141 フェアリーと森の事情
「ごちそうさまぁ!」
トーンシロップを堪能したフェアリーに、俺は生活魔法の清潔を発動させる。
それによってベタベタだったフェアリーから、トーンシロップが綺麗に消えた。
「それで訊きたいことがあるのだが、いいか?」
「うん! やくそくだもんね! 何でも話すよー」
すっかり機嫌が良くなったみたいなので、正直ホッとした。
「じゃあまずは、何で隠れてこちらを覗いていたんだ?」
「えっとね。悪いフェアリーから逃げている途中で、疲れてたから休んでいたの! そしたら君が突然現れたんだよー」
「ん? 悪いフェアリー?」
それを聞いた途端、まるでタイミングを図ったかのようにそれが現れる。
「見つけたぞ!」
「捕まえろー!」
「女王様のためにー!」
前方から、三匹のフェアリーが飛んできた。
手には槍を持っており、このフェアリーを狙っているみたいだ。
念のため鑑定を飛ばしてみるが、スキル構成に変わりはない。
言葉を話すから人類系かと慎重になったが、やはりフェアリーはモンスターなのだろう。
今思えば人族やエルフなどの人類は、大抵の場合十歳の時にスキルを授かる。
けれどもモンスターには、おそらくそれが無い。
合計四匹のフェアリーにスキルが無いということは、もう確定だろう。
まあ目の前のフェアリーが軒並み十歳以下という可能性もあるが、それもカード化すれば分かることだ。
「あれは、倒しても構わないか?」
「う、うん! 裏切者の悪いフェアリーだから、お願い!」
「わかった」
そう言って俺は緑斬のウィンドソードを素早く抜くと、フェアリーに向ってウィンドカッターを飛ばす。
「ぐげぇ!?」
「ぶげばっ」
「だばぼっ!?」
直線にいたからか、呆気なくまとめて両断された。
「ひぃ!?」
あまりの光景に、フェアリーは青い顔をして怯える。
ミスったか? これでまた警戒されないといいのだが……。
そんなことを思いながら、俺はカード化を試みる。
「よし、フェアリー、ゲットだ」
無事に、三匹ともカード化できた。
これでフェアリーが、モンスターだと証明されたな。
それとこいつらは普通に喋れるみたいだし、カード化してから情報を得る事も容易いはずだ。
カード化したモンスターは、生前の記憶が残る。
なので、直接訊けば早い。
先ほどはモンスターだと確証が無かったから、安全策で臨んだ。
けれどもモンスターと分かった以上、コイツのご機嫌を取る必要が無い。
だがまあ今更始末して情報を得るのは、流石に気が引ける。
「あ、ありがとぅ、ご、ごじゃいましゅ……」
それに一応、感謝はしているみたいだ。
当初こそ攻撃をされたが、状況が状況だったし、友好的になったのであればわざわざ倒す必要もないか。
それと嘘かどうかは、以心伝心+で分かる。
加えて悪いフェアリーとやらを倒せば、カードも集めることができるしな。
そういう訳で、俺は再びフェアリーから直接情報を訊くことにする。
「それで話の続きだが、どうして追いかけられていたんだ?」
「え、えっとね、それは――」
◆
それから話を訊いたことで、様々な事が判明した。
もちろん以心伝心+で全て真実だと確認したし、心を読んで言葉足らずのところも概ね理解している。
それでまず前提としてこの森は妖精の森といい、元々クイーンフェアリーが治めていたようだ。
エルフとも友好的であり、エルフの国にある自治区の一つでもあったらしい。
だがそんなある日、ハイエルフを自称するエルフ達が森にやってきた。
そしてクイーンフェアリーを倒すと、その力を奪ったらしい。
どうやらクイーンフェアリーは、契約魔法という特殊なスキルが使えたようだ。
それがあるため、エルフとも対等に取引ができていたのである。
だがその力は奪われてしまい、悪用され始めたようだ。
またフェアリーの中から裏切者も現れ、善良なフェアリーを捕らえているらしい。
捕まったら恐ろしい目に遭うと噂されており、残った善良なフェアリーたちは森の中を逃げ回っているようだ。
森を出ないのは、モンスターの習性もあって難しいのだろう。
モンスターは基本的に空気中の魔素濃度の関係で、自身が生まれた場所からあまり出ない。
しかし中には、エルフの元へ助けを求めた個体もいたようだ。
そこから、自称ハイエルフとエルフの争いが始まったようである。
このフェアリーは、偶然森の外周にいて難を逃れたみたいだった。
詳しいことは、逃げてきた他のフェアリーから聞いたらしい。
だがそうしたフェアリーたちも、今はほとんど捕まってしまったようだ。
なのでこの森に善良なフェアリーは、最早ほとんどいないとのこと。
ちなみに自然発生したフェアリーは教育ができていないので、見かけたら気をつけた方がいいと言われた。
またあの巨大な木も、自称ハイエルフが来てから現れたらしい。
なぜ現れたかは、フェアリーも知らないようだ。
それと巨大な木へと一定距離近づくと、精神に作用するスキルや補助系スキルなどが使え無くなったり、効果が著しく低下するとのこと。
対して敵は、普通に使えるみたいである。
故に善良なフェアリーたちは、森の外周にいるしかなく、敵から見つかりやすいという。
配下のモンスターと全感共有が切れたのには、そうした絡繰りがあったみたいだ。
このフェアリーから訊けた内容は、概ね以上である。
思った以上に、面倒だな。
自称ハイエルフの中に、倒したモンスターからスキルを奪う転移者がいるみたいだ。
おそらくそれが、自称ハイエルフの女王だろう。
あのボンバーが従っていたのにも、納得できる。
スキルの習得は容量の関係上無限ではないと思われるが、強力なスキルをいくつも所持しているのだろう。
つまり、自身の質を伸ばしていくタイプだ。
どちらかと言えば質より量の俺とは、正直相性が悪い。
ゲヘナデモクレスという切り札が無ければ、戦うのを諦めていただろう。
自称ハイエルフの女王は、国を手に入れて複数の転移者まで従えている。
結果として質だけでなく量までも、手に入れているのだ。
そう考えると、恐ろしい人物である。
だが逆に、倒すなら今しかない。
この機会を逃せば、俺には手に負えない相手になるだろう。
ツクロダもやっかいだったが、コイツはそれ以上だ。
もしかして本来転移者とは、勢力を得て他国に挑むのが通常ルートなのだろうか?
俺のように頻繁に国境門を通る方が、少数派なのかもしれない。
あと気になるのは、補助系スキルが使えなくなる可能性だろうか。
俺のスキル構成には、補助系スキルが多い。
使えたとしても、効果が低下するようだ。
これで肝心な時にゲヘナデモクレスが召喚できなければ、正直詰む。
想像以上に、やっかいだった。
何か対策は無いかと訊いても、フェアリーは知らないようだ。
であるならば、知っていそうな者に訊くしかない。
先ほどカード化した悪いフェアリーなら、何か知っている可能性がある。
ならここでこのフェアリーとは、別れた方がいいな。
モンスターといえども、力を知られない方が良い。
「情報提供に感謝する。では、俺はこれからやることがある。お前も達者でな」
「にゃーん」
そう言ってレフと共に、その場を去ろうとしたその時だった。
「おいてかないでよぉ! 私もいくぅ!」
「は?」
何故か、フェアリーが追いかけてくる。
「何でもいうことを聞くから! 私も連れてってぇ!」
「はぁ……」
これは断ってもついてきそうだ。邪魔になるし、始末するか? いや、そこまでするのは、なんか嫌だな……。
「このままじゃ、私捕まっちゃうよぉ! おねがぃ!」
そう言われてどうしたものかと頭を悩ませていると、それは起こる。
「ふぇ? なにこれ? え? なるぅ! なりましゅぅ!」
フェアリーがそんな声を上げた途端、体が光るとその場から消え去った。
そして気が付けば、俺の手元にカードが現れる。
「まじか……」
ジョンの時は俺から問いかけたが、まさか向こうから勝手にカード化するとは……。
また新たな隠し効果が、判明したな。
とりあえずは、これで問題が解決したとしよう。
けれども騒がれると面倒だし、しばらくカードのままにしておく。
さて気を取り直して、悪いフェアリーたちを召喚して話を訊こう。