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210 沼地のダンジョン ⑧


 それから深層についての情報も教えてもらったが、詳しい内容は深層に行ってから改めて思い出すことにする。


 ちなみに深層について話す二人は、どこかぎこちなかった。


 おそらく、深層で何かあったのだろう。


 それが成り代わった前なのか、その後なのかは不明である。


 また深層については、そこまで詳しくはないみたいだ。


 深層には、あまり行かないらしい。


 そうしてこのダンジョンの情報も得られたので、物々交換も無事に終了する。


 もちろん、俺も外の情報などを話せる範囲で伝えた。


 城の事は話さなかったが小規模国境門が乱立しており、他国の者が多く紛れ込んでいることは教えている。


「このたびは、本当にありがとうございました」

「これで、しばらくはやっていけます」


 二人はしきりに頭を下げて、お礼を口にした。


「気にしないでくれ。こちらも得られるものはあった」


 モンスターの素材についてはそこまで必要なかったが、情報は有用だったのは事実である。


 特にスワンプマンについて知れたことは、とても価値のあることだ。


 中層をそれなりに探索したが、まだ見かけてはいない。


 だとすれば教えてもらった通り、スワンプマンは数が少なく希少なモンスターなのだろう。


 人に成り代わる特殊なスキルを持っているみたいだし、これはどうにかして手に入れたいところだ。


 生者の死ぬ時を待っているのだとすれば、もしかしてこの周辺にもいるのだろうか?


 スワンプマンがアンデッドかどうかは不明だが、少し探してみよう。


 何となくそう思い、俺は生命感知の範囲をどんどん広げていく。


「ん?」


 するとかなり微弱だが、少し離れた岩の上に何かがいることを感知した。


「どうかしましたか?」


 俺の異変を感じ取ったのか、ギーギルがそう声をかけてくる。


「いや、あの岩の上に何かいるみたいでな。もしかしたら、例のスワンプマンかもしれない」


 視線だけを向けて、俺はギーギルにその場所を教えた。


 だがその言葉を聞いた途端、ギーギルが慌てだす。


「ま、待ってください。あれは違います! そこにいるのは、スワンプマンではありません!」

「ん? それはどういうことだ?」


 俺は(いぶか)しむように、ギーギルを見つめる。


 ギーギルは俺との関係が悪化するのを恐れてか、冷や汗を流しながら弁解を始めた。


「じ、実はあの岩の上にいるのは、私たちの息子なのです。一人残すのは危なく、かといってこの取引での万が一のことを考えて、近くに潜ませていたのです。決して、ジンさんと敵対しようとしたわけではございません」


 どうやら、あの岩の上にいるのはギーギルの息子らしい。


 嘘は言っていないことは感じられたので、事実だろう。


 まあ、言っていることは理解できる。


 一人だと危険だろうし、物々交換に応じたとはいえ、俺の本性は分からない。


 大事な息子を隠すのは、万が一のことを考えれば当然のことだろう。


「別に構わない。俺がギーギルと同じ立場でも、おそらくそうしたかもしれない」

「あ、ありがとうございます」


 俺の言葉に心底ホッとしたようで、ギーギルとナンナは安堵(あんど)した表情をする。


 しかし息子か……。スワンプマンに成り代わった二人でも、子供を作れるのか。


 それもダンジョンに多少なりとも、支配されているのにもかかわらず。


 あとは成り代わられる前に、ダンジョンへ息子を連れてきていたのだろうか?


 少し、その息子が気になるな。


「どうせなら、その息子を紹介してくれないか? 別にどうこうする気はない。ただ挨拶をしてくてな」

「……わ、分りました。少々お待ちください。ただ息子は私たち以外の人と会うのは初めてなので、その点はご容赦をお願いいたします」

「ああ、もちろんだ」


 ギーギルは多少迷った素振りを見せたが、そう言って息子と会うことを了承してくれた。


 そうしてギーギルが息子のいる岩まで迎えに行き、連れて戻ってくる。


 ギーギルの息子は、十代後半くらいの青年だった。


 見た目が二十代後半のギーギルの息子にしては大きいが、実年齢からすれば妥当な歳だろう。


 また身長は180cmほどであり、短い茶髪と青い瞳。それと筋肉質な体をしている。


 腰には茶色い腰巻――聞いた話ではゾンビフロッグの皮らしい――を身につけていた。


 野性的な雰囲気ではあるものの、俺を見ると幼い少年のように純粋な笑みを浮かべる。


ワーシ(・・・)はギルンってんだ。よろしくな!」


 ワーシ? なんだかアンクみたいな言い方だな。


 そんなことを思いつつ、俺も挨拶をする。


「俺はジンという。こっちは相棒のレフだ」

「にゃん!」

「!? な、なんだそいつ! うまそうだな!」

「にゃっ!?」


 するとギルンはレフを指さして、そう言った。


 レフは本能的な危機感を覚えたのか、俺の後ろへとそそくさと隠れる。


「こ、こらギルン! この子は食べ物ではない。ジンさんの家族だぞ!」

「へ? そうなのか? そ、それはごめんな」


 あまりな発言に、ギーギルがギルンを(しか)った。


 ギルンの反応からするに、悪気は無かったのだろう。 


 生まれた時からこのダンジョンにいるとするならば、猫を見るのは初めてだと思われる。


 家族以外は敵か食料かだとすれば、その反応も仕方がない。


「いや。悪気が無いなら別にいい」

「……にゃ」


 レフは完全に警戒してしまったのか、短く鳴いて俺の足元から出てこなかった。


「本当に申し訳ございません。息子は生まれも育ちもこのダンジョンでして、常識が少々欠けているのです。

 もちろん教育はしているのですが、どうにもここだと限界がありまして……それに自分のことを『ワーシ』というのも、息子なりのこだわりがあるみたいです……」


 やはり、そんな感じなのか。


 人称のこだわりは、他人との接点が皆無だからだろうか?


「そうなんですよね。おそらく私と旦那が自身のことを『私』と呼んでいることを、自分なりにオリジナリティを出して、真似をしているのだと思います」

「なるほど」


 少し不思議だが、そうした理由があるなら気にしないでおこう。


「それよりジンっていったか? 外から来たんだろ! 話を聞かせてくれよ! 本当はすぐにでも話したかったけど、パパが隠れていろっていうから我慢していたんだ!」

「っ! ギルン! ジンさんと呼びなさい! それと、ここではお父さんと呼ぶんだ。ママのことも、お母さんだぞ」

「へ? あ、あれか? 初めて会った人には礼儀正しくってやつか?」

「そうだ!」


 別に呼び捨てでも構わないが、よその教育に口を挟むのは止めておこう。


 ギルンにとって俺は初めての他人だろうし、ここで俺が軽く許可をしてしまえば、後々別の他人と会ったときに面倒なことになるかもしれない。


 にしても、この図体(ずうたい)と年齢で父親をパパ呼びか。


 まあ、他に関わる人がいなければ、大きくなっても使い続けるものなのかもしれない。


「えっと、ジンさん? 外の話を聞かせてください?」

「ああ、構わないぞ」

「おお! 本当か! ありがとな!」

「!?」


 するとギルンがそう言って、俺をハグしてくる。


 (よこしま)という感じは無く、まるで家族にするような抱擁(ほうよう)だった。


「こ、こら! やめなさい!」

「え?」


 そしてギーギルが慌てたように、ギルンを引きはがす。


「ご、ごめんなさい。息子に悪気はないの。女性(・・)がいきなり男に抱きしめられたら嫌よね。本当にごめんなさい」


 ん? 女性? もしかして、女だと思われているのか?


「いや、変な感じじゃなかったし、大丈夫だ。それと、俺は男だ」

「へ? だ、男性だったのね。綺麗な顔をしているし、お洋服も融通してくれたから女性だと勘違いしていたわ」


 なるほど。プリミナの衣服を持っていたから、勘違いしたのか。


 だとすれば今俺は、女性ものの服を持ち歩く男だと、そう思われていることになる。


 変な勘違いをされたら困るので、訂正をしておこう。


「あれは、以前パーティを組んでいた女性のものだ。色々理由があって、収納スキルに入れっぱなしになっていたに過ぎない。その女性とも今後会えるとも限らないから、俺にとってはやり場に困っていたんだ」

「そうだったのね。でも、男性……少し残念ね」


 ナンナは小さくそう呟いたが、俺の耳には届いていた。


 もしかして同性の人物と話ができると、少し期待していたのだろうか?


 俺がそう思っていると、話を聞いていたギルンが爆弾発言をする。


「え? 男? なあ男って、赤ちゃん産めるのか? 産めるなら、ジンさんワーシの赤ちゃんを産んでくれよ!」

「は?」

 


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