247 船のダンジョン ④
この両刃斧の振り子罠は、普通ならかなり理不尽な物だろう。
しかし、俺たちの場合は違った。
「アンク、向こうまで行ってきてくれ」
「おけまるー!」
俺はアンクにそう命じて、両刃斧の届かないところからアンクを飛ばす。
こうしたズルに何か起きるかと身構えてもいたのだが、結果アンクはゴール地点に問題なく辿り着いた。
そして当然のように、召喚転移で俺たちも移動する。
ふむ。普通にゴールできたな。
「あーし役に立ったでしょ?」
「ああ、助かった」
「ガァ。役に立てて嬉しい!」
そう言うとアンクは、俺の肩に乗って羽をすり寄せた。
今回は役に立ったので、羽を撫でてやる。
「ガァ。きもちぃ」
「にゃぁ!」
「きゅい!」
するとレフとアロマが抗議の声を上げるので、ついでに軽く撫でてやった。
最近誰か一匹が撫でられると、他も群がって来るんだよな。
そんなことを思いつつ、俺たちは両刃斧の振り子罠を突破した。
しかし少し気になる事があったので、先に進む前にスケルトンナイトを召喚する。
「済まないが、この先を見てきてくれ」
「カタッ!」
そう言うとスケルトンナイトが、細道の横にある穴に落ちていく。
この罠の両脇にある穴に落ちた場合、どこへ行くのか気になったのだ。
そしてスケルトンナイトが落ちていくと、どうやら着水と同時に離れていっているらしい。
なるほど。ここから落ちると、ダンジョン外へと排出されるのか。
海の上と考えると、かなり効率的な罠だろう。
普通の冒険者なら、海に排出されたら一巻の終わりである。
ちなみにだいぶ前に落ちたもう一体のスケルトンナイトだが、ゾンビアリゲーターたちが無事に見つけたようだ。
これでダンジョン外に排出されたことが、立証されたことになる。
とりあえず今落ちたスケルトンナイトも含めて、カードへと戻す。
カード召喚術だとこうした通常確認が困難なことも可能なため、かなり便利だ。
さて、この部屋で特に変わったところはもう無いし、次の部屋に行こう。
鍵と罠はないみたいなので、ホブンに開けさせる。
そして次の部屋に入ると、即座に背後のドアが消えた。
また罠か?
そう思い周囲を見渡すと、部屋は広く何も置いていない。
前方には、ドアが普通にあった。
一体何が始まるのかと思っていると、天井が少しずつ下がってくる。
「そういうことか……急ぐぞ!」
俺はそう言って、配下たちと共にドアの元へ向かう。
また追加の罠を警戒して、クモドクロを先頭に走らせた。
幸い追加の罠は無いみたいで、問題なくドアまで辿り着く。
だが当然のように、ドアには鍵がかかっていた。
しかも難易度が異常に高いらしく、クモドクロでも時間がかかるらしい。
なるほど。この天井が落ちる前に、何か仕掛けを解除する必要があるのか。
だが時間があまり無いのも確かだな。とりあえず、時間稼ぎをしよう。
俺はそう考えると、ロックゴーレムを四体召喚した。
種族:ロックゴーレム
種族特性
【地属性適性】【地属性耐性(中)】
【ストーンバレット】【硬化】【再生】
【物理耐性(中)】
少し床が抜けないか心配だったが、問題なさそうだ。
いや、床が抜けて脱出させないために、床も強化されているのだろう。
ロックゴーレムが乗っても、軋みすらしない。
なら、追加で出しても大丈夫そうだな。
そう判断した俺は、新たに六体召喚した。
これで合計十体のロックゴーレムが、この部屋に現れる。
「お前らは天井を支えてくれ」
「「「ゴゴゴ!」」」
ロックゴーレムたちにそう命じて、天井を支えさせた。
それにより、天井の動きが止まる。
流石にBランクのロックゴーレム10体を押しつぶす力までは、天井にはなかったみたいだ。
ある意味十本の柱が建ったみたいなものだし、十分に時間稼ぎはできるだろう。
もちろんその間配下たちと手分けして、仕掛けの解除方法も探す。
途中海賊アンデッドたちが召喚されてきたが、相手にはならない。
結果部屋には五つのボタンが隠されており、全て押したところ天井の動きが完全に止まった。
ちなみにボタンを見つける間に、クモドクロがドアの開錠には成功している。
なんとなく、全部見つけたくなったのだ。
それと最初の天井の落ちる速度からして、上級開錠のスキルでギリギリ間に合う程度だったな。
俺たちはロックゴーレムたちが支えていたので、十分に余裕があったが。
これも普通の冒険者だったら、かなり悪辣な罠だっただろう。
なおボタンの位置は、以下の通りである。
・カーペットの下に一つ。
・色の違う部分の壁の裏に一つ。
・途中出てくる海賊アンデッドが所持しているのが一つ。
・落ちてくる天井に二つ。
こんな感じだった。
冷静に見れば分かるが、焦って集中力が散漫になっていた場合、見つけるのは困難かもしれない。
そんなことを思いつつ、俺たちはロックゴーレムたちをカードに戻すと、次の部屋へと向かう。
さて、次はどんな罠が待っているんだ?
もはや罠がある前提で、進んでいく。
そして次の部屋は、迷路のようになっていた。
しかも足元には水があり、少しずつ水位が上昇してきている。
加えて当然のように、出入口が消えた。
ちなみに先ほどの部屋と同じなら、罠を突破することでこの出入口は再び現れることだろう。
それと試しに近くの壁を力強く叩いてみると、スライムのようにぐにゃっと凹むだけで、壊れることはない。
ならばと次は双骨牙で斬り裂いてみるも、切った瞬間即座に繋がってしまう。
この再生速度では、繋がる前にストレージに収納するというのも難しい。
またレフにシャドーランスを叩き込ませても、壊れることはなかった。
ふむ。壁の破壊は許さないということか。
鑑定しても異常は見られないので、モンスターとかでもなさそうである。
天井が下がってくる罠の次は、水が上がってくる罠ということか。
どちらもいやらしい罠だ。
それに壁の破壊は不可能みたいであり、正攻法で挑む必要がありそうである。
だがまあ、先ほどと同じように、時間を稼ぐことは可能だろう。
俺はそう思い、足元の水をストレージに収納していく。
またできるだけ入り口を大きくして、移動しながら再配置していった。
ものすごい速度で水が吸い込まれていくので、水位の上昇を遅らせることができそうである。
けれども単なる時間稼ぎというのは事実なので、先を急ぐことにしよう。
また迷路を攻略するのは流石に手間なので、ここはカード召喚術の能力を遺憾なく発揮することにした。
「でてこい」
「「「――!」」」
そう言って召喚したのは、ゾンビモスキート。
種族:ゾンビモスキート
種族特性
【闇属性適性】【生命探知】【吸血】
【疫病攻撃】【疫病耐性(小)】
【身体能力上昇(小)】
百匹ずつ召喚して先行させると、それを十回ほど繰り返す。
結果千匹のゾンビモスキートが、迷路内を飛んで行った。
道中の敵は極力無視をして、ゴールを探させることに専念させる。
多少はやられるかもしれないが、これだけいれば大丈夫だろう。
当初はロットキャリアを召喚して、罠を強制発動させながら進ませようとも考えたが、どんな罠があるか分からない。
もしかしたら、一気に水位を上昇させる罠がある可能性もあった。
なのでここは、飛行可能で小回りの利くゾンビモスキートを選んだのである。
さて、俺たちも進もう。
そうして、迷路の攻略を始めるのであった。




