208 沼地のダンジョン ⑥
名称:ギーギル
種族:人族
年齢:41
性別:男
スキル
【剣適性】【地属性適性】【鑑定】
【隠密】【スラッシュ】【ストーン】
【気配感知】【罠感知】【上級開錠】
【上級罠解除】【投擲】【身体能力上昇(小)】
【中級鑑定妨害】【サークルスラッシュ】
【ピットホール】【ハイスラッシュ】
【状態異常耐性(小)】【精神耐性(小)】
このギーギルという男、どう考えても怪しい。
見た目も二十代後半なのに、実年齢は41歳となっている。
若作りにしても、限度があるだろう。
隠しづらいシワなどが、一切見当たらない。
しかしだとすれば、なぜ鑑定を許したのだろうか?
スワンプマンという項目があれば、怪しまれるのは避けられない。
考えられるとすれば、そもそもこの項目を見られるとは思っていなかったのだろうか?
俺の鑑定は通常のスキルではなく、エクストラだ。
普通の鑑定よりも、効果が高いと思われる。
だとすれば、本来このスワンプマンという項目は見えないのだろうか?
ギーギルという男も鑑定を所持しているし、自分でも確かめているだろう。
それでスワンプマンという項目が確認できず、見せても大丈夫だと判断したのかもしれない。
だがそれでも、年齢については隠せていないことになる。
ギーギルの顔を見れば、緊張から汗がダラダラと流れていた。
一応、この年齢について尋ねてみよう。
「ずいぶん若いように見えるが、41歳なんだな」
「っ、は、はい。昔から若く見られていまして、それにこれでも、美容には気を使っているのです。ど、どろのパックとか、良い感じなんです」
精神の表層から、それが嘘ということが分かった。
やはり、嘘をつくだけの理由があるのだろう。
「そうか。一応念のために訊いておくが、俺を騙したり罠にはめようとする気は無いよな?」
「もっ、もちろん! 怪しいのは十分承知です。ですが何卒、何卒お願いします」
その言葉に、嘘はなかった。
以心伝心+の効果を欺く何かが無ければ、このギーギルという男は相当困っているのだろう。
それにもし自身がモンスターだとバレれば、俺が攻撃をすると考えているのかもしれない。
女王の件もあるし、ダンジョンに訳アリの存在がいてもおかしくはないか。
そう考えると、なんだか助けてもいい気がしてきた。
であれば、物々交換に応じてもいいだろう。
もしも何かあるようなら、その時に対処をすればいい。
余程のことがない限り、対処は可能なはずだ。これは驕りではなく、事実である。
しかし油断はできないので、十分に注意していこう。
俺はそう判断を下すと、ギーギルの頼みに応じることにした。
「わかった。物々交換に応じよう」
「ほ、ほんとうですか! ありがとうございます!」
そう言って、ギーギルは何度も頭を下げる。
表情からも、純粋な喜びが伝わってきた。
おそらくギーギルは、かなり緊張していたのだろう。
下手をすれば、命を失うリスクもあった。
だとすれば、その喜びようにも納得ができる。
そうして俺は、ギーギルとの物々交換について話し合う。
ギーギルが差し出せるのは、主にこの中層と浅層から手に入るモンスターの素材と情報。
あとは数は少ないが、深層モンスターの素材と多少の情報もあるらしい。
対してギーギルが望むのは、新鮮な食料や塩などの香辛料、消耗品や道具、できれば服や細々とした雑貨など、何でも欲しいようだ。
まあ、こんな沼地のダンジョンにいれば、欲しいものは多岐に渡るだろう。
正直ギーギルが差し出すもので興味あるのは情報くらいだが、モンスターの素材も受け取っておくことにする。
それにギーギルの欲しがるものは、実はかなり持っていた。
捨てるに捨てられず、ストレージの奥で眠っていたものがある。
それは幸運の蝶、ゲゾルグ、プリミナ、ジェイク、サンザのパーティから預かっていた荷物だ。
主に非常食や野営道具、替えの衣服や消耗品などになる。
いずれ召喚転移で大陸間の移動が可能になった際に、プリミナに返そうと思っていた。
しかし今更こうしたものを押し付けられても、逆に困るかもしれない。
であれば、今困窮しているギーギルに渡してしまってもいいと思った。
理由を話せば、プリミナも許してくれるだろう。
まあ、そもそも再会できるか分からないので、何とも言えないが。
あとは俺が溜め込んでいた食料や香辛料、いらない物を渡すことにした。
表の城下町で仕入れることができるようになったので、そこまで貴重な物でもない。
俺が出せる物について伝えると、ギーギルは神に出会ったというばかりに祈りを捧げてきた。
それを見て俺は若干たじろいだが、こんな場所に閉じ込められていたら、祈りたくなるのも仕方がないのかもしれない。
とりあえず量が量なので、一度ギーギルは物々交換の品を取りに戻るみたいだ。
そして二時間後に、近くにある陸地で落ち合うことになった。
ギーギルは何度も感謝を口にすると、颯爽と去っていく。
今更だが、ギーギルはかなり優秀な人物のようだ。
スキル構成からして、剣士、斥候、魔法使いの三つを熟せるオールラウンダーという感じだった。
冒険者なら、かなり高位のランクだと思われる。
にしても、あのスワンプマンという項目がやはり気になるな。
モンスターだと思うのだが、種族特性は無かった。
偽装されている感じもしなかったし、俺の勘違いだったのだろうか?
僅かにスワンプマンという種族の血が混ざっており、単に表示されていただけという可能性もある。
もしかしたら年齢以上に見た目が若いのも、その血が関係しているのだろうか?
色々と、謎の多い人物だ。
しかし話した限りだと、悪人という感じはしない。
あの喜びようからして、このダンジョンを出られなくなって困っているのは事実だろう。
ダンジョンの呪いのようなものと言っていたが、それは解くことが出来ないのだろうか?
俺はこの後ダンジョンを攻略して、崩壊に導くことになる。
その時に、ギーギルの呪いも消えればいいのだが……。
だとすればダンジョンを崩壊させることは、一応話しておいた方がいいかもしれない。
すぐにダンジョンが消える訳ではないと思われるが、逃げる準備はするように言っておこう。
それとダンジョンボスを撃破した後は、一度様子を見に来ることにする。
もし呪いが解けていないようであれば、ギーギルはダンジョンと運命を共にすることになるだろう。
それだと、何だか目覚めが悪い。
最悪の場合は、あらゆる呪いなどから回復する、ユグドラシルの果実もある。
正直俺がそこまでする義理はないが、ここまできたら出来る限りのことはしよう。
そんなことを考えつつ、俺たちは時間が来るまで適当に中層で狩りをする。
また実験も行い、ゾンビ系にはルーラーモスキートのゾンビ化は、効果が無いことが判明した。
ゾンビ系は既にゾンビであるので、ゾンビ化液が効かないのは当然の結果だろう。
加えて蔓の集まった植物に見えるロットキャリアにも効かず、そこまでゾンビ化液が万能ではないことも判明する。
おそらくゴーレム系などといったタイプのモンスターにも、効果はないだろう。
ゾンビ化液が効くのは、生きた人型種族や生物系のモンスターに限定されるのかもしれない。
そうして時間を潰した二時間後、俺は指定された場所にやってきた。
ちなみに連れている配下は、レフだけである。
物々交換をするのに配下を何体も連れていたら、何だか威圧している感じがしたからだ。
そして待ち合わせの場所には既にギーギルがおり、俺たちを待っている。
またその横には、もう一人いた。
服装はギーギルと同じように、茶色い皮のようなものを胸と腰に巻いた女性である。
年齢は二十代後半で、筋肉はそこまでついているようには見えない。
髪は短く青色をしており、瞳の色も同様に青かった。
雰囲気はおっとり系という印象。胸はそこそこあり、人妻感がする。
おそらくだが、ギーギルの妻なのだろう。
そんな印象を抱きながら、俺は二人に近づくのだった。




