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257 船のダンジョン ⑭


 ふむ。やはりダンジョンが崩壊するようなことはなさそうだな。


 レッドアイは自分が倒されれば、ダンジョンも崩壊するようなことを言っていた。


 しかし実際には、崩壊の(きざ)しはいっさい見られない。


 だがそれについては、概ね予想通りだった。


 レッドアイはそもそも、二つほど気がついていないことがある。


 一つは俺が、ある程度の嘘を見抜けるということだ。


 レッドアイの言っていたことは、本当の事ばかりだった。


 しかし、ダンジョンが崩壊する。これについては、嘘をついていたのだ。


 本当の中に僅かな嘘を忍ばせるというのは、通常であればかなり有効な手だろう。


 だが以心伝心+により、表層から嘘を見抜ける俺には意味のないことだった。


 また二つ目として、そもそも俺がダンジョンの事情にある程度の知識があることが大きい。


 前提としてダンジョンボスやそれに属するモンスターは、そもそもダンジョンコアを破壊することができないのだ。


 これは間接的でもそうであり、考えて実行に移そうとした瞬間、体が動かなくなるらしい。


 女王から直接聞いていた事なので、間違いないだろう。


 つまりレッドアイは、実行不可能なことを口にして、俺を脅していたのである。


 元からダンジョンコアを破壊するつもりは、そもそも無かったのだろう。


 しかし、財宝がダンジョンポイントに変換されるというのは、本当のことだったのだと思われる。


 おそらくレッドアイが倒されたことで、実際に今変換されている可能性が高い。


 かなり惜しいことをしてしまったが、これは諦めるしかないだろう。


 俺の中でレッドアイを見逃すよりも、倒した方が良いと判断したのだ。


 ルルリアの事もあるが、ああいう奴は信用ならない。


 この見逃しが、後々面倒なことに繋がると判断した。


 レッドアイは結構頭が回るようだし、やられたままで終わるような性格じゃ無い気がする。


 赤い煙に何らかの方法で泣きつかれたら、大変なことになる可能性もあった。


 であれば倒してからカード化して、裏切れないようにするべきだろう。


 そう言う訳で俺は、こうしてレッドアイを始末することにしたのである。


 さて、周りの海賊アンデッドも、だいたいルトナイたちが倒したみたいだ。


 海賊アンデッドはいらないし、女王へ素材として持っていこう。


 俺はそう思いながら、レッドアイのカード化を行おうとした――その時。


 まるでタイミングを計ったかのように、レッドアイの残骸が赤い光へと、姿を変えた。


「は?」


 俺はその光景に対して、呆気にとられる。


 カード化も、反応を示さなかった。


 まだ生きているのか? いや、完全に倒されているはずだ。


 であればこの光は、なんなんだ?


 訳も分からず頭を悩ませていると、赤い光に変化が訪れる。


 赤い光が一か所に集まり、人魂のような形になった。


 そして動き出したかと思えば、転移するかのようにその場から消えてしまう。


「な!? あの赤い光は、いったいどこにいった?」

 

 俺が周囲を見渡していると、ホブンから突然赤い光が現れたことを告げられた。


「――!? くそ、そういうことか!」


 嫌な予感がした俺は、召喚転移でレフたちと共に移動する。


 だがその時には、赤い光がルルリアの胸の中心から入り込んでいるところだった。


 ホブンとジョンが止めようとしたらしいが、いかなる攻撃も受け付けなかったらしい。


 つまり、これは防ぎようもなかったことである。


 レッドアイを倒した時点で、これが実行されることが決まっていたのだろう。


「ぐぅうう!? ぐがぁああああああ!!!」


 そして赤い光が入り込んだルルリアが、苦痛の叫び声を上げる。


 (はりつけ)台を、(みずか)らの力で破壊するほどの暴れっぷりだった。


 またルルリア自身の体にも、大きな変化が現れ始める。


 まず体全身が巨大化していき、下半身が蛇のように長くなっていく。


 腕も追加で左右に一本ずつ生え、元と合わせて四本となる。


 額には一本の角が生え、口からは牙が伸びた。


 瞳は赤く光り、理性は全く感じられない。


 加えてウエーブがかかった長く青い髪も伸びており、生き物のようにうねっていた。


 また()がれた肉も、完全に再生している。


 大きさは以前戦った、グレートキャタピラーを彷彿とさせた。


 更にはまるで邪神のように、禍々(まがまが)しい雰囲気を(かも)し出している。


 これには、Aランクのモンスター以上のものを感じた。


 俺は変わり果てたルルリアに対して、反射的に鑑定を飛ばす。


「ぐ!?」


 だが、想像以上の抵抗を感じた。


 以前の俺であれば、このまま弾かれていたことだろう。


 しかし【魔法制御】や【魔力操作上昇(中)】を取得した今の俺であれば、通すことができる。


 俺は追加で魔力を込めて、鑑定を発動させた。


 そしてそのステータスを、無事に(あば)く。



 種族:リヴァイド・オブ・コラプス(ルルリア)

 種族特性

【水闇属性適性】【水闇音属性耐性(大)】

呪毒(じゅどく)命肉(めいにく)】【呪毒攻撃付与】

【魔音師】【崩壊の歌声】【カースソング】

【ダークプール】【ソナー】【巨躯恵体(きょくめぐたい)

【状態異常耐性(大)】【自己崩壊】


 エクストラ

【ダンジョンボス】

【コラプスモンスター】


 スキル

【歌上手】【泳ぎ上手】【剣適性】

【スラッシュ】【サークルスラッシュ】

【ウォーターシールド】【レインニードル】

【ウォーターランス】【上級鑑定妨害】



 なんだこのステータスは? 特殊なスキルが多すぎる。


 それに、コラプスモンスター? とりあえず、効果を見てみよう。


 俺はそう思いながらも、状況が状況なので、手早く効果を確認し始める。


 

 名称:コラプスモンスター

 効果

 ・元になった素体の種族特性とスキルをランダムに取得する。

 ・元になった素体の強さに応じて、生命力や魔力、身体能力などが上昇する。

 ・種族特性に【自己崩壊】のスキルを得る。

 ・あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とする。

 ・コラプスモンスターは、元々の個が崩壊する。

 ・即死効果が無効になる。



 色々思うところがあるが、自己崩壊が気になった。


 なので軽く目を通すだけに留めると、種族特性にある自己崩壊の効果を確認する。



 名称:自己崩壊

 効果

 ・生命力と魔力が一定量を下回った場合、肉体は灰へと崩れ去る。

 ・継続して生命力と魔力が消費され続けていく。

 ・あらゆる回復効果を受け付けなくなる。

 ・暴走状態となる。

 ・全ての基礎能力が増加する。

 ・全てのスキル効果が僅かに上昇する。



 これは……どう考えてもデメリットが大きすぎる。


 今このとき力を得た代わりに、全てを失ってしまう。そんなスキル効果だった。


 レッドアイは、このことを知っていたのだろうか?


 いや、デメリットが大きすぎる。


 ダンジョンボスは倒されてもいずれ復活するが、元の姿に戻れるとは限らない。


 あまりにも、博打(ばくち)が過ぎる。


 だとすれば必然的に、赤い煙が怪しい。


 何となくだが、コラプスモンスターはイレギュラーモンスターに通ずるところがある気がする。


 特に『あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とする』という部分が、まさにそれだ。


 もしかして赤い煙は、人工的にイレギュラーモンスターを作ろうとしたのかもしれない。


 その実験として、このダンジョンに種を仕込んでいた可能性がある。


 あいにくこれまでは、ボス部屋に辿り着いた者はいなかった。


 結果としてレッドアイは長い間、それを知らずに君臨していたのだろう。


 だとすれば、何とも(あわ)れなことだ。


 レッドアイはあのお方、つまり赤い煙に特別目をかけてもらっていると言っていた。


 しかしその特別とは、実験体としての特別だったのかもしれない。


 このボス戦は何かあると思っていたが、流石にこれは予想できなかった。


 直感スキルも、その詳細までは流石に伝えてはくれない。


 そして残念だが個が崩壊してしまった以上、ルルリアを救うことはできなくなった。


 現状エクストラを消したり無効化したりする方法は、存在しない。


 だがこの先、もしかしたら何か発見できる可能性もある。


 であれば俺ができるのは、ルルリアを一先ずカード化して、その日に備える事だけだろう。


 少々心苦しいが、これはもう倒すしかない。


 俺が、そう覚悟を決めた時だった。


 突如として、ダンジョンが崩壊(・・)し始める。


「な!?」


 すると床が消えるように崩れ去り、俺の体はそのまま落下していく。


 そして着水するとの同時に、紫色の空が広がった。


 これは……ダンジョンの外に放り出されたのか!?


 俺は生活魔法の氷塊で水面に厚い氷の板を作り出すと、その上に乗る。


 周囲には配下たちも着水したのか、海に浮かんでいた。


 そしてそれは当然、コラプスモンスターになったルルリアも同じである。


「ギャァアアアアア!!!」


 ルルリアは金切り声を上げると、周囲にいる俺のアンデッド軍団を攻撃し始めた。


 暴走状態とあったためか、俺ではなく近くにいた存在を無差別に攻撃しているのだろう。


 またここはダンジョンの外かもしれないが、問題なく行動できているみたいだ。


 これは、『あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とする』というコラプスモンスターの効果が影響しているのだろう。


「にゃーん!」

「ゴッブ」

「ひ、酷い目に遭ったッス」

「きゅい!」

「ダーリン!」

「ごしゅびしょびしょだね?」

「カタタ」

「ギギギ」


 するとレフたちが、俺の元に集まってきた。


 状況は悪化したがとりあえず今は、ルルリアを倒すことに集中した方がよさそうだな。


 俺はそう考えると、配下たちに声をかける。


「お前たち、あいつを倒すぞ!」

「にゃん!」

「ゴッブア!」

「承知したッス!」

「きゅいい!」

「おけまるー!」

「うん!」

「カタッ!」

「ギギ!」


 そうしてある意味、ボス戦の第三ラウンドが始まるのだった。



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