアンデッドの大陸だ。当然物価は、とても高かった。


 なんと串焼きが、一本小銀貨一枚である。普通の大陸の街なら、一本銅貨一枚くらいなので、十倍の値段だった。


 だが周囲に食べられる生き物がおらず、輸送の手間も考えたら、案外安いのかもしれない。


 それにこの大陸に来る冒険者は、最低でもDランクはある。大抵はCランク以上が多いようだ。なので、それなりに金を持っているのである。


 高いと思いつつも、必要なら普通に支払うだろう。なのでここが稼ぎ時だと思い、非戦闘員の人たちもやって来たみたいだ。なんとも、商売魂がたくましい人たちである。


 まあこの拠点にいれば、安全ということも大きいのだろう。数千人規模の人がおり、その多くが優れた冒険者だ。

 

 それにこの周辺に現れるアンデッドは、いいところDランクほどだろう。十分安全は確保できる。


 もちろん絶対ということはないが、何よりも勇者がいるということが大きいのだろう。


 そうして歩きながら、他にも何か情報がないかと耳を()ましていると、とある情報が俺の耳に届いてくる。


「なあ、知ってるか? なんとあのゼンベンスが、この拠点に来ているらしいぜ!」

「ゼンベンス!? あのSランク冒険者、無双のゼンベンスか!?」


 見れば二人の男性冒険者が、立ち話をしていた。俺はその内容が気になり、意識を向ける。


「ああ、そのゼンベンスだ。なんでも勇者が魔王を倒すための特別同盟の一パーティとして、同行するらしいぜ。こりゃ、凄いことになったな!」

「確かにそうだな! 勇者パーティにいる女戦士も強いらしいが、ゼンベンスほど優れた戦士は聞いたことがないからな!」


 するとそんな貴重な情報を、思わぬところで聞くことができた。


 ちなみに同盟とは、複数のパーティが集まった者たちのことだ。


 だいぶ前にタヌゥカが当時のグインを倒すために、複数のパーティを集めていたことを思い出す。


 結果俺が先に倒した訳だが、同盟とはつまり、強大な敵を倒すための集団のことである。


 同盟というのも重要だが、Sランク冒険者、無双のゼンベンスか。相当優れた戦士みたいだな。


 にしても、とうとうSランク冒険者まで現れるのか。Aランク冒険者のパーティとは、以前城のダンジョンに侵入してきた時に戦ったことがある。


 Aランク冒険者でも、油断したら何をするか分からない凄味があった。故に俺はあの時、徹底的に隙を見せずに、短時間で仕留めたのである。


 そんなAランクを超えるSランク冒険者となれば、当然その力は計り知れない。


 モンスターでも、AランクとSランクではかなりの差がある。だとすれば、冒険者にも同じことが言えるだろう。


 とりあえずはモンスターの基準で考えて、Sランク冒険者はゲヘナデモクレスと正面から戦えるくらいと考えておこう。


 流石にゲヘナデモクレスの方が強いとは思うが、ゲヘナデモクレスでも簡単には倒せないレベルかもしれない。


 であればゲヘナデモクレス、赤い煙、勇者パーティの三つに加えて、ここにSランク冒険者を追加しておこう。


 それにそのSランク冒険者には、パーティメンバーもいる可能性がある。また他にも優秀なAランク冒険者のパーティもいるだろう。


 また何より、それ以下の冒険者が数千人規模で存在しているのだ。思っていた以上に、この勢力は強大だった。


 甘く見ていたら、やられるのは俺たちの方かもしれない。直接情報収集に来て、本当に良かったと言える。


 捕らえた冒険者からも、このSランク冒険者の情報は出てこなかった。だとすれば、最近やってきたばかりなのだろう。


 これだけの人数がいれば、そうした情報が行き渡るまで、それなりに時間がかかっても仕方がない。


 それにもしかしたら、ほかにもSランク冒険者がいるかもしれないな。


 故に俺は、その会話をしている男たちに直接声をかけることにした。


「なあ、その情報、俺にも聞かせてくれないか? Sランク冒険者は(あこが)れなんだ。もしかして、ほかにも来ているのか?」


 そう言いながら、俺はストレージから酒瓶を取り出して、男に差し出す。収納系スキルを持っている優秀な冒険者はそこそこいるので、この場所なら特に怪しまれないだろう。


 ちなみにこの酒瓶などは、こうしたことを踏まえて城のダンジョンから持ってきたものである。女王も今回はダンジョンのためであると言って、無償で提供してくれた。


「お? 酒じゃねえか。へへ。そんなに知りたいのか? 仕方ねえなぁ」

「おいおい、俺にも分けてくれよ。ここじゃあ酒は高いんだ」

「ったく、仕方ねえなあ。じゃあお前も何か教えてやれよ」

「いいぜ。ほかのSランクは冒険者は知らないが、Aランク冒険者なら結構情報が集まっているからな」


 そう言って男たちは俺から酒瓶を受け取ると、すんなりと教えてくれた。


 どうやら様々な大陸から冒険者が集まっており、当然その大陸では有名でも、他の大陸で無名ということは珍しくはない。


 国境門で分断されている以上、情報の行き来は繋がった時だけなのだ。更に同じ大陸と繋がること自体が、稀である。


 なので結果としてその大陸では名が知れ渡っていても、別の大陸では無名ということの方が多いのだ。


 故に高ランク冒険者は、自身のランクと共に武勇伝や、ある程度の実力を見せているみたいだった。


 もちろん中にはそうした事を一切行わない高ランク冒険者もいるが、今回は勇者の魔王討伐がある。


 後の歴史に大陸を超えて名が残る可能性があるため、自分の名前を高らかに喧伝(けんでん)する者が多いみたいだった。


 それで少しでも勇者の目に留まり、重要な場面で呼ばれて共に戦うことを夢に見ているようである。


 結果としてAランク冒険者やBランク冒険者の情報は、思ったよりも簡単に集まった。


 男たちが知っている限りだと、Aランク冒険者のパーティが四。Bランク冒険者のパーティが十二もいるらしい。


 更にこれからも増える可能性が高く、また男たちが知らないだけで、実際これよりも数が多いのは間違いないようだ。


 これは、思った以上に不味い状況かもしれない。最終的に、Aランクパーティが十を軽く超えると見越しておいた方がよさそうだ。


 パーティは通常四人くらいだが、中には六人ということろもある。であれば単純に五人と考えた場合、現状でも二十人のAランク冒険者がいるみたいだ。


 ちなみにSランク冒険者のゼンベンスは、ソロの冒険者らしい。臨時で他のパーティに加わる事は多々あるみたいだが、基本は一人みたいだ。


 また男たちはゼンベンスと同じ大陸出身であるらしく、ゼンベンスの武勇伝を良く知っていた。


 巨大な剣と盾を使う戦士であるとか、無属性魔法も使えるとか、筋骨隆々の長身で金色の短髪と無精ひげを生やした、碧眼の男であるとかだ。


 他にも色々と聞くことができたが、ゼンベンスについてはかなりの情報を得られただろう。


 そしてそんなゼンベンスがいる勇者勢力は、場合によっては一番ヤバイ相手かもしれない。


 人数だけではなく、こうした質も集まっている。ゲヘナデモクレスと赤い煙よりはマシだと思っていたが、油断は一切できないだろう。


 これはしっかりと情報収集をしておかないと、不味いことになるかもしれない。


 俺はそう思いながら、この勇者勢力の拠点で、情報収集を続けるのであった。


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