243 最後の宝珠を求めて
挨拶回りは、特に問題なく終わる。
ただギルンが少し付いてきたそうだったが、正直いても邪魔になるので気づかない振りをした。
そもそも、ギルンにはまだまだ学ぶことがある。
なので今は、そちらを優先するべきだろう。
そうして俺は最後の宝珠があるダンジョンへと、召喚転移を実施した。
「ふむ。なんだか磯臭いな」
「にゃぁん」
最初に感じたことは、磯臭さ。
そして霧の立ち込めた、薄暗さだろう。
また何よりも、揺れが酷い。
周囲には、フジツボのような貝や海藻、魚の死骸などが散乱している。
他にも網やタル、木箱のようなものが乱雑に並んでいた。
更に足場となっている木材は、今にも腐り落ちそうで頼りない。
目の前にある巨大なマストには、ドクロが描かれた帆が広がっている。
そう、このダンジョンは海賊船、それも見た目からして幽霊船だった。
最後の宝珠は少しずつ移動していたが、こうして海の上を航海していたのなら当然だ。
ちなみにゲシュタルトズンプフの事があったので、この幽霊船を念入りに鑑定してみる。
だが結果として、この船はモンスターではないみたいだ。
しかし、この幽霊船自体がダンジョンというのは確かのようである。
周囲を見れば、既にモンスターたちが俺とレフを取り囲んでいた。
「カタカタ」
「ヴぁぁ」
「カタタ」
「ヴうう!」
数は少し多いが、問題ない。それに囲まれたのは、狙い通りである。
なので俺に焦りなどは無く、冷静に鑑定を飛ばした。
種族:スケルトンパイレーツ
種族特性
【生命探知】【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【短剣適性】【スタブ】
種族:ゾンビパイレーツ
種族特性
【生命探知】【闇属性適性】【身体能力上昇(小)】
【短剣適性】【スタブ】
見た限りどちらも、Dランク程の強さをしたスケルトンとゾンビである。
海賊らしく頭にはバンダナを付けており、服装はボーダー服だ。
ちなみに色はスケルトンが赤、ゾンビが青である。
また手にはカトラスという短剣? が握られていた。
短い刀剣にも見える。
まあ、試し打ちの相手には、ちょうどいい。
俺はそう思うと海賊アンデッドの群れに向けて、手の平を向ける。
そして取得したばかりである、このスキルを繰り出した。
「喰らえ、セイントカノン!」
するとその瞬間、海賊アンデッドへと聖なる光が爆発する。
「!!!??」
「!!」
「ヴぁ――」
「カタ」
結果として海賊アンデッドたちは消し飛んだものの、甲板には一切の傷がない。
さいあく幽霊船なので消し飛ぶことも考えていたが、ダンジョン故なのか大丈夫みたいだった。
それを確認すると俺は威力を少し抑えながら、セイントカノンを連射していく。
よし、問題なく撃てるな。
ただ連射しようとすると、発動に必要な魔力が少し増えるみたいだ。
けどまあ、俺にとっては誤差のようなものだな。
続いて右手だけではなく、左手も合わせて二発同時に撃ってみる。
こちらも問題ないが、連射以上に魔力の消費が上昇した。
加えてここに連射も加えると、かなりのものである。
これで威力を上げれば、普通の魔法使いならすぐに干上がってしまうだろう。
しかし俺には魔法制御、魔力消費減少(中)、魔力操作上昇(中)があるので、かなり魔力の消費を抑えられていた。
本来魔法は使い方に独自性を出せば、その分難しく消費魔力もどんどん増えていく。
生活魔法を戦闘に使い始めたときは、それで大変苦労した。
だが今では、これまでの経験と手に入れたスキルを駆使することで、十分許容範囲に収まっている。
以前のように、魔力欠乏症で窮地に陥る事は、おそらくもう無いだろう。
それに現状俺の魔力は、昔より遥かに増えている。
魔力欠乏症になるには、相当極端に魔力を無駄に消費しなければ難しいだろう。
だとすれば、あの時魔力欠乏症になっていたのは、ある意味良かったかもしれない。
今後訪れる赤い煙やゲヘナデモクレスとの戦いでなってしまえば、致命的すぎる。
まあ、そこまで追い詰められた時点で、負けは濃厚かもしれないが。
そんなことを思いながら、俺は周囲にいる全ての海賊アンデッドたちを殲滅した。
「にゃぁん!」
セイントカノンで消し飛ぶ光景が爽快だったのか、レフが楽しそうにそう鳴き声を上げる。
この幽霊船は外から見てもそれなりに大きいが、甲板に入ればダンジョンらしくとても広い。
幽霊船を見つけたアサシンクロウの視界から見た感じと、甲板からの広さを比べるとそんな違いがあった。
おそらくダンジョンの力で、広さなどが拡張されているのだろう。
なので当然、海賊アンデッドの群れも数百体規模である。
Dランク程度だが、普通ならかなりの脅威だろう。
それにこの幽霊船、船のダンジョンに辿り着くのも難しい。
理由は、海の上を絶え間なく動いているからである。
ある意味ダンジョンに侵入するまでが、一番難しいのかもしれない。
まあ召喚転移の使える俺には、関係のないことだったが。
さて、こいつらのカード化は、十枚ずつでいいか。
残りはダンジョンポイントのために、女王へと素材を譲渡しよう。
そう思い俺はスケルトンパイレーツと、ゾンビパイレーツをそれぞれ十枚ずつカード化した。
ちなみにセイントカノンで完全に消し飛ばすと、思った通りカード化ができない。
やはり体がまったく残っていないと、難しいのだろう。
なので途中からセイントカノンの威力を弱めて、ある程度部位を残したのである。
特に魔石は消し飛ばさないように、注意した。
魔石が残っている方が、カード化成功率が上昇するのである。
そうしてカード化は無事に済んだので、残った残骸をストレージにしまっていく。
本当は綺麗に残した方が変換率が良いらしいが、Dランクはそもそも変換ポイントが低いらしい。
なので女王はもしBランク以上のモンスターを譲渡してくれるのであれば、その際はできれば丁寧に倒してほしいと言っていた。
もちろん、カード化を優先して構わないとのこと。
あくまでも、余裕があれば持ってきてほしいと言っていた。
まあ俺としても、これからダンジョンには多くのポイントが必要な事は理解している。
故にできる限りは、協力を惜しまないつもりだ。
なのでカード化する気が起きない相手であれば、素直に差し出そうと思う。
しかし初見のモンスターは大抵欲しくなるので、おそらく女王に回せるのはせいぜいCランクまでだろう。
さて、これでモンスターの掃除も済んだし、そろそろ探索を始める頃合いか。
でもその前に、今回はどの配下を連れていくのかを考えよう。
まず、クモドクロは確定だ。
そもそも罠関連をどうにかしてもらうために、ヴラシュに作ってもらったのである。
なので、ここで使わない手はない。
あとはやはり選ぶならば、進化が近そうな配下を中心にした方がいいだろう。
レフは当然として、メンバーは他にホブン・アンク・アロマに決める。
本当はギーギルとナンナも召喚しようと思っていたが、赤い煙の件で優先度は低くなった。
ゲヘナデモクレスとの戦いもあるし、配下を鍛える必要がある。
なのでこのダンジョンを攻略した後に、これからの事について話し合う場を設けようと思う。
いずれはギルンに譲渡する件も含めて、言っておく必要があるはずだ。
スキルや経験が豊富なので少し惜しいが、やはり家族からずっと引き離すのも可哀そうだと思った。
それとギルンも今は頑張っているし、譲渡する日もそんなに遠くはないかもしれない。
なので、ギーギルとナンナにはもう少し待ってもらおう。
あとは進化したばかりのリーフェも、今回は無しとする。
状況次第では召喚するかもしれないが、現状出しても過剰戦力になってしまう。
スキルの練習もさせたいが、それはまた別の機会にする。
俺はそう判断すると、今回連れていく配下たちをさっそく召喚した。
「ゴッブア!」
「ガァ、あげぽよ~」
「きゅい!」
「カチッ」
それぞれやる気に満ちているようであり、このダンジョンでも頑張ってくれることだろう。
ちなみにクモドクロは、『カチッ』と顎を鳴らして意志を表している。
クモドクロも初のダンジョン攻略なので、頑張ってくれるみたいだ。
「にゃぁん!」
そして最後には、もちろんレフも鳴き声を上げる。
戦力的にはレフが加わることで、かなり安定するだろう。
今回も配下たちの成長を促すために、俺はできるだけ手出しをしないつもりだ。
なので他の配下たちが危ないようであれば、レフには率先して動いてもらう。
レフにはそうした面でも、成長してもらいたい。
とりあえず、メンバーはこれで良いだろう。
さて、最後の宝珠を手に入れるために、探索を始めるか。
そうして俺たちは、船のダンジョンの攻略へと出るのであった。




