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238 リーフェのお願い


 召喚したリーフェは、ニコニコ笑みを浮かべながら俺の周りを飛び回る。


「わいわ~い! 今日一日ごしゅは、私のものだよ~!」


 そう言って、リーフェは俺の頭の上に抱き着くようにして着地した。


 ちなみに進化のために渡しているネックレスやメダルは、一時的に預かっている。


 またよほどこの褒美が嬉しいのか、落ち着きがない。


 そしてしばらくそんな感じで喜んだあと、ようやくリーフェが最初の願いを口にする。


「私、トーンシロップが浴びるほど欲しい! だめ?」


 最初のお願いは、予想した通りのものだった。


 やはりリーフェは、トーンシロップが欲しいようである。


 当然これについては、問題ない。


「いいだろう。けど浴びるほどというが、どれくらいだ?」

「ほんと! やった~! えっとね、お風呂で使った(おけ)にいっぱい!」

「そうか。分かった」


 リーフェの願い通り、俺は大浴場で使っていた木製の桶を取り出す。


 これは高さ約15cm、横約25cmの物である。


 確かこれにお湯を入れて、リーフェは入浴を楽しんでいた。


 リーフェの身長はおよそ20cmなので、少し大きい感じである。


 ちなみにこの桶についても、クモドクロに作ってもらった。


 材料さえあれば、説明した通りの物を瞬く間に作ってくれる。


 これまで製作物は俺が作っていたので、とても助かった。


 そんな木製の桶を、俺は与えられた自室のテーブルの上に置く。


 また一応、清潔の生活魔法も発動しておいた。


 そうして木製の桶の中に、用意しておいたトーンシロップを次々に入れていく。


 黄金色のシロップが、(びん)の中から(したた)り落ちた。


 最終的にはリーフェの身長の約半分くらいのところで、一度ストップする。


「これくらいでどうだ?」

「わぁ~! わわぁ~! うん! 十分だよ! ごしゅありがと~! あま~い!」


 そう言ってリーフェが桶からシロップを両手ですくい、一気に頬張った。


 小さな口に流し込み、どんどん嚥下(えんげ)していく。


 そんなに飲んで大丈夫かと心配になるが、カードのモンスターであれば大丈夫だろう。


 もしお腹が痛くなっても、一度カードに戻せばすぐに治ると思われる。


 また同時にシロップで手と顔だけではなく、全身までもがべとべとになっていく。


 一度綺麗にした方がいいだろうと、俺がそう思った時だった。


「わわっ、べたべた~。あっ! 良いこと思いついた!」


 するとリーフェは何かを思ったのか、着ている服を全て脱ぎ捨てると、なんと桶の中に入り込んだ。


 リーフェは自身の腰まであるトーンシロップを手に付けて、嬉しそうに舐め始める。


「えへへ、おいし~!」


 俺はこれについて(あき)れるだけだが、人によってはヤバイ光景かもしれない。


 リーフェは身長20cmほどしかないが、体は少し幼くも女性的である。


 そして腰までの長い金髪と小さなツインテールがあり、青いたれ目をしている顔面は、かなり整っていた。


 一般的な観点からすると、リーフェは美少女だろう。


 そんなリーフェが、粘性のある黄金のシロップを全身に浴びて、ペロペロと舐めているのだ。

 

 これまで出会った転移者であるタヌゥカ、ツクロダ、ブラッドが見ていたら、おそらく面倒なことになっていただろう。


「おいし~! ごしゅも飲む~? はい、どうぞ!」


 するとリーフェは両手でシロップを集めると、俺の方へと差し出してくる。


 どうやら、俺に直接飲んでほしいみたいだ。


 純粋な好意と願いは、中々に断りづらい。


 しかし今日ばかりはリーフェの願いを聞くことになっているので、俺は軽く溜息を吐くと、直接リーフェの両手に集まったシロップを飲ませてもらう。


 そのために顔を近づけて、口へと運んでもらった。


「おいしいでしょ~?」

「ああ、甘いな」

「えへへ、うん、あま~い!」


 リーフェは俺に直接自身の両手から飲ませると、満足したように笑みを浮かべる。


 そして再び、トーンシロップを(むさぼ)り続けるのであった。


 ◆


「も、もう、おなかいっぱい……」

「まあ、そうだろうな……というか、よく入ったな」

「う、うん。フェアリーはこういうところ、結構丈夫なんだよ~」


 あれからしばらく経ったのだが、まさか桶のシロップを全部飲み干すとは思わなかった。


 現在のリーフェといえば、空になった桶の中に寝ころんでいる。


 またその腹部はまるで、妊婦のように膨らんでいた。


 加えて、全身がシロップによりべたべたである。


 いろんな意味で酷い光景だ。


 明らかにその腹に収まり切らない量のシロップを飲んだはずだが、一体どこに消えたのだろうか?


 まったくの不思議である。


「むにゃむにゃ。もう入らないよ~。えへへ……」


 そして気がつけば、リーフェは満足したのか寝落ちしていた。


 とりあえず俺はそれを見て清潔で汚れを落とすと、リーフェを着替えさせる。


 だが膨らんだ腹部で、元の服が入らない。


 なので、何か代わりの物を用意する必要がある。


 けれども当然、リーフェの替えの服など持っているはずがない。


 故に一度クモドクロを召喚すると、今のリーフェに着れる服を作ってもらう。


 するとクモドクロは自前で糸を出せるので、それを使い純白のワンピースを作り出した。


 シルクのような肌触りのワンピースであり、清楚なお嬢様が着ていそうな印象を受ける。


 そう思いながらリーフェに着せると、そのままベッドに移動させた。


 とりあえず、起きるまで放置しておいてもいいだろう。


 俺は最後にクモドクロに礼を言って、カードへと戻した。


 そしてリーフェが起きるまでの間、俺は城の図書室で借りた本を読んで、時間を潰す。


 今日は一日付き合うって決めたからな。幸せそうに寝ているし、今はこのまま寝かせてやろう。


 本来カードになったモンスターには、睡眠が必要ない。


 けれどもこうしてリーフェが眠っているということは、自分の意志なのだろう。


 好きな物を腹いっぱい飲んで昼寝するのが、リーフェにとって一番の幸福なのかもしれない。


 俺はそう一人納得しながら、リーフェの目覚めを待つのであった。


 ◆


「ふぁ~よく寝たぁ~」


 あれから数時間後、ようやくリーフェが目覚める。


 膨らんでいた腹部も、いつの間にか元通りになっていた。


 いったいリーフェの胃袋は、どうなっているのだろうか?


 そう思いつつも、俺は読んでいた本を閉じてストレージにしまう。


「あれ? あれれ? なにこれ! かわいい~!」


 するとリーフェは今着ている白いワンピースに気がついたのか、驚きながらも嬉しそうに声を上げた。


「気にいったか? それは俺からのプレゼントだ」

「うれしい~! ごしゅありがとう~!」


 リーフェは白いワンピースを相当気に入ったのか、羽を広げて飛び上がる。


 ちなみに羽のある部分は布が無く、背中が見えているデザインという感じだ。


「えへへ。ごしゅ大好き!」


 そしてリーフェは俺の元に飛んでくると、勢いそのままに俺の頬へとキスをした。


 何だか子供に(なつ)かれたみたいな、そんな微笑(ほほえ)ましさがある。


「気に入ったようなら何よりだ。それで、他にお願いはあるか?」


 俺がそう問いかけると、リーフェは首を横に振ってからこう言った。


「ううん。もうお願いは無いよ。私、シロップもたくさん飲めたし、素敵なワンピースも貰ったから、満足だよ!」

「そうか。ならまた今度活躍したら、褒美をやろう」

「うん! 私、頑張るね!」


 俺が笑みを浮かべると、リーフェも嬉しそうに周囲をくるくると飛び回る。


 リーフェが満足したのなら、願いを叶えるのはもう十分だろう。


 さて、ちょうど時間も余ったし、この機会にリーフェを進化させるのもいいかもしれない。


 リーフェもやる気に満ちているし、大丈夫なはずだ。


 俺はそう考えると、リーフェに声をかける。


「リーフェ、これから進化してもらおうと思うが、問題ないか?」

「うん! 私はいつでもいいよ! 強くなって、ごしゅの役に立つから期待しててね!」

「ああ、期待している」


 そうして了承も得たので、俺はリーフェの進化準備を始めるのであった。



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