SS タヌゥカの冒険 ①
時期的に033くらいの話です。
俺の名前はタヌゥカ。神に選ばれた転移者だ。
以前までの記憶は無いが、知識だけは残っている。
なのでこの状況がどれだけ素晴らしいことか、即座に理解した。
他にも転移者がいるみたいだが、俺を引き立てるためのモブだろう。
どうせそういう奴らは、中二病みたいな名前に違いない。
それに比べて、俺の名前であるタヌゥカは完璧だ。
最初は無難に田中にしたんだが、転移するのは異世界になる。
つまり異世界人だと、上手く発音できないはずだ。
なので俺は異世界人でも発音しやすいように、田中からタヌゥカにした。
そしてキャラクターメイキングだが、あれはポイントが少なすぎる。
なんだよ100って。せめて300はよこせよ。
容姿を変えたかったが、諦めるしかなかった。
まじでクソ過ぎる。
そして妥協に妥協を重ねて、俺は最終的にこれで納得した。
名称:タヌゥカ
種族:人族
年齢:16
性別:男
神授スキル
【撃滅斬】
エクストラ
【鑑定】【言語理解】【偽装】
【アイテムボックス】【剣適性】
【火属性適性】【身体能力上昇(中)】
【状態異常耐性(小)】【絶倫】
【テクニシャン】【異性好感度上昇(大)】
俺はポイントの全てを、エクストラに一点集中した訳だ。
実にバランスが取れた構成になっている。
また俺の神授スキルである【撃滅斬】だが、こんな効果だった。
名称:撃滅斬
効果
・斬撃武器から強烈な一撃を放つことができる。
・放つ前に力を溜めれば溜めるほど、威力が上がる。
・魔力を込めるほど、威力が上がる。
・集中力を高めるほど、威力が上がる。
・斬撃武器での技量が高いほど、威力が上がる。
・長く使用している武器ほど、威力が上がる。
見れば分かる通り、一撃必殺の大技という感じだ。
まさに、主人公らしい能力にほかならない。
つまり俺は、選ばれた存在だ。
どんな強敵でも、この神授スキルがあれば勝てるに違いない。
そして異世界で、俺は美少女ハーレムを手に入れてみせる!
夢が広がるぜ。
◆
そうして俺は異世界に転移したわけだが、どこかの街の中だった。
周囲は汚くて、スラム街と呼ぶのに相応しい場所だ。
また俺はエクストラだけにポイントを使ったからか、何も持っていない。
服は白いシャツとズボン、あとはサンダルだけだ。
せめてもう少し、マシな服や道具とかよこせよな。
神のくせにケチ過ぎだろ。
武器もないし、正直俺は不安になった。
神授スキルも、剣が無ければ使えないかもしれない。
そう思い、俺はこんな薄汚れた場所からさっさと離れることにした。
だが運悪く、ガラの悪い男どもに囲まれる。
「なんだこいつ? 芋みたいな顔してるぜ」
「確かにな! それより良い服を着てんじゃねえか」
「げへへ、服は奪ってこいつは奴隷商に売っちまおうぜ」
「ひっ!」
俺は思わず、恐怖から尻もちをついてしまった。
これはポイントで初期位置を、安全な場所にしなかったからか!?
くそが! ふざけるなよ! 今時主人公が苦戦するストレス展開なんて流行らねえんだよ!
俺は心の中で悪態をついた。
だが、状況は変わらない。
気が付けば俺はあまりの恐怖から、尿を漏らしてしまう。
「おいおい、こいつもらしやがったぜ!」
「てめぇ! その服が汚れたじゃねえか!」
「げへへ、こりゃ、売る前に色々分からせる必要があるな。俺が一番だぜ」
そして男の一人が俺に飛び掛かってきた瞬間、俺は偶然近くに落ちていたガラス片を拾い、反射的に叫んでいた。
「げ、撃滅斬!」
するとガラス片から力の奔流が解き放たれ、男を胴体から真っ二つに斬り裂く。
更にその後ろにいた男たちも巻き添えで、全滅した。
「は、はは。ざまあみやがれ。しゅ、主人公である俺を襲おうとしたから、当然だ。俺は悪くねえ。悪くない。これは正当防衛だ。主人公に悪人が殺されるのなんて、当たり前のことじゃないか。そうだ。俺は主人公。主人公が悪人を殺して何が悪い!」
俺は自分にそう言い聞かせたが、しばらくその場から動けなかった。
するとそこに、一人の男が現れる。
「な、なあ。剥ぎ取らないのか? い、いらないなら。俺にくれよ」
「は? クソが! 俺から奪うやつは死ねよ! 撃滅斬!」
「グベ!」
俺の戦利品を奪おうとした”悪人”は、”主人公”であるこの俺が殺した。
そうして俺は立ち上がると、戦利品を集める。
碌なものは持っていなかったが、”チュートリアル”の敵ならこんなものだろう。
これから、俺の成り上がりストーリーが始まる。
俺は神に選ばれた転移者、タヌゥカだ。




