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倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~  作者: 乃神レンガ
第六章

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222 沼地のダンジョン ⑳


 転移した場所はそれなりに広い陸地であり、周囲には岩が詰みあがって壁となっている。


 しかしそれをスワンプマンたちは、乗り越えてきたみたいだ。


 数はわずか九体であるが、希少性を考えればこれでも多いのだろう。


 俺はホブン・トーン・アロマを召喚すると、ギルンたちの元に向かわせる。


「っ! ジンさん! パ、パパとママが……!」


 すると俺に気がついたギルンが、助けを求めるようにそう叫ぶ。


「今はどうにもできない。それよりも、ギーギルたちを守ってやれ。俺は周囲のスワンプマンどもを倒す」

「わ、分かった!」


 ギルンもそれなりに戦えるみたいだし、大丈夫だろう。


 それにホブンとトーンがいれば、守りは十分だ。


 怪我をしていても、アロマが回復できる。


 であれば俺は、スワンプマンたちの方に集中しよう。


 状況が状況だが、この機会を逃すわけにはいかない。


 スワンプマンたちは俺の登場に警戒を(あら)わにしており、逃亡を考えている可能性がある。


 なら、逃がさないようにこちらも数を揃えよう。


 俺はルトナイとアンデッド軍団を召喚すると、陸地を囲むように展開させる。


 スワンプマンは陸地だと動きが鈍いのか、逃げ場を完全に失った。


 本来スワンプマンは泥沼におり、泥の体を溶かすようにして、沼地の泥と混ざって移動をするらしい。


 カード化した個体から、そのような情報を得ていた。


 なので陸地に上がってきたことは、スワンプマンたちにとっては失敗だったと言える。


 こうして見つかっている状態では、隠密のスキルもほとんど意味をなさない。


 スワンプマンたちには最早(もはや)、戦うしか選択肢がないのだ。


 俺はちらりとギーギルとナンナの方を見ると、ぐったりしているが意識はあるみたいである。


 だが身体がやはり透けており、近いうちに消えてしまう可能性があった。


 おそらくダンジョンは、崩壊する上で最初に不必要なギーギルたちを切り捨てることにしたようだ。


 ダンジョンは崩壊の際少しでも長く状態を維持するために、いらない物から消していく。


 それは罠や宝箱だったり、ほとんど侵入者が訪れない場所にいるモンスターだったりする。


 だとすれば、バグのような存在であるギーギルとナンナが、真っ先に切り捨てられても仕方がない。


 逆にこれまでダンジョンに見逃されてきた方が、運がよかったのだろう。


 であればこれは思ったよりも、二人に残された時間は少ないかもしれない。


 俺は追加でサン・ジョン・アンクを召喚すると、レフと共にスワンプマンを倒すことを命じる。


 更に俺自身も動き、双骨牙を抜いて斬りかかった。


「!!!」

「!!」

「!?」


 スワンプマンたちもストーンやサンダーで反撃してくるが、やはり戦闘はそこまで得意ではないらしい。


 Cランクにしては、あまり強くはなかった。


 結果として瞬く間にスワンプマンたちを狩りつくし、周囲の敵は一掃される。


 ギーギルたちがいるが、俺は構わずカード化を行った。


 そしてスワンプマンたちをカード化すると、俺はギーギルたちの元に駆け寄る。


「ジ、ジンさんですか……たすかりました……」


 するとギーギルは、弱々しい口調でそう言った。


 おそらく、話すことも困難な状態なのだろう。とても苦しそうだ。


「気にするな。それよりも、今の自分の状態は理解しているな? ダンジョンが崩壊するに際して、不必要なモンスター(・・・・・)を消し始めているんだ」

「ジンさん! それってどういうことだよ! パパとママは、モンスターじゃない!」


 俺の話を聞いて、ギルンが()える。


 対してギーギルは静かに一度目をつぶると、悟ったように語りだす。


「やはり、そうでしたか。私とナンナは、スワンプマンなのですね。分かってはいましたが、真実に目を逸らしていました。私もナンナも、これまでの人生の記憶がしっかりあるからです。

 ですが深層での敗北後、私とナンナは撤退途中の中層で、一度意識を失っています。おそらくその時に死亡してしまい、スワンプマンが成り代わったのでしょう……」


 全てを吐き出したギーギルは、どこか肩の荷が下りたような表情をしていた。


 誰しも本当の自分は既に死亡しており、自身が偽物のモンスターであるとは、思いたくはないだろう。


 ギーギルとナンナが目を逸らしてきたことを、否定することはできない。


 だが、息子であるギルンは違ったみたいだ。


「な、何だよそれ! それじゃあ、ワーシは何なんだ! ワーシは、パパとママの子供だ! スワンプマンなんかじゃない!」


 その真実は精神の幼いギルンにとって、到底受け入れられない内容だったみたいである。


「ギルンすまない。お前は、人族ではない。これまで隠してきたが、お前はどういう訳か人族ではなく、デミヒューマンという種族だ。人族とスワンプマンが混ざり合った、特別な存在だ……」

「う、嘘だ! ワーシはモンスターなんかじゃない! 人族、人族なんだ! う、嘘だと言ってくれよ!」


 人と関わりのない沼地にいても、ギルンにとって自分が人族ということは、とても大事なことだったようだ。


 あまりの事実に、真実を受け入れられないらしい。


 であれば、本当かどうか俺が確認をしよう。


 許可はとっていないが、俺はギルンを鑑定する。



 名称:ギルン

 種族:デミヒューマン

 年齢:15

 性別:男

 種族特性

【地雷属性適性】【ストーン】【サンダー】

【再生】【隠密】


 スキル

【剣適性】【水属性適性】【アイテムボックス】

 


 するとそこにはギーギルが言っていた通り、デミヒューマンという種族が表示されていた。


 種族特性も、スワンプマンの所持しているものである。


 成り代わりなど一部のスキルは無いみたいだが、間違いない。


 それと通常のスキルは、十歳のとき授かったスキルだろう。


 三つの属性適性に、剣適性も所持している。


 他にも使えるスキルが多く、将来性が高いステータスだった。


「なっ!? ジ、ジンさん、今何をした!?」


 すると俺がステータスについて意識を向けていると、ギルンが鑑定されたことに気がついたみたいである。


「悪いが、勝手に鑑定させてもらった。ギルン、お前は間違いなく、デミヒューマンだ。種族特性も、スワンプマンの所持していたスキルになる。

 成り代わりこそないが、お前が純粋な人族でないことは、間違いない。」

「う、嘘だ……」


 俺が突きつけた事実にギルンはショックを受け、思わず後ずさった。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! だ、だってこの力は、神様が与えてくれたんだ! パパとママもそう言っていたし、スワンプマンのものじゃない! 

 それにスワンプマンは悪者なんだ! ずっと、ずっとそう教えられてきた! スワンプマンには気をつけろ、悪いことをしていたらスワンプマンに食べられるって……」


 ギルンにとって、スワンプマンとは忌諱(きい)する存在だったのだろう。


 その受け入れられない存在が自分の両親であり、更には自分も混ざりものだった。


 どうしてデミヒューマンになったのかは、定かではない。


 ダンジョンの誓約がバグのような形で残り、その状態で子供を作った結果という可能性もある。


 ギーギルとナンナはこのことを、長年隠していたのだろう。


 そしてギーギルとナンナ自身も、スワンプマンに対して思うところがあった。


 (ゆえ)にスワンプマンを忌諱(きい)してしまうような、そんな教育をしてしまったのかもしれない。


 だがその結果として、ギルンはこの事実に苦しんでいた。


 そう、()しくも両親のように、現実から目を逸らすほどに。


「そ、そうだ。パパとママは、スワンプマンに食べられたんだ。だってこんな風になるなんて、おかしい。そうに違いない! ワ、ワーシのパパとママを返せ!」


 ギルンは錯乱(さくらん)したようにそう叫び、スワンプマン由来のサンダーを発動した。


 当然その対象は、両親であるギーギルとナンナである。


 消えかけているギーギルとナンナにとって、その攻撃は厳しいものだ。


 直撃すれば、どうなるか分からない。


 俺はその光景を見て、ゲゾルグとサンザが、タヌゥカにやられた時を思い出した。


 あの頃とはもう違う。二度と、そう、二度と同じことは起こさせない。


 気がつけば俺は二人を守るようにして、代わりにサンダーを受けていた。


「えっ……」

「この程度か……歯を食いしばれ」

「グエッ!?」


 俺にたいしたダメージはない。だが、心がひどくざわついた。


 だから俺はそう言って、ギルンの顔面を殴り飛ばす。


 加減はしたがギルンは転がるようにして、地面を何度も()ねた。


「にゃぁ……」

「きゅぃ!」

「大丈夫だ。俺は何ともない」


 レフが心配そうに鳴き、アロマがヒールを発動してくれる。


 他の配下たちも、それぞれ心配やギルンへの怒りを(あら)わにしていた。


 だが俺はそれを何とか収めると、ギルンを放ってギーギルとナンナに向き合う。


「ギ、ギルンは……」

「大丈夫だ。少しのびているだけだろう。それよりも、残り時間が短いのは理解しているか?」

「は、はい……私とナンナは、もうすぐ消えるでしょう。最後にこんなことになってしまったことが、心残りではありますが……」

「わ、私も……こんなことなら、ギルンに真実を教えておくべきでした……」


 二人はどこか悲しそうに、そう呟いた。


 まあ、ギーギルとナンナの気持ちも理解できる。


 最後くらい息子に敵意を向けられずに、幸せに終わりたかったのだろう。


 故にギーギルとナンナからは、このまま消えたくないという気持ちが強く伝わってきた。


 であればこそ、俺はこの状況を打開できる提案を行うことにする。


「なら、俺の配下にならないか?」

「え? それは、いったい……」

「配下、ですか……?」


 唐突(とうとつ)な提案に、二人は困惑した。


 だが俺は構わずに、話を続ける。


「そうだ。俺にはカード召喚術という、特別なスキルがある。それを使えば、消えることはなくなるだろう。ただし俺に使役されることになり、絶対服従することになる。

 もし俺の配下になるのであれば、この手をとってくれ。そして、俺の配下になる事を強く願うんだ。決してぞんざいに扱わないことを誓おう。もちろん、ギルンについても考えがある。悪いようにはしない」


 そう言って俺は、二人に手を差し出す。


 するとギーギルとナンナは、お互いにしばし見つめ合ってからうなずくと、決意したように俺へと笑みを浮かべた。


「分りました。私たちはジンさんに、全てを託します。これから、どうぞよろしくお願いいたします。そして息子を、どうか助けてやってください」


 代表してギーギルがそう口にすると、二人はゆっくりと俺の手に触れた。


 そして二人が一瞬光り輝くと、カードとなって俺の手に収まる。


 成り代わりで人族になってはいたが、カード召喚術は許容範囲だと容認してくれたみたいだ。


 少し不安だったが、カード化できたことに安堵する。


 そして俺は同時に、ふとこんなことを思った。


 もしかしたらあのとき、ゲゾルグとサンザを救う手段があったのかもしれない。


 一瞬そんなことをつい考えてしまうが、ギーギルとナンナは特殊な存在だ。


 純粋な人族であった二人では、カード化することはできなかっただろう。


 それに、あの時二人はタヌゥカによって殺されてしまった。


 であればそもそも、俺のカード召喚術の適応範囲外だったと思われる。


 俺のカード召喚術は、俺か配下が倒したモンスターか、このように自らの意思で配下に加わってくれるしか方法がない。


 ならあれはどうしようもなかったと、そう割り切るしかないだろう。


 過去を今更になって後悔しても、もう遅い。


 終わった事実は、余程のことがなければ(くつがえ)らないのだ。


 故にだからこそ、今回二人を救えたことを素直に喜ぼう。


「……パ、パパとママは……も、もしかして、消えて……」


 すると意識を取り戻したギルンがやって来て、静かにそう呟いた。



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