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029 魔力欠乏症

「……お、おい! 大丈夫か!」


 飛び出してきたのは、一人の男性冒険者だった。


「もしかして、あの時の少年か!? いったいなにがあった!」


 よく見れば男は以前俺に二層目の情報を教えてくれて、そのお返しにマッドクラブを渡した男のようである。


「魔力が……」

「魔力? もしかして魔力欠乏症(けつぼうしょう)か!? ほら、これを飲め!」


 すると男は懐から青い液体の入った瓶を取り出すと、俺の口に運ぶ。


 にがっ……何だこれ、いや、若干だが魔力が回復してきている。


 これは、マジックポーションというやつか。


 通常のポーションが傷を癒すとすれば、マジックポーションは魔力を回復させるものだ。


 しかしマジックポーションの方が高価であり、安い物でも銀貨一枚かかる。


 それを躊躇(ためら)わず使用してくれるとは、男はかなりの善人なのだろう。


 だがおかげで、だいぶ体が楽になってきた。


「助かった」

「待て、ゆっくりしていろ。まだ立ち上がるな。魔力欠乏症を甘く見ると、酷い目に遭うぞ。場合によっては、死ぬこともあるからな」

「死?」


 この症状は魔力欠乏症と呼ばれるらしい。そして男が言うには、これで死ぬこともあるようだ。


 思っていたよりも、俺の状態は危なかったのかもしれない。


「そうだ。だがここは何があるか分からない。俺が運んでやる」


 そう言って男は俺を肩に担ぐと、そこからしばらく歩き出した。


「ゲゾルグ、ここにいたのか?」

「一人で先走り過ぎだ。少しは後ろを見ろ」

「ちょっと、皆私のことを置いていかないでよ」


 すると俺を助けた男仲間なのか、二人の男性と一人の女性の声が聞こえてくる。


 それとどうやら、この男はゲゾルグという名前らしい。


「まあ待て、マッドクラブの少年が魔力欠乏症で倒れていたんだ。あのままだと危なかっただろう。つまり、また俺の虫の知らせが役に立ったわけだ」


 虫の知らせ? スキルだろうか? それとも、それとは関係ない第六感か?


「装備が前と違うようだが……おっ、本当だ。あの時の少年じゃねえか」

「そりゃ、助けないわけにはいかないな。お前のおかげで、俺はマッドクラブが好物になったほどだぜ」

「あら、良い装備ね。よく似合っているわ。ゲゾルグ、降ろしてやりなさい。私が介抱してあげるわ」


 女性がそう言うと、ゲゾルグが俺を降ろす。 


「また会ったわね。自己紹介をしておくわ。私は治癒士兼属性魔術師のプリミナよ。で、君を助けたのがリーダーのゲゾルグ。マッドクラブが好物になったがタンクのジェイクで、残ったのが斥候のサンザよ」


 プリミナと名乗った二十代前半の女性が、メンバーを含めて紹介してくれた。

 

「俺は、ジンだ」

「そう、ジン君ね。どうやら外傷はなさそうだし、状態異常も見られないわね。本当に魔力欠乏症だけみたい」


 俺を見て、即座にプリミナが状態を見抜く。


 戦闘での多少の傷は、デミゴッドの種族特性である再生で、既に治っている。


 ちなみに再生も魔力を消費するが、完治したのは戦闘の途中だろう。


 なので戦闘後に発動していたら、結構ヤバかったかもしれない。


「まじか、あれだけの出来事があって、魔力欠乏症だけなのか」

「遠くからでもわかるほど、すげえ戦闘音だったんだがなぁ」

「ああ、普段逃げることがほとんどないダンジョンのオークたちが、血相を変えて全力疾走しているほどだったな」


 どうやら、俺とホワイトキングダイルの戦闘は、遠くからでも分かったらしい。


 加えて周辺にいたモンスターたちは、いつの間にか逃げ出していたようだ。


「私は危険だから行かない方がいいって言ったんだけどね。ゲゾルグは自分の虫の知らせに絶対の信頼を寄せているのよ。まあ、そのおかげでジン君を見つけられたのだし、良かったわ」

「加えて斥候の俺に頼まず一人で突っ走るくらいだからな。いつも言っているが、見に行くなら俺の仕事だぞ」


 なるほど。だからゲゾルグが一人で現れたのか。


「仕方がないだろ。虫の知らせが急がないとヤバいって伝えてきたんだからな。実際コイツは俺が来なければ、魔力欠乏症で死んでいたかもしれなかったんだぜ」


 実際俺は、それほど不味い状態だったらしい。


 これは、反省しなければいけないな。


「それでジン君、一体何があったのか、教えてくれることはできる? 冒険者だから、言いたくなければ言わなくてもいいわよ」


 プリミナはそう言うが、ある程度の話をする必要はあるだろう。


 助けてくれた恩人に、何も言わないのはだめだ。


「まず前提としてだが、国境門が開いて、宣戦布告をされたらしい。そしてその戦争に出るため、ダンジョンで切り札の調整をしていたんだ。それでやり過ぎて、こうなった」


 俺はホワイトキングダイルの事は伏せつつ、事実を口にする。


「国境門が開いただと!? 詳しく話してくれ!」


 すると俺が魔力欠乏症になった経緯よりも、国境門が開いたことの方が気になったみたいだ。


 どうやら、四人はダンジョンに数日潜っていたようで、国境門が開いた事を知らなかったようである。


 なので俺は、自分が知っていることを全て話した。


「そうか。モンスターを従える国か。こりゃ、手強そうだな。今回は俺たちも参加しよう」

「おっ、久々の参加か。腕がなるぜ」

「お前ら好戦的すぎるぞ。斥候の俺には荷が重いんだがな。まあ、仕方がない」

「はぁ、あなたたち、私がいないとすぐ死んじゃうわよ。頭を使うことを覚えなさい」


 すると四人も俺の話を聞いて、国境門での戦争に参加するようだ。


「けどジン、お前ランクいくつだ? 戦争の参加は個人だとDランクは必要だぞ」

「えっ……Eランクは参加できないのか……」


 よく考えると、駆け出しが参加しても無駄に数を減らすだけになる。


 それなら、制限がかかっていても不思議ではない。


 マジか……。


「それなら、私たちのパーティに一時参加すれば問題ないじゃない。うちはこれでもCランクの上位だし、Eランクを一人入れても参加できるわよ」

「意外だな。俺もそれを考えていたが、プリミナは反対すると思っていたぞ」

「何言っているの。あの戦闘音と遠くでもわかる魔力の凄さを考えれば、ジン君は私以上に魔力が高いわよ。この子なら大活躍間違いなしだわ」


 すると驚くことに、一時的に俺をパーティに入れてくれるという。


 個人では参加できない俺にとっては、正に渡りに船である。


「なるほどな。どうだ? 俺たちのパーティ。幸運の蝶に入らないか?」


 そう言って、ゲゾルグが手を差し出してきた。


 これを断る理由はないな。


「よろしく頼む」


 そうして俺は、一時的に幸運の蝶というパーティに加入することになった。


 色々あったが、二層目に来たのは結果的に正解だったな。


 運も良かった。それに、幸運の蝶か。正にその通りだ。


 パーティ名は、ゲゾルグの虫の知らせから来ているのだろう。


 実際それにより、何度も救われているようだ。


 それから街へ帰還することになったので、道中話をしながら歩く。


 俺ができることを伝える中で、カード召喚術も話している。


 試しにグレイウルフを召喚してみると、四人は驚いていた。


 また以前会ったときはグレイウルフを連れていたので、その部分も気になっていたみたいである。


 加えて戦争に参加したい理由も相手の国がモンスターを使役するので、カード召喚術師として見逃せなかったことを伝えた。


 あとは中級生活魔法を使えることを話すと、プリミナが喜んだ。


 どうやら下級生活魔法は使えるようだが、下級にはやはり清潔がないらしい。


 それとシャドーアーマーや、ホワイトキングダイルの事は言っていなかったりする。


 恩人でパーティに参加させてもらったが、全てを一度に話すべきではないと思った。


 機会があれば、見せることもあるだろう。


 他には、収納系スキルがあることも話すことになった。


 これは道中、マッドクラブを振る舞う時に気が付かれたので仕方がない。


 ちなみに、マッドクラブが好物になったというタンクのジェイクが、どうすれば泥臭さを消せるのかを知りたがった。


 なので中級生活魔法の清潔を使うことで、消せることを教える。


「プリミナ。中級生活魔法を覚えてくれ」

「私だって覚えたいわよ。けど中級生活魔法って、スキルオーブが希少だし高すぎるのよね。下級生活魔法は使い込んだから、おそらくランクアップできると思うのだけど」

「金、貯めるか」

「そうね」


 そんなやり取りの中で、スキルをランクアップさせる方法を知った。


 どうやらある程度スキルを使い込んだうえで、上位のスキルオーブを使う必要があるみたいである。


 だとすれば、二重取りでスキルが統合して進化するのは普通ではない。


 それに進化とランクアップで、名称が違っている。


 おそらくスキルの統合進化は、二重取りの隠し効果だろう。


 思わぬところで二重取りのヤバさを、また一つ知ってしまったな。


 そうしてマッドクラブを美味しく頂いた数時間後、無事にダンジョンを出ることができた。


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