018 国境の街シルダート
門は既に開いていたが、何人か並んでいる。
俺もその列に並び、順番を待った。
「次」
門番にそう言われたので、冒険者証であるドックタグを見せる。
「ふっ、Fランクか。通ってよし」
Fランク冒険者という事で、鼻で笑われた。
コイツは低ランク冒険者を見つければ、いちいち鼻で笑うのだろうか?
そんなことを思いながら、俺は街に入る。
おおっ、凄いな。
これまで異世界では村しか見ていないこともあり、石畳が続く街並みに感嘆する。
完全にお上り状態だったからか、すれ違いざまに財布を盗もうする者が何人かいた。
だがその手を軽く叩き、やり過ごす。
そもそも俺は財布をストレージに入れているので、盗もうとしても無駄だ。
おい、財布じゃなくて俺の尻を触ろうとするな。
人が多ければ、そうした者も多くなる。
これは、早めに宿をとったほうがいいな。
しかし宿を探しても、埋まっているところが多い。
空いていても値段が高すぎるか、ボロ小屋手前の宿屋だった。
それでもめげずに探したところ、一泊食事無しで銀貨二枚のところを見つける。
たっか。キョウヘンの宿屋は一泊朝晩食事付きで、小銀貨四枚だったぞ。
ゴブリンに換算すると、三十匹近く狩ってようやく一泊だ。
こりゃ、近くの村で待機するはずだな。
けど、仕方がない。
俺は諦めて、一泊分の代金を払うのだった。
◆
値段の割に部屋の質も悪い宿で冒険者ギルドの場所を訊くと、俺は一度宿を出る。
相変わらず人が多く、中でも武装した者が多かった。
全てが冒険者という雰囲気ではなく、衛兵のような者たちもかなりいる。
それだけ、治安も悪いのだろう。
「こら! 待ちやがれ!」
「誰が待つかよ!」
見れば浮浪児がパンを片手に走り去っていく、その後ろを店主らしき人物が追う。
城壁の周りにスラム街みたいなのが見えたが、街の中にもあるのかもしれない。
親を亡くした冒険者の子供とか、普通にいそうだ。
それに対して、俺にできることはない。
ただ機会があれば、助けることもあるだろう。
そんなことを考えながら、冒険者ギルドに辿り着いた。
でかいな。
第一印象は砦だ。
冒険者が多いという事もあり、ギルドも大きい。
入ってみれば受付の数も多く、吹き抜けになっている二階にも冒険者がいる。
ただ二階にいるのは身なりが良く、ランクの高い冒険者だと思われた。
駆け出し冒険者は、一階の掲示板に群がっている。
ちなみに二階に続く階段の横には、Bランク以上と書かれていた。
俺が行けるようになるのは、当分先だろう。
人の群れに突っ込むのは嫌だが、仕方がない。
俺は掲示板に近づき、目を凝らす。
デミゴッドは視力も良いので、何とか内容を把握する。
Fランクが受けられるのは、街の中での雑用や、建築での資材運びがほとんどだ。
討伐依頼はいくつかあったが、宿代より安いのが残っている。
まあ時間が時間だし、わりの良いものは既に無いのだろう。
あとは以前ベックたちに聞いた通り、街の中にダンジョンがあるらしく、そこでの討伐依頼や採取依頼などがあった。
この数の冒険者がどうやって稼いでいるか気になっていたが、やはりダンジョンだったか。
ダンジョン関連の常備依頼もあるし、それにしよう。
そうして俺は、さっそくダンジョンに行くことを決めた。
なおダンジョンの場所は、ギルド内に大きく地図が貼られていたので迷うことはない。
ダンジョンは街中にあるが、万が一のことを考えてか壁で囲まれている。
壁の入り口は一つであり、出入り自体は自由のようだ。
この数の冒険者を捌くのが、難しいという事もあるのだろう。
壁を過ぎると、多くの屋台や冒険者たちがいた。
「前衛一人募集!」
「属性魔法使いどなたか入りませんか?」
「駆け出し冒険者大募集! Dランクまで成長できるぜ!」
「荷物持ちいりませんか? 報酬は要相談です」
パーティメンバーを募集する者や、怪しい謳い文句で駆け出しを集める者がいる。
また荷物持ちを要らないかと、冒険者に声をかける子供の姿があった。
俺はパーティメンバー、荷物持ち共にいらないので、一人で行く。
何度か声をかけられたが、断りを入れた。
しつこい者は無視である。
そしてダンジョンの入り口を潜ると、目の前には草原が広がった。
凄いな。ゴブリンのダンジョンとは大違いだ。
上を見上げれば空があるし、太陽もある。
遠くを見れば、どこまでも続いている気がした。
とりあえず、人の少ない場所まで走るか。
入り口という事もあり、冒険者の数が多い。
ここでモンスターを召喚すれば、当然騒ぎになりそうなので控える。
走りながら周囲を確認すれば、モンスターと戦う冒険者が数多く見られた。
ゴブリンやホーンラビットはもちろんのこと、グレイウルフもいるようだ。
ダンジョン内で狩れてしまったら、街の外で狩りをする者が少なくなりそうだが、その部分はどうしているのだろうか。
そんなことを思いながら、俺は進む。
しばらく走ると人がいなくなったので、赤い布を巻いたグレイウルフを召喚した。
ちなみに未だ名前をつけていないのは、わざとだったりする。
理由は上位種やそれに代わる有用なモンスターを手に入れたら、召喚することがほとんど無くなると思ったからだ。
希少なモンスターで、複数手に入らなければ名前を考えるかもしれない。
そういう訳で未だ名無しのグレイウルフを連れて、ダンジョン内の草原を歩く。
現れるゴブリンやホーンラビットを倒し、素材を剥ぎ取る。
これまでゴブリンにやらせていたので、歪になってしまった。
続いてなぜか一匹狼のグレイウルフが、何度か襲ってくる。
おそらくダンジョンの何らかの影響で、単独行動しているのだろう。
街の外でのグレイウルフは、必ず群れで行動していた。
またグレイウルフは倒しても剥ぎ取らず、カード化しておく。
グレイウルフは集団の方が強いし、気に入った人物に渡す筆頭なので、数を用意しておきたい。
そしてこのダンジョンで手に入れたグレイウルフを追加で召喚して、青い布を首に巻く。
「よし、このダンジョンの宝箱の場所に案内してくれ」
「バウ!」
どうやらゴブリンのダンジョンの時と同様に、このダンジョンで生まれていれば宝箱の場所が分かるみたいだ。
まあ宝箱というよりも、ダンジョン内の構造や設置物が情報としてインストールされているのだろう。
俺のこれは、裏技みたいなものだ。
普通の使役方法では、難しいだろう。
そしてグレイウルフに案内されて、俺はある場所に辿り着いた。
「泥沼?」
草原の中に突如として泥沼が現れ、その中央に島のように陸地が見える。
その島の中心に、宝箱が堂々と鎮座していた。
これ、絶対罠だろ。
あれほど分かりやすい位置にあるのにもかかわず、周囲には冒険者の姿がない。
試しにゴブリンを一匹召喚して、突撃させる事にした。
「行け」
「ごっぶ!」
ゴブリンは俺の命令に従って、泥沼に入る。
しばらくは問題なく進んでいたが、突如として異変が発生した。
「ごぶがぁ!?」
ゴブリンがモンスターによって、泥沼の中に引きずり込まれる。
一瞬だが鋏のようなものが見えたので、鑑定を発動させた。
種族:マッドクラブ
種族特性
【鋏強化(小)】【地属性耐性(小)】
どうやら、マッドクラブというモンスターらしい。
鋏強化もあるし、普通の人なら腕や足が切断される可能性もありそうだ。
するとゴブリンもカードに戻り、やられたことが知らされる。
さて、これはどうしたものか。
泥沼の中では、見つけるのも難しい。
俺に遠距離攻撃が無いのが悔やまれる。
ゴブリン軍団を送ろうにも、効率が悪すぎるだろう。
復活するとはいえ、無駄に損耗させるのは避けたい。
なら、あれなら何とかなるかもしれないな。
性能を確かめるのにもちょうど良い。
さいあく俺には再生があるし、何とかなるだろう。
そう考えた俺は、あることを実行するのだった。