260 船のダンジョン ⑰
まずはゲシュタルトズンプフに、足止めをさせる。
泥触手でルルリアの体を止め、動けなくさせた。
一見脆そうな泥触手だが、あれでかなり頑丈である。
「ギャァアアア!!」
だが当然、ルルリアもされるがままではない。
スキルを駆使して、泥触手を破壊していく。
しかし何度破壊されようとも、ゲシュタルトズンプフの泥触手は無限に生えてくる。
ボイスショックで全方位の泥触手を消し飛ばしても、鼬ごっこになるだけだ。
更には生魔ドレインで、生命力と魔力をルルリアから奪わせている。
ある意味倒すのが難しく、生魔ドレインを使えるゲシュタルトズンプフは、ルルリアにとっては天敵かもしれない。
ちなみにポイズンタッチは、アンデッドであるルルリアにはほぼ効果が無いので使用していなかった。
それ以外だと少し離れた場所から泥触手を生やし、その先端から泥弾での攻撃をも行っている。
泥沼の化け物VS蛇女怪獣の戦いに、見えなくもない。
すごい迫力だ。
そんなことを思いつつも、俺は次にホブンたちを向かわせる。
グインに乗ったホブンは、ゲシュタルトズンプフの泥沼と化した海を進んでいく。
またボーンドラゴンの足に掴まれたルトナイも、空を飛んで行った。
ちなみにサンも、それに同行して飛んでいる。
そして配下たちがルルリアに辿り着く前に、キャリアンイーターにアシッドショットを撃たせた。
ウツボカズラから大砲の砲弾のように、放たれたアシッドショットが飛んでいく。
それは放物線を描き、ルルリアに見事命中した。
「ギャァアアアア!!」
するとアシッドショットにより、ルルリアの肌が焼かれる。
だが、体が溶けることはない。
キャリアンイーターのアシッドショットは、かなり強力なはずだ。
それが肌を焼かれる程度で済んでいるとすれば、かなりの耐性力である。
酸耐性はなかったと思われるので、素の耐性自体が高いのだろう。
そう思いつつ、アシッドショットを何度か打ち込ませていく。
ちなみに泥触手もアシッドショットで溶けてしまうが、それは織り込み済みである。
溶けても即座に作り出せるので、配慮しなくても問題ない。
フレンドリーファイアを気にしなくてもいいのは、かなり楽だ。
やはり、ボスクラスのモンスターは役に立つ。
そうして攻撃を続けていると、最初にボーンドラゴンが辿り着いた。
「ギャオオン!」
「カタタ!」
ボーンドラゴンが挨拶とばかりに、ファイアボールを放つ。
ついでにルトナイも、シャドーニードルを飛ばした。
「ギャアア!!」
その攻撃を受けたルルリアは悲鳴を上げながらも、上空へと攻撃魔法を発動する。
だがそれを、ボーンドラゴンが華麗に避けていった。
加えてルルリアの攻撃は、ゲシュタルトズンプフの泥触手に邪魔されて狙いが定まらない。
「ギギギ!」
また続いてやってきたサンが、ライトアローやウィンドカッターでチクチクと攻撃を加え始める。
正直ルルリアにはかすり傷程度だが、確実にダメージ自体は与えていた。
ちなみにサンは攻撃を一度すると、即座にその場から一時離脱をして攻撃対象から逃れている。
ヒット&アウェイで、戦闘に貢献をしていた。
Dランクであることを考えると、十分な活躍だろう。
そして最後に、グインとホブンが辿り着く。
「グオウ!」
グインはまずそこで、水弾連射を発動した。
しかし水属性魔法は、グインの攻撃であってもほとんど効果が見込めない。
それは耐性があるので、仕方がないだろう。
なのでライトシールドを先の尖った円錐形にすると、ルルリアに突進した。
「ギャアア!」
これには流石に、ルルリアもたまらない。
やはり光属性は、良く効くみたいだ。
そして背に乗っていたホブンがそこで跳躍すると、ルルリアの胸の間あたりに攻撃を仕掛ける。
「ゴッブア!」
「ギャッ――!?」
放ったのは拳を強化する鉄の拳をした上での、ヘヴィインパクトだった。
打撃武器適性でも、拳系スキルは適応されているみたいであり、効果も十分に発揮されている。
ちなみにヘヴィインパクトは、拳でも発動が可能だ。
そして結果としてルルリアの巨体は、後方へと勢いよく倒れた。
またその瞬間、体中を泥触手が縛り上げる。
「ギャオオン!」
更には上空から、ボーンドラゴンのダークフレイムが撃ち込まれた。
当然、巨大な爆発音のようなものが響き渡る。
ゲシュタルトズンプフの体の一部も、飛び散り雨のように周囲へと降り注ぐ。
これには流石のルルリアも、大ダメージは避けられない。
戦ってみれば、思ったよりも一方的な戦いになってしまった。
たとえSランクでも、ここまでのモンスターたちに囲まれてしまえば、成す術はないのかもしれない。
もしかしたら、俺の出番はないかもしれないな。
魔力玉のために魔力を蓄え続けているが、果たして発射する機会はやって来るのだろうか?
俺は目の前の光景を見て、そう思った。
けれども俺の予想とは裏腹に、戦いというものはそう簡単には進まない。
その直後、戦況に変化が生じ始める。
「――――♪!!」
猛攻撃を受けたルルリアが何事も無いように起き上がり、言葉にならない不快な歌を口にし始めた。
またどうやらウォーターシールドを発動して、ボーンドラゴンのダークフレイムをやり過ごしたみたいである。
そして不快な歌声は、不思議と離れていても俺の耳にも届いてきていた。
な、なんだこの不快な歌声は……頭がクラクラする……そうか、これが崩壊の歌声か。
離れていても、精神耐性をある程度突破されたみたいだ。
一瞬、足が沈むような幻覚も見えたぞ。
幸い呪いと衰弱は、状態異常耐性のおかげで防げているみたいだ。
即死も、影響がない。
しかしまさか、グインのライトベールとアロマのミックスアロマがあっても、効果を及ぼしてくるとは思わなかった。
段階的に状態異常が悪化するらしいが、それと耐性を突破する度合いは別なのかもしれない。
これは想像以上に、やっかいだな。
「ぎゅぃぃいい!?」
すると見れば、アロマがひっくり返って足をバタつかせている。
完全に幻覚と暴走、そして発狂の状態異常にかかっている感じだった。
もしかしたら呪いと衰弱も、起きているかもしれない。
それぞれの効果はまだ弱くても、一度に発生すると相乗効果のようなものが出ているようである。
これ以上は無理だな。
俺はそう思い、アロマをカードへと戻した。
ちなみにキャリアンイーターも、いくつか状態異常にかかっている。
多少はまだ大丈夫かもしれないが、現状では出番が無いのでこちらもカードへと戻した。
なので足場が無くなった俺は、カオスアーマーの肩当てに魔力を流すと、漆黒のマントを生み出して空へと浮かび上がる。
さて、問題は近くで崩壊の歌声を聞いた配下たちだが、いったいどうなっている?
「グォオオウ!!」
そう思い様子を見れば、グインが暴れまくっていた。
目が赤くなり、オーラのようなものが浮かび上がっている。
おそらく、狂化を発動させたのだろう。
崩壊の歌声で暴走するくらいなら、自分から暴走することを決めたのかもしれない。
故に狂化も合わさっているからか、流石に理性の首輪の許容範囲も超えているみたいだ。
完全に、暴走状態である。
またそれで、ホブンが背中から投げ出されていた。
と言っても、無属性魔法のシールドを使い、泥触手の上に立っている。
泥触手にそのまま乗るのは難しいので、足の下にシールドを発動させることで安定させたみたいだ。
シールド単体では水の上や空中には浮けないので、良い判断だったと言える。
またホブンは継続戦闘のプラス効果が多少出ているのも相まって、状態異常にかかっていてもある程度問題なく動けるみたいだ。
しかし根本的にどうにかできている訳でもないので、長くはもたないかもしれない。
またボーンドラゴンとルトナイは、完全なアンデッド系なのであまり影響を受けていなかった。
ただその中で一番影響を受けているのが、暴走の状態異常らしい。
だが今のところ極小の効果なので、無視できる程度のようだ。
そしてゲシュタルトズンプフも同様に、暴走が最も影響があるとのこと。
このことから分かるのは、アンデッド系でも暴走の状態異常は普通に効くみたいだ。
あとは精神系も、それなりに効く。
その代わりに呪いや衰弱、即死は効果が無いことが分かった。
ふむ。これはメンバーを変えて、正解だったな。
バフをかけたアンデッド系でも、これである。
おそらくレフも普通に、状態異常にかかっていただろう。
状態異常耐性と精神耐性、そして即死無効がなければ、戦いにならないかもしれない。
崩壊の歌声は、想像以上に強力なスキルだった。




