表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~  作者: 乃神レンガ
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

232/490

227 幻億の導き ①


 ここは?


 謎の空間を通り抜けると、そこは変わらず冒険者ギルドの中である。


 しかしよく見れば、先ほどといる人たちが変わっていた。


 また一番の変化は、俺とレフの体が透けていることだろう。


 するとちょうど俺が立っている場所に、人がやってくる。


 ぶつかりそうなので、俺は横へと動く。


 だがその時ふと思い、俺はぶつかりそうになった人の肩に軽く触れてみる。


 けれども俺の手は、風を掴むようにすり抜けた。


 ふむ。やはり、触れることはできないみたいだ。


 この透けている体からして、幽霊のような状態と考えていいのかもしれない。


 とりあえず俺は左腕に抱いているレフを降ろすと、続けて声をかけてみた。


「なあ、ちょっといいか?」

「にゃぁん!」


 だがその声に答える者は、一切いない。


 レフも、俺と同様みたいだ。


 なるほど。俺から何かアクションを起こすことは、できないということか。


 であれば、何か起きるまで待っている必要があるのかもしれない。


 そう思いつつ、俺はリーフェを召喚してみる。


「出てこい」


 幻属性適性を持っているので、何か役に立つかもしれない。


「なにここ~? 変な感じ~」


 そして召喚したリーフェは、この空間に何か違和感があるようだった。


 ちなみにリーフェも透明になっており、他人に干渉することはできないようだ。


「どんな風に変なんだ?」

「ん~。わかんないっ!」

「そうか……」


 まあ俺には感じられない何かを、リーフェは感じているのだろう。


 俺も全属性適性を持つが、幻属性は使ったことがない。


 対してリーフェが持つのは幻属性一つであり、普段から使っている。


 もしかして、熟練度的な差があるのだろうか?


 であれば幻属性を持っていても、俺には感じられないのも腑に落ちる。


 まあ感じられないものは仕方がないので、これに関してはリーフェに頼ろう。


 何か後々になって、気がつくことがあるかもしれない。


 なので俺は、このままリーフェを召喚しておくことにした。


 そうして俺がこの空間に慣れてきたころ、ようやく変化が現れる。


「ここが冒険者ギルドね! そしていよいよ、この将来のSランク冒険者、魔法剣士ルミナの物語が始まるのだわ!」


 すると高らかに声を上げて現れたのは、以前の幼い頃よりも成長した女王の姿だった。


 長い金髪を腰まで伸ばし、意志の強そうな碧眼を輝かせている。


「姫様、やっぱりやめませんか? 昔スラム街に無断で行った時は、大事件になったじゃないですか」


 そう言って次に現れたのは、シャーリーだった。


 少し若いが、半透明のシャーリーとかなり近い姿である。


 こちらも長い金髪と碧眼をしており、並べると女王と少し似ていた。


 何となくだが、もしもの際には影武者になったとしても、簡単には相手も気がつかないかもしれない。


 あと薄々思っていたが、やはりあの時スラム街にいたことは大問題になったみたいだ。


 まあ普通に考えて、幼い女王が(ろく)に護衛も連れずにスラム街に行けば、何か事件に巻き込まれてもおかしくはない。


 それがあるからか、女王を監視する者が複数いた。


 おそらく、あれは護衛だろう。スラム街の件があってから、こんな感じでこっそり護衛をするようになったのかもしれない。


「嫌よ。だってお兄様も同じ十五歳になってすぐ、冒険者になったのだもの。なら私にも、冒険者になる権利があるはずだわ!」

「ですがその時と今とでは、状況が違いますよ?」

「そんなのは関係ないわ! 私も冒険者になる。これはもう、決定事項なの!」

「そうですか……」


 女王を止められないと判断したのか、シャーリーは諦めたように溜息を吐いた。


 ふむ。あのスラム街の件から、そこそこの年数が経っているみたいだ。


 それと十五歳の女王は、かなり活発でまだまだ周囲を困らせているみたいである。


 とりあえず女王が冒険者登録する状況を、見ていればいいのだろうか?


 今回は半透明で声も相手に届かないので、必然的にそうなる。


 なので俺は女王に近づき、その様子を観察することにした。


 だがこれほど近づいても気がついた様子はないので、やはり女王からも俺は見えないようである。


 そのことに安堵しつつ、俺は観察に集中することにした。


 すると早速動きがあるようで、女王が冒険者ギルドの受付に向かう。


 当然俺とレフも、その後に続いた。


「ねえ、冒険者登録をしにきたのだけど」

「……しょ、少々お待ちください」


 女王の言葉に、受付の女性は顔を青くしながら、どこかへと急いで行ってしまった。


 まあこの国の王族なので、おそらく女王の顔を知っていたのだろう。


 そして少しすると先ほどの受付の女性が、一人の男性を連れて戻ってきた。

 

「ルミナリア王女殿下、よくぞお越しくださいました。私は名をエーゲンと申しまして、この冒険者ギルドでギルドマスターをしております」

「ほう。やはり私くらいになると、ギルドマスターが(みずか)ら来てくれるのだな! もしかして、いきなり高ランク登録をしてくれるのか!」


 ギルドマスターの登場に、女王は歓喜する。


 だが対するギルドマスターの表情は、困り顔だった。


「いえ、そうではないのですが、ここでは大変目立ってしまいますので、どうか移動の方をして頂いても、よろしいでしょうか?」

「うむ。いいだろう。案内せよ!」

「感謝いたします」


 そうしたやり取りがあり、女王たちは移動を始める。


 当然俺たちも、その後をついていった。


「ごしゅ~。あの子、何か変な感じ~」


 するとリーフェが女王を指さして、そんなことを言う。


「それは、幻的な意味か? それとも、態度や性格のことか?」

「う~ん。どっちも~」


 その回答に、俺は思わず苦笑いをする。


 十五歳でも女王の性格は、幼い頃から大きく変わってはいないみたいだ。


 これは少々今の女王からすれば、まだまだ黒歴史なのかもしれない。


 ここでのことは、何も無ければ見なかったことにしよう。


「そうか……で、幻的には何が変なんだ?」

「えっとね。周りよりも、あの子はなんかスゴイ!」

「スゴイ? 何が凄いんだ?」

「わかんな~い」

「わかんないのか」

「うん」


 リーフェ的には、何か女王は凄いようだ。


 幻としての格というか、そういうのが周囲の人物たちより質が高いのかもしれない。


 まあこの世界の主目的は、女王の過去だと思われるのでそれも納得だ。


「まあ、助かった。何か気がついたら、また教えてくれ」

「は~い!」


 そうしたやり取りをしつつ、俺たちは女王の後を追って二階に上がる。


 どうやら、来客用の部屋に入るみたいだ。


 俺たちは透き通る体を利用して、女王たちが入るのと同時に入室を果たす。


 ちなみにもしかしたら壁も通り抜けられるのかもしれないが、無理だった場合困ったことになるので、それは止めておいた。


 そうして俺たちが見守っている中、女王たちが席につき、会話を始める。


「さて、私はもう十五歳になった。故にお兄様のように冒険者登録をしに来たわけだが、もちろん、できるわよね?」


 対してギルドマスターは、女王の言葉に冷や汗を流しながらも、ゆっくりと口を開く。


「――申し訳ございませんが、それは出来かねます。ルミナリア王女殿下に、冒険者登録はできません」

「なっ! なんだと! それはどういうことよ!?」


 その返答は寝耳に水だったのか、女王は声を上げて思わず立ち上がった。


 碧眼(へきがん)が鋭くなり、気の弱いものなら縮み上がる視線が飛ぶ。


 しかしそれは想定済みだったのか、ギルドマスターも負けじと言葉を続ける。


「これにつきましては、国王様から頼まれていたことなのです。また私たちといたしましても、ルミナリア王女殿下の身を案じればこそ、頷くことはできません」

「くっ、やはり父上に止められていたのか! どうしてもだめなのか?」

「はい、国王様の許可がなければ、冒険者登録はできません」


 許可が下りないことに(いきどお)りを感じたのか、女王は先ほど以上に眼力を強めると、ギルドマスターを(にら)む。


 だがギルドマスターも長年(つちか)ってきた胆力(たんりょく)があるのか、視線をそらさずにそれを受け止めた。


 それによってわずかな間だが、時が止まったように沈黙が続く。


 この光景による緊張故か、ピリついた雰囲気が周囲へと波及(はきゅう)した。


 シャーリーは困ったような表情であるが、付いてきた受付嬢は今にも泣きだしそうである。


 そうして再び時が動き出したのは、先に女王が折れたからだった。


「はぁ、分かった。先に父上を説得してからにする」

「ご理解していただき、誠にありがとうございます」


 女王は大きなため息を吐き、対してギルドマスターは頭を下げる。


「であれば今はここにもう用はない。シャーリー、父上の元に急ぐわよ!」

「あっ、姫様お待ちください。エーゲン様、この度はご迷惑をおかけいたしました。失礼いたします」


 そうして女王とシャーリーは、そそくさと出て行ってしまった。


 俺も最初はそれに続こうとしたが、直感的になんとなく、その場に足を止めてしまう。


 だが女王の行方も気になるので、レフに追わせることにした。


「頼んだぞ」

「にゃぁん」


 俺の指示に対して仕方がなさそうにレフは一鳴きすると、女王の後を追っていく。


 これでとりあえずは、大丈夫だろう。


 するとタイミングを計ったかのように、ギルドマスターが数秒の沈黙後に口を開いた。


「はぁ、アルハイド王太子殿下の影響なのだろうが、困ったものだ。私だってまさか、アルハイド王太子殿下が王座を拒否して、冒険者になるなどと口にするとは思わなかったのだ」

 

 ギルドマスターの口から、愚痴のように言葉が漏れる。


「そうですよね。それで王族や一部の貴族の方々に(うと)まれて、王都にいる冒険者の数も減ってしまいましたし……」


 続けて受付の女性も、ため息交じりにそう言った。


「ああ、中には冒険者などという野蛮な職業に魅入(みい)られたことで、アルハイド王太子殿下がうつけになったと言われる始末だ。

 これでもし、ルミナリア王女殿下までも冒険者になってみろ、私の胃に大穴が開くことは間違いない」


 ギルドマスターはうつろな瞳で、何もない壁を見つめている。おそらく既に、かなりの苦労をしているのだろう。


「国王様の許可、出なければいいですね」

「ああ。そうだな。しかし子が二人しかおられない国王様は、ルミナリア王女殿下に大変甘い。

 アルハイド王太子殿下がああなってしまっただけに、溺愛(できあい)ぶりが凄いという噂だ。私はなんだか、嫌な予感がしてならない……」


 アルハイド王太子殿下、か。幻憶(げんおく)のメダルをくれた、あの青年だよな?


 幼い頃から女王が冒険者にこだわっていたのは、アルハイド王太子殿下――長いからアルハイドと呼ぼう――アルハイドが関係していたのか。


 もしかして女王が女王になったのは、アルハイドが王座を蹴って冒険者となったからなのだろう。


 これは単に冒険者登録をしたという意味ではなく、冒険者として生計を立てて生きていくということになる。


 そしてアルハイドは後に、どういう訳か国の宝物庫から色々と奪っていったらしいんだよな。


 俺が会ったときは、普通に好青年だった。


 なら冒険者になってから、心が荒む原因があったのだろうか?


 とりあえず、現状ではまだ断定はできないな。


 ギルドマスターたちも関係のない話を始めたみたいだし、俺も部屋を出て女王の後を追おう。


 そう思いドアに触れると、腕がぬるっと吸い込まれる。


 どうやら普通に、そのまま通り抜けられそうだった。


 よし、問題は無さそうだな。そう判断を下した俺は、リーフェと共にドアの先へと足を踏み出す。


 しかし冒険者ギルドのドアを抜けると、そこは廊下ではなく青々とした草原だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ