237 ベゲゲボズンの正体
大浴場での出来事以外にも、休息中は城にある本を読んだりもしている。
城の中には図書館のように広い図書室があり、様々な本が置いてある感じだ。
またこの城の本はアンデッドの街とは違い、白紙ではなくちゃんと文字が書かれていた。
どうやら元々城にあった本をダンジョンに登録して、保管しているとのこと。
なので仮に紛失しても、新たに生成することができるらしい。
歴史的な価値を考えると、これ以上ない保管の方法だろう。
まあ、この図書室を使用する者は、限られているんだけどな。
使用しているのは、主にヴラシュであるようだ。
ヴラシュはこの国の歴史などを、日々勉強している。
他にもダンジョンに少しでも貢献するために、色々と調べているみたいだ。
意外とヴラシュは、かなり勤勉なのである。
後は最近だとギルンの教育のために、エンヴァーグやシャーリーが来ているとのこと。
ちなみにギルンは、ここに来ると頭が痛くなると言っていた。
たぶん、勉強に対する拒否反応から来ているのだろう。
ギルンは体を動かすことは大好きだが、勉強は好きじゃないみたいだ。
教えているのがシャーリーだからこそ、頑張っているのだと思われる。
まあ、それについてはどうでもいいことか。
話を戻すが、俺もこの休息中に情報収集がてら、本をいくつか読むことにした。
するとそこで知った事なのだが、なんと悪の魔獣使いベゲゲボズンは実在していたらしい。
正直幼い頃の女王による空想だと思っていたのだが、これには驚いた。
ベゲゲボズンは肩書の通り、魔獣を扱う人物のようである。
黒い獅子の魔獣を引き連れた、テイマーだったようだ。
けれどもそんなベゲゲボズンは、ある日とある高位貴族の一族を皆殺しにしてしまう。
それにより悪人として指名手配されて、結果行方を暗ましたらしい。
本にはそれ以降ベゲゲボズンを見た者はおらず、別の大陸に国境門から逃亡したと考えられているようだ。
元々Sランクの冒険者ということもあり、とても有名だったらしい。
更にそれまで素行が良く、人々からの人気も高かったようだ。
なのでこの事件は、当時王国内で大ニュースとなったとのこと。
一般市民の間では、ベゲゲボズンを擁護する者が多かったらしい。
だが逆に貴族の間では、極悪人として広まっていた。
なので幼い頃の女王がベゲゲボズンを悪者扱いしていたのは、周囲の貴族から色々と教え込まれていたからだろう。
う~む。個人的にはやむにやまれぬ事情があり、事件を起こしてしまった印象だ。
ベゲゲボズンは、根っからの悪人ではない気がする。
それと気になるのは、黒い獅子の魔獣についてだ。
おそらく幼い頃の女王は黒猫状態のレフを見て、俺をベゲゲボズンだと言ったのだろう。
ベゲゲボズンの情報を、思わぬところで手に入れてしまった。
まあ昔の人物なので、もう存在してはいないだろう。
黒い獅子が気になるが、仕方がない。
読んだ本の中で特に気になった本については、そんな感じだ。
またいくつか気になった本を借りて、ストレージにいれておく。
本を借りることについては、女王から許可をもらっているので問題ない。
世界の蟹モンスターという、面白そうな本も借りておこう。
図書室での出来事については、以上である。
そして他に休息の間したことと言えば、やはりリーフェの進化先を考えることだろう。
幻の世界からの帰還後、リーフェには進化の兆しが出ていた。
今後の事を考えれば、早いうちに考えておいた方がいい。
なのでまずは、フュージョンとランクアップ、どちらかにするか決める必要がある。
しかしこれについては、現状ランクアップ一択だろう。
フュージョンで相性が良さそうなのは、Dランクのスリーピングバタフライくらいである。
それに赤い煙の事を思えば、素直にランクアップして幻属性を強化した方がいいだろう。
フェアリーの上位種ともなれば、より強力な幻属性魔法を獲得する予感がする。
加えてランクアップに必要なフェアリーの数も、おそらく足りるはずだ。
現在フェアリーは、リーフェを除いて14枚持っている。
トーンの時の経験から、同ランクであれば10枚で進化できるはずだ。
そういう訳で、リーフェの進化先はランクアップに決めた。
だがその時トーンで思い出したのだが、リーフェにも何か持たせてみるのも良いかもしれない。俺はそう考えた。
なので相性のよさそうな、偽装擬態のネックレスを渡してみる。
名称:偽装擬態のネックレス
説明
・装備中に限り、スキル【偽装擬態】を発動できる。
・このネックレスは時間経過と共に修復されていく。
・このネックレスは装備する者のサイズに調整される。
リーフェは姿隠しの種族特性のスキルを所持しているので、ちょうど良いだろう。
また幻属性魔法である、幻変装とも相性が良い気がする。
あとは本当に何となくだが、二つに割れた幻憶のメダルも持たせた。
このメダルは何となく、リーフェの幻属性に影響を与える気がしたのだ。
ちなみにリーフェは、この進化について納得をしている。
ただ進化したらどうなるか分からないので、先に活躍した分の褒美をやることにした。
おそらく進化させたら色々試したくなってしまい、褒美を与えるのも遅れてしまうだろう。
それにあの幻の世界で、リーフェが活躍したのは間違いない。
もしあの時赤い煙を止めてくれなければ、今頃グインに何か問題が起きていたことだろう。
そう考えると、その貢献度は非常に高い。
なので俺は進化させる前に、一日を使ってリーフェの願いを叶えることにしたのだ。
なお当然のようにレフが猛抗議をしてきたが、それは受け付けない。
説得の末に、何とか理解をしてくれた。
しかし機嫌が直らないレフは、いじけたように一匹でどこかに行ってしまう。
城のダンジョンから出ることは、おそらく無いと思われる。
なのでしばらくしたら、たぶん戻ってくることだろう。
そんな出来事があったのが、つい昨日のことである。
ちなみにレフは、未だに戻ってきていない。
当然その夜もいなかったので、仕方なく城の枕を使用した。
けれども何だかこれじゃない感じがして、寝つきが悪かったのを覚えている。
更には夜に召喚したアロマとアンクまで、どこかに行ってしまう。
「ガァ、ぷんぷんまる!」
「ぎゅぃ!」
出ていくときのアンクとアロマの感じからして、どうやら怒っているみたいだ。
もしかしたら、一日リーフェの願いを叶えるということに対して、何か嫉妬しているのかもしれない。
しかし今回は、活躍したことへの褒美である。
なので、レフやアンクたちには我慢してもらおう。
また同時に他の配下が何か活躍をすれば、その活躍に応じて今後は褒美を考えていく事を決めた。
配下はできるだけ平等に接するべきだが、行った活躍には報いる必要がある。
なので沼地のダンジョンで活躍した配下にも、後々褒美を渡すつもりだ。
それとちなみにだが、いなくなったレフたちは女王の元にいたらしい。
少し忘れがちだが、カードのモンスターは元々飲食不要で睡眠も必要無いのだ。
なので二十四時間起きていても、何ら影響は無かったりする。
ただ娯楽として、食べたり寝たりすることは可能だ。
そんなことを思い出しながら、俺はこうして朝を迎えたのである。
さて、今日は一日リーフェの願いを叶える訳だが、いったい何を願うのだろうか。
俺に可能な事であれば、できるだけ叶えるつもりではある。




