246 船のダンジョン ③
取り外した格子状の床を下りると、そこはスケルトンナイトの言っていた通りの牢屋である。
とりあえず先に下りたスケルトンナイトを、カードへと戻した。
牢屋の中が狭く、動きづらいという理由もある。
さて、この牢屋はちゃんと、先へと続いているのだろうか。
先ほどの長い廊下の件があるだけに、少々心配になる。
だがそう考えたところで仕方がないので、実際に先へと進むことにした。
現在いる牢屋の出入り口は、壊れていて容易に出ることが可能である。
また他にも無数の牢屋があり、その中にはいくつもの人骨があった。
当初はスケルトンかと思ったのだが、普通にただの人骨のようである。
おそらくただ単に、ダンジョン内のオブジェなのだろう。
また床についてだが、数センチほど水が浸水している。
天井から雨漏りのように、ポタポタと水が滴り落ちていた。
加えてその影響なのか、燭台のロウソクは完全に消えている。
幸い生活魔法の光球があるので明るいが、無ければ一帯は闇に包まれていたことだろう。
俺たちが使った格子の穴も、ここからは漆黒の闇に染まっており、先が見えない。
これはエリアが切り替わっている関係で、そうなっているのだと思われる。
とりあえず、周囲の状況はそんな感じだ。
ちなみに敵モンスターはおらず、辺りは静寂に包まれている。
ある意味ここは、安全地帯なのかもしれない。
ただジメジメしていてゴミも水に浮いており、悪臭も漂っているので居心地は最悪だが。
そんなことを思いつつ前方を見れば、先の方にドアが一つあった。
ホブンに開けさせようとすると、どうやら鍵がかかっているらしい。
なのでちょうどいいと思い、クモドクロに鍵を開錠させる。
クモドクロは上級開錠のスキルがあるので、大丈夫だろう。
すると思ったよりも手こずっていたようだが、数分後には見事開錠に成功した。
「でかした」
「カチッ」
クモドクロは遅れて申し訳ないと言うが、開けられたのならそんなことは構わない。
それよりもこのドアはシンプルな作りであり、複雑な鍵には見えなかった。
だとすれば、ダンジョンが意図して難易度を上げたことになる。
もしかして、この牢屋が無数にある部屋のどこかに、鍵が隠されていたのだろうか?
思えばこの格子の床底に牢屋へと続く道があることも、どこかにヒントがあった可能性もある。
う~む。一部屋一部屋こまめに探索していなかったし、そうした見逃しがあったのかもしれない。
まあ、現状は上手くいっているし、良しとしよう。
そうしてドアを開き、先へと進む。
「ヴぁぁ!」
「カタカタ!」
「ヴうう!」
「カタタ!」
するとそこは牢屋の見張り員が待機する場所だったらしく、モンスターが無数にいた。
といっても、またしてもスケルトンパイレーツとゾンビパイレーツである。
そろそろ別のモンスターが見たいが、仕方がない。
「ゴッブア!」
「うにゃあ!」
「ガァ、よわよわ~♡」
「きゅぃい!」
あっという間に、配下たちが蹴散らした。
ふむ。この部屋も、荒れ果てているな。
周囲を見れば、壊れたテーブルとイス。割れた酒瓶などが転がっている。
あとは壁に鍵かけがあり、いくつか鍵が残っていた。
俺はそれを手に取ると、念のために持っていくことにする。
ちなみに鍵の内一つは、牢屋の出入り口のものだった。
だとすれば残りは、牢屋そのものの鍵かもしれない。
一応持っていくことにしたが、実際使い道は無いかもしれないな。
そう思いながらも、モンスターの残骸をストレージに収納した。
他に変わったところは……ん? これは日誌か?
すると壊れた引き出しの一つから、日誌のようなものを見つけた。
パラパラとめくってみると、そのほとんどが文字がつぶれて読むことができない。
しかしその内の一部は、問題なく読むことができた。
この日誌には、こんなことが書かれている。
__________
『〇×年〇〇の月××日』
牢屋の見張りは暇すぎる。
身体も痒いし、やってられないぜ。
俺は船長の友人の息子だから、楽な仕事を任されているが、本当にやることがない。
牢屋のカスどもはおとなしいし、無駄に痛めつけることは禁止されている。
賭け事にも飽きてきた。
そもそもイカサマをしたのをバレてから、どいつもこいつも俺と賭け事をしちゃくれねぇ。ったく、この骨なしどもめ。
まあ、船長に贔屓されている俺に、口答えできないというのもあるだろう。
はぁ、これで女でも居れば最高なんだが、船長が商品以外は女を船に乗せたがらないんだよなぁ。
災いがどうとか言っているが、実は船長、男色なのか? だったら俺も気をつけないとな。
ああ、身体が痒い。水を浴びたいが、水は貴重だ。
海水じゃもっと痒くなりそうだし、最悪だぜ。
それはそうと、商品の女だ。
確かこの前、偶然にも人魚の女を捕まえたんだよな。
あれはすげえ美人だったぜ。
下半身は魚だが、そこに目をつむれば全然イケる。
はぁ、上の穴でいいから、使わせてくれないものだろうか。
チッ、船長には逆らえないし、これは諦めるしかなさそうだ。
にしても、人魚の肉を食えば不老不死になるってのは本当だろうか?
だったら是非食ってみたいが、まあ無理だろうな。
肉をそいだら、それこそ商品価値が下がっちまう。
他の奴らも手を出すかもしれないし、人魚は船長室で大事に捕えているんだよな。
船長は最強だし、手を出したらミンチにされちまうだろう。
俺は賢いから、その点はよく理解しているつもりだ。
ただもしものことがあるかもしれないし、分け前が俺に回ってくるように、ここは手を回しておこう。
はぁ、ちくしょう。痒い。なんでこんなに痒いんだ!
頭がおかしくなりそうだぜ!
あ? 顔の肉が剥がれて……ウマイ。
は? い 俺、自 の肉 食っ のか?
に かゆ。痛 気 いい。
お か 減っ き
かゆ うま
__________
最後の方は読めなくなっているが、おおむね状況は理解した。
船長とはやはり、このダンジョンのボスのことだろう。
それと、人魚もいるらしい。そちらも、アンデッド化しているのだろうか?
あと気になるのは、この船に乗っていた海賊たちも、女王たちのようにアンデッド化されたのかもしれない。
書いた人物も、最後の方ではゾンビ化していたのではないだろうか?
だとすれば犯人は、あの赤い煙しかいないだろう。
このダンジョンが普通と違うのは、それが関係しているのかもしれない。
また海賊アンデッドたちには、生前の記憶はなさそうだ。
カード化した海賊アンデッドを召喚したときに、そう答えている。
これはルーラーモスキートのゾンビ化液生成の効果と、少し似ていた。
だがこの船の船長も女王と同じ状況なら、アンデッド化していても記憶があるかもしれない。
とりあえず船長と遭遇したら、まずは対話を試してみよう。
まあ、既に侵入者となっている以上、難しいかもしれないが。
あとは、人魚が気になる。
日誌の内容からして美しい女性人魚のようだが、現状ではどうなっているのだろうか?
一体しかいないのであれば、是非カード化したい。
何か、特殊なスキルを所持している可能性もある。
それと一応この人魚と出会ったら、こちらも最初は声をかけてみよう。
ダンジョンボスの船長よりは、話が通じるかもしれない。
俺はそう決めると、ある程度この部屋を物色する。
結果特に何も見つからないので、部屋を出て先へと進むことにした。
次の部屋には、新種のモンスターがいればいいのだが。
そう思いながらホブンにドアを開けさせ、次の部屋に入る。
なおこのドアには、鍵などはかかっていなかった。
そしてやってきた次の部屋を見て、俺は言葉を失う。
「なんだ、これ……?」
目の前には、細く長い道が続いている。
加えてその両サイドには、底の見えない漆黒の闇が広がっていた。
また何より、天井からは巨大な両刃斧がぶら下がっている。
その両刃斧が、振り子のように絶え間なく動いていた。
更に前方を注意深く見れば、遠くにはドアのようなものが見える。
「つまり、この罠を越えていけということか?」
俺は思わず、そう呟いた。




