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倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~  作者: 乃神レンガ
第六章

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233 ゲヘナデモクレスは、もう我慢ができない。


 時は少々(さかのぼ)り、ジンが沼地のダンジョンに挑む頃。


 ゲヘナデモクレスは、()きていた。


「つまらぬ。これでは、主が我のことを召喚してくれないかもしれぬ」


 そう、あれから様々な野営地などを襲撃し続けたが、成果が(かんば)しくないのだ。


 いや、数自体はとても多い。だが、強者の数が明らかに少ないのである。


 ゲヘナデモクレスが出会ったあの四人組、勇者パーティを超える者はおろか、足元にも及ばない者が大多数だった。


 中には少し戦える者も当然いたが、ゲヘナデモクレスのお眼鏡には(かな)わない。


 冒険者ランクでいえば、Aランク以上でなければ話にならないのだ。


 けれどもAランク冒険者というのは、大変希少である。


 一つの野営地に一パーティいればいい方で、中には全くいないところもあった。


 加えてそもそも、こんなアンデッドばかりの大陸に行こうという、強者が少ないということもある。


 また得られるものが少ないと、撤退した者も多かった。


 故に現状この大陸にいるのは、名誉や何か引けない理由がある集団や、まだ国境門が繋がって間もない者たちである。


 そして大陸の広さも相まって、出会う数も減少するのは必然だった。


 結果ゲヘナデモクレスは、城のダンジョンに人々を誘致することに飽きてしまう。


 そうして暇を持て余したゲヘナデモクレスは、いつも通りジンのストーキングへと戻ってきたのである。


 加えて誘致する過程でストーキングする時間が減っていたこともあり、ジンニウムが不足していた。


 なおジンニウムとは、ジンからしか得られない、ゲヘナデモクレスにとっては水のような成分である。


 三日ほど摂取しなければ、大変なことになるかもしれない。


 そうしたこともあり、ゲヘナデモクレスは沼地のダンジョンにやってくる。


 見つからないギリギリの距離で、ジンをストーキングしていた。


 以前とは違い、もはやストーキングに対して違和感すら持たれない。


 それほどに、ゲヘナデモクレスのストーキング技術は卓越(たくえつ)していた。


「久々の生主……これは素晴らしい。肥溜(こえだ)めのような汚泥(おでい)の中でも、主はやはり輝いている。有象無象(うぞうむぞう)のザコ共の相手で疲弊(ひへい)した我の心が、(そそ)がれていくようだ」


 日に日にゲヘナデモクレスの情操(じょうそう)(ゆが)んでいっているのだが、当然本人はそれに気がつかない。


 そうしてストーキングを続けてしばらくのこと、それは起きた。


「なっ!? この蛮族(ばんぞく)が! なんていやらしいっ!」


 なんと、ギルンがジンに抱き着いたのである。


 これを見たゲヘナデモクレスは、怒りながらも心ではうらやましくてたまらなかった。


 しかし問題は、その後である。


『え? 男? なあ男って、赤ちゃん産めるのか? 産めるなら、ジンさんワーシの赤ちゃんを産んでくれよ!』


 全知の追跡者によってそれを聞いたゲヘナデモクレスは、硬直した。


 あまりの怒りに飛び出したくなるが、なんとか抑える。


 またギルンを八つ裂きにしたくなるが、それもグッと我慢した。


 直後にギーギルが殴りジンが許さなければ、おそらく我慢はできなかっただろう。


 そのどちらかが欠けていた場合、今頃ギルンの命はない。


 何気にギルンは自身の知らぬところで、九死に一生を得ていたのである。


「――ふぅ。抑えるのだ。出るにしても、タイミングというものがある。ここであの蛮族を八つ裂きにしてしまえば、主に嫌われるかもしれない。そ、それだけは回避しなければ……」


 自分にそう言い聞かせて、ゲヘナデモクレスは怒りを(しず)めていた。


 しかしその我慢があった故に、ダンジョンボス戦ではつい飛び出してしまう。


『どうにかして、生魔ドレインを無効化できないものか……』


 ジンのその言葉に、ゲヘナデモクレスは思わず反応を示したのだ。


「我ならできる! いや、我しかできない! 主の窮地(きゅうち)に駆けつける我、最高にカッコイイ! タイミングとしても、ここしかない!」


 そうしてゲヘナデモクレスは、ダンジョンボス戦に乱入するのだった。


 このときゲヘナデモクレスの中では、ジンに褒められる。認められる。必要とされる。


 そんな幻想と希望を抱いていた。


 けれども結果として、ゲヘナデモクレスはやらかしてしまう。


 その幻想は、ぶち壊されたのだ。


 ダンジョンボス撃破後に、それは起きてしまったのである。


「どうして我は、我慢できなかったのだ……」


 沼地のダンジョンを飛び出したゲヘナデモクレスは、一人項垂れていた。


 勢いとはいえ、ゲヘナデモクレスは自身の発言に対して、後悔の念が絶えない。


 その理由は遅くとも一ヶ月後に、ジンと戦うことが決まってしまったからである。


 当初はわざと負けることも考えていたが、それはゲヘナデモクレスの矜持(きょうじ)が許さない。


 それにジンにそのことを知られてしまえば、それこそ嫌われてしまうと、そう理解していた。


 故に戦うとなれば、ゲヘナデモクレスは全力を尽くすつもりである。


「確かに主は成長したが、まだ我の方が強いだろう。我自身を低く見積もったとしても、我の勝率は七割ほどと見た。まさか主を見守っていたことが、ここにきて裏目に出るとは……」


 ちなみに対してジンが甘く判断した勝率が、六割ほどだった。


 しかしこれは、ゲヘナデモクレスが情報を有していなければとなる。


 だが実際には長期にわたるストーキングによって、ジンの手の内はほぼ知られていた。


 更にそれを加味した実際の勝敗比率は、八対二である。


 これは当然、ジンの方が二の方だ。


 純粋な実力に加えて、情報戦でもジンの方が不利なのである。


 またゲヘナデモクレスほどの実力になると、Bランク以下はいてもほとんど意味がない。


 たとえAランクのモンスターだとしても、一撃が致命傷となりうる。


 故にゲヘナデモクレスの中では、ジンと戦うのは相当後の話だったのだ。


「うむぅ。今更、無かった事には……できるはずがない」

 

 それこそゲヘナデモクレスのプライドが許さず、どうしようもない。


 だからこそ、ゲヘナデモクレスは悩みに悩む。


「であれば主には、やはりこの一月で力をつけてもらわなければならぬ……」


 結果として、ゲヘナデモクレスの答えはそこに落ち着いた。


「ならば我にできることは、主が成長するために試練を与える他には無い」


 故にそれには当然、ジンの糧となる存在が必要になる。


 だとすれば現状、ゲヘナデモクレスにできることは一つしかない。


「この際ザコでも構わぬ。(ちり)も積もればなんとやらだ! それにもしかすれば、ザコの中とて使える者がいるかもしれぬ!」


 そうしてゲヘナデモクレスは、飽きていた誘致作業を再開し始める。


 少しでも強い者を探し求めて、ゲヘナデモクレスは駆けるのだった。


「待っているのだ主よ。最高のフルコースを我が用意して見せよう! ふははは!」


 この誘致作業が後に大変な事へと繋がっていくのだが、それは現状ゲヘナデモクレスの知るところではない。


 そして後にジンがこの事実を知った時、どのような反応を示すのであろうか。


 ゲヘナデモクレスの暴走は、未だとどまることを知らない。 


 ジンとゲヘナデモクレスとの決戦まで、残り約一ヶ月。


 戦いの日は遠くない。


 果たして勝利の女神が微笑むのはジンか、それともゲヘナデモクレスか、はたまた別の誰かであろうか。

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