SS ブラッドの前日譚
※時期的には084くらいの話です。
ウルフマン・ブラッドボーンという、転移者がいた。
種族はウェアウルフというBランクモンスターであり、狼男のような容姿をしている。
普段は人化で人に化け、満月の日には力を増す種族だ。
そんなブラッドには、強制決闘という神授スキルがあった。
効果は逃げられないフィールドを作り出し、指定した相手に賭けを強制して決闘を行うものである。
決闘に勝ったものが、賭けの内容を手にすることができるのだ。
一見地味な効果ではあるが、実はとても凶悪な神授スキルである。
何せ賭けの対象には、スキルも含まれていた。
ブラッドはそれにより、相対した悪漢から強撃というスキルを最初に奪い取る。
簡単にスキルを手に入れて強くなったことに、ブラッドは歓喜した。
例え相手が多少のスキルを持っていようとも、Bランクモンスターの素の能力で楽に勝てたことも大きい。
これが普通の人族を選んでいれば、こうはいかなかっただろう。
転移者として、ブラッドは順調なスタートを決める。
けれどもこの強制決闘には、思わぬ落とし穴があった。
なんと奪ったスキルには、元々の持ち主の精神性を僅かに宿していたのである。
それによりブラッドの精神は悪漢の精神性に侵食され、相手から何かを奪う事への抵抗が薄れた。
結果として元々の正義感も合わさり、ブラッドは義賊として、金持ちから金品を奪うことを決めたのである。
しかし潜入の途中で偶然見つかった際に、ブラッドは慌ててケモ仮面と名乗ってしまう。
この時決めたケモ仮面という名称を、ブラッドはなんやかんやで使い続けることになる。
その後は様々な経緯があり、サモナーやテイマーでなくては生きにくいオブール王国を、ブラッドは脱した。
実力があれば平等だという、ラブライア王国に魅力を感じたのだ。
しかしいざラブライア王国に来てみれば、格差社会によって弱者はとことん惨めな生活を送っていた。
なので正義感を滾らせたブラッドは、ここでも義賊ケモ仮面としての活動を始める。
その中で度々、自身に合ったスキルを強制決闘で奪っていく。
またスキル容量のことは、事前に情報収集をしていた事で知っていた。
故にブラッドは、無差別に大量のスキルを奪うことはしなかったのである。
けれどもブラッドがスキルを奪う相手は、その全てが悪人だった。
一つのスキルを奪っても影響は少ないが、塵も積もれば山となる。
次第にブラッドの精神は、悪の精神に侵食されていった。
欲望を押さえるのが難しくなり、英雄願望や性的欲求なども増していく。
しかしその事に、ブラッド自身は気がつかない。
相手が悪人で女と見れば、セクハラ紛いの事を平気でするようになった。
奪った金品も、大部分を懐に入れるようになる。
それでも金品をばら撒く自分に、ブラッドは酔いしれていた。
貧民から絶賛され、誰も自分を捕まえることができない。
ブラッドは正にこのとき、人生の絶頂期にいた。
だがそんなブラッドにも、一つの懸念がある。
それは、ツクロダという人物についてだ。
ブラッドはツクロダが転移者だという事に、気がついていたのである。
民衆の洗脳や、文明レベルに合わない魔道具の数々。そして特徴的な名前。
同じ転移者であるブラッドであれば、容易に気がつくことができた。
問題は、ツクロダが国の上層に喰い込んでいることである。
単なる義賊であるブラッドには、手を出すことが難しい。
故にその時ブラッドは、こんなことを思った。
自分は義賊として金品を配って貧しい思いをしているのに、ツクロダが良い思いをしているのは許せないと。
なおブラッドは懐に入れた金品によって、普通の平民よりも良い生活をしている。
しかしそれを棚に上げ、いや全く気がつかずにそう思ったのだ。
そんな想いを胸に秘めたブラッドは、いつかツクロダをどうにかして成敗したいと考え始める。
そのために義賊として活動しながら、ブラッドは力を蓄え始めた。
だが次第にブラッドは、スキルを奪った悪影響からかムラムラが止まらない。
娼館通いが止められず、通い続けてもそれが収まることはなかった。
このときブラッドは気がついていなかったが、精神的な悪影響が引き金になり、半ば発情期になっていたのである。
故に普段よりも自身と近しい種族である『メス』の匂いに対して、ブラッドは敏感になっていた。
「これは、同族のメスの匂い!」
そしてブラッドは、王都に来ていたジフレを発見したのである。
最初は恰好をつけて、自身を普段より盛っている事に気がつかれないように努力した。
だがジフレの素顔を見た瞬間、ブラッドの中で何かが弾ける。
「……結婚してくれ!」
「絶対無理」
「ぐはっ!?」
思わず結婚を申し込んだブラッド。
しかし即座に拒絶された衝撃により、多少は冷静さを取り戻す。
そうして打倒ツクロダを目指すジフレに手を貸しながら、ブラッドはどうすればジフレを手に入れられるのか、脳内で目まぐるしく思考を巡らせ続けるのであった。




