213 沼地のダンジョン ⑪
そうしてやってきた場所は、このダンジョンとしては異例の姿をしている。
まず周囲は沼地ではなく、草花が広がっていた。
他にも枯れてはおらず、元気な木が生えている。
中には、みずみずしい果実が実っている木も存在していた。
更には多くのロットキャリアがおり、動かずに立ち尽くしている。
この大陸の中ではこの場所が、一番自然に溢れているかもしれない。
しかしそんな自然溢れる場所の中央には、場違いな存在がいる。
それは、一軒家ほどの巨大な植物。
あれが、キャリアンイーターか。
その体はまるで、モンブランのような集合体である。
茶色い蔓が、いくつも絡み合っていた。
そして緑色のウツボカズラのような物が、無数にその周囲についている。
どう見ても植物系のモンスターであり、アンデッドには見えない。
だがあれこそが、この中層のエリアボスに間違いなかった。
俺は確信を得るために、まずは鑑定を発動する。
種族:キャリアンイーター
種族特性
【生命感知】【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【腐肉吸収】【腐肉感知】【身体操作上昇(大)】
【再生】【鞭適性】【ウィップボンデージ】
【ウィップストレート】【アシッドショット】
エクストラ
【エリアボス】
スキル
【肥料生成】【シャドーランス】
【物理耐性(中)】【魔法耐性(中)】
ランクは、Bの上位といったところだろう。
しかし長い時間をかけて少しずつ強化されているらしいので、Aランク以上の強さがあるかもしれない。
流石にボーンドラゴンよりは弱いと思いたいが、実際はどうだろうか。
気になるところだが、それは戦ってみれば分かることだろう。
またルーラーモスキートとは違って、ヤバそうなスキルは確認できない。
純粋な戦闘系スキルがそろっている。
これなら、作戦を大きく変える必要はないだろう。
「……!」
「……」
「……!?」
すると俺たちの存在に気がついたのか、ロットキャリアたちが襲い掛かってくる。
「にゃにゃ!」
「うきぃ!」
「ギギ!」
「ガァ! ざ~こ♡」
それに対して、中衛のレフたちと遊撃のサンたちが遠距離攻撃で迎え撃つ。
前衛のホブンとトーンは、守りを固めた。
後衛のリーフェとアロマは、まだ待機だ。
その隙に、俺は斥候ゾンビに罠を探させる。
「ヴぁ」
「なるほどそこか。出てこい、行け!」
そして罠を見つけると、スケルトンたちを召喚して特攻させた。
スケルトンは途中ロットキャリアにやられたりするが、数が多いので問題はない。
そうして罠を発動させると、役目を終えて倒れていく。
思った通り、エリアボスがいても普通に罠があるな。
戦闘中に引っかかると面倒だし、先に処理しておこう。
さて、この状況に、肝心のキャリアンイーターはどう動く?
俺は巨大な蔓とウツボカズラのモンスター、キャリアンイーターに視線を向ける。
するとウツボカズラの一つが動き、上部の穴がこちらに向く。
そして何か液体のようなものが、勢いよく飛ばされてきた。
これはおそらく、アシッドショットという種族特性のスキルだろう。直撃は不味い。
「ホブン」
「ゴッブア!」
なのでホブンに声をかけ、無属性魔法のシールドを全力で発動させる。
結果シールドに阻まれたアシッドショットは、周囲へと飛び散った。
「……!!」
「……???」
だがその一部がロットキャリアにかかると、煙を上げて溶けていく。
加えて全身に浴びたわけではないのに、ロットキャリアは瞬く間に溶けて消えてしまった。
キャリアンイーターのアシッドショットは、想像以上に威力があるようだ。
これは直撃をすると、俺でも大ダメージを受けてしまうかもしれない。
強化されているというのは、こういうことか。
戦い方次第では、ボーンドラゴンも倒してしまうかもしれない。
そう考えていると離れた場所にいるキャリアンイーターが、続いて複数の蔓を物凄い勢いで伸ばしてくる。
この数は、流石に危ない。
それを感じ取り俺は双骨牙を抜くと、向かってくる蔓をいくつも斬り飛ばす。
「ギャギャ!」
トーンも盾スキルのガードやパリィを駆使して、蔓をやり過ごした。
だが流石に威力がありすぎるのか、トーンでも受け止めるのは厳しそうだ。
「ゴッブアア!」
またホブンも連続でシールドを発動するが、魔力の消費が激しく、長くは続かないだろう。
「きゅい!」
それとトーンの背に隠れた枝籠の中で、アロマが仲間たちに回復魔法を飛ばしている。
小さな傷などは、瞬く間に治っていった。
戦闘に対する恐怖は、以前よりも改善されている。
キャリアンイーターというエリアボス相手でも、アロマは頑張っていた。
「がんばれ~! がんばれ~!」
しかしそんな中、リーフェがいつの間にかトーンの枝籠の中に避難しており、一人応援を叫んでいる。
まあ、植物系のモンスターにはスリープやフィアーがほとんど効かないみたいだし、できるのはそれくらいだろう。
場違いな感じになっているが、今は忙しいのでそのままにしておく。
そして一先ず、キャリアンイーターの蔓による攻撃が止んだ。
配下は皆無事であるが、攻撃を避けるために一か所に集まっている。
これは早速、追加の召喚が必要だな。
想像以上に、キャリアンイーターの攻撃は重い。
「出てこい!」
なので俺は、新たな配下を召喚する。
「カタカタ!」
種族:スケルトンナイト(ルトナイ)
種族特性
【生命探知】【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【剣盾適性】【スラッシュ】【ガード】【集団指揮】
エクストラ
【階層守護者】
スキル
【シャドーニードル】【サークルスラッシュ】【パリィ】
【斬撃強化(小)】【眷属召喚】
呼び出したのは、元階層守護者だったスケルトンナイトだ。
名前をルトナイとつけ、ネームド入りさせた。
そしてルトナイには、アンデッド軍団を指揮してもらう。
スケルトンソードマン・アーチャー・ソーサラー、更にアーマーゾンビをそれぞれ百体召喚して任せる。
「ルトナイ。周辺の敵を頼んだ」
「カタカタッ!」
ルトナイは俺の命を受けると、敬礼をして動き出した。
それとおそらく罠もまだ残っているので、大量のスケルトンを新たに召喚すると、適当に走らせる。
これでルトナイたちが罠にかかる可能性を、多少は減らせるはずだ。
「よし、お前たち、前進だ」
そしてロットキャリアをルトナイたちに任せている間に、俺たちは進む。
もちろんその間にキャリアンイーターの攻撃はあるが、まだ十分に絶えられる。
移動ルート上の罠も斥候ゾンビに優先して発見させると、モンスターを召喚して発動させていく。
ここで罠を発動できるロットキャリアを召喚しないのは、何となく周囲にも敵のロットキャリアがいるので、落ち着かないからである。
自分の配下なので可能性は低いが、見間違いのリスクもあった。
効率としてはそこまで差は無いので、問題はないだろう。
そうして進んでいき、俺たちはキャリアンイーターの目の前までやってきた。
一軒家並みに大きいので、かなりの迫力である。
するとこちらが接近したことにより、キャリアンイーターの攻撃も激しくなってきた。
しかしここまで来れば、こちらの攻撃も射程範囲内である。
攻撃を防ぎながら、俺たちも反撃に出た。
「にゃぁあ!」
レフがシャドーランスを放つ。
「ゴッブア!」
ホブンがヘヴィインパクトをぶちかます。
「うきぃ!」
ジョンが三点バーストを発動して撃っていく。
「ギギギ!」
サンがライトアローとウィンドカッターを交互に放つ。
アンクとトーンも、それぞれできる攻撃を行った。
その攻撃の全てが命中して、キャリアンイーターにダメージを与える。
しかしそれでも、キャリアンイーターは倒れない。
ウツボカズラがいくつか飛び散り、蔓の部分に大穴が空いても、動作が鈍らなかった。
その大きさと植物系であることから、流石に生命力が高いようである。
けれども体の一部を多少なりとも失えば、その分戦闘能力が減っていくのは明白だ。
十分攻撃は効いている。
このままいけば、問題なく倒せるだろう。
俺が、そう思った時だった。
キャリアンイーターが突然全身の蔓を解き始めると、形を変えていく。
それは一瞬の出来事であり、気がつけばその姿が変わっていた。
なるほど。ロットキャリアを従えている、エリアボスらしい姿だ。
キャリアンイーターの変化した姿は、巨大な人型である。
腕の先端にはガトリング砲のように、ウツボカズラを無数に巻きつけていた。
当然ウツボカズラの上部分は、全てこちらを向いている。
それを一度に発射されれば、流石にまずい。
俺はこの窮地に対して、即座に行動へと移すのだった。