013 ハジミナ村に到着
夜中は特に問題は起こらず、普通に早朝目が覚めた。
しかしモンスターの襲撃はあったみたいで、死骸が一か所に積みあがっている。
おっ、ゴブリン以外にもいるな。
グレイウルフが六匹いたので、カード化しておく。
これでグレイウルフのカードは、十三枚になった。
あとは見たことないのが一匹いたので、鑑定しておく。
名称:ジャイアントバットの死骸
説明
ジャイアントバットの死骸
どうやら死骸だと、アイテム扱いのようだ。
カード化して、召喚してみる。
「キキッ」
大きさがホーンラビットくらいなので、普通の蝙蝠と比べるとかなりでかい。
そんなことを思いながら、再び鑑定をしてみる。
種族:ジャイアントバット
種族特性
【吸血】【超音波】
吸血は相手から血を吸って、自身の体力や魔力を回復することができるみたいだ。
次に超音波は反響で位置を特定したり、直接ぶつけることで相手の意識を朦朧ととさせることができるらしい。
使いどころによっては便利そうだ。
今は使い道が無いので、カードに戻しておく。
残った死骸はゴブリンだけなので、ゴブリンに剥ぎ取らせて残りは捨てる。
この場所なら、死骸は他のモンスターが持っていくだろう。
それから他の人たちも起きて一緒に朝食をとり、準備を済ませて出発する。
モンスターはグレイウルフ一匹を残してカードに戻し、荷馬車の後方を歩く。
冒険者だという旅人二人は、それぞれ左右に分かれている。
ハプンは御者をしており、サマンサとハンスは荷馬車の中だ。
サマンサは良いとして、ハンスは歩けよ……。
ハンスは体力もないらしい。
それから道中何度かモンスターが現れたが、難なく対処できている。
一応カード化は控えて、素材などは後で売って分けることになった。
もちろん分けるのは、俺と旅人の二人である。
なぜハンスは、自分も貰えると思ったのだろうか。
サマンサが止めなければ、絶対名乗り出ていただろう。
分け前が欲しいのであれば、せめて戦え。
自慢のスキル構成と剣が泣いているぞ。
ちなみに旅人の二人は最初全て俺にくれるみたいだったが、俺の方から断りを入れている。
なぜなら所持金申告の時、二人ともほとんど金銭を持っていなかったからだ。
おそらく、わざと少なく申告したのだろう。
逆にハンスは多く申告したことで、サマンサに怒鳴られていた。
やはりハンスは、欲深くもあるらしい。
なのでモンスターの素材の売却額は、三人で分けることにしたのだ。
それといい加減に旅人呼びではあれなので、名前で呼ぶことにする。
剣を持った二十代前半の男性がエーゲルで、槍を持った十代後半の青年がランジというようだ。
ちなみに俺の名前も、食事の時に教えてある。
「ジン君はその年で凄いな。僕は元々剣適性しかなかったから、正直多彩な君がうらやましいよ」
「俺も槍適性だけだったから、その気持ちがよく分かる」
休憩の時には、そんな風に声をかけられるくらいには打ち解けた。
「いや、結局スキルがあっても、ここからどう伸ばすかを考えている。スキルが複数あっても、使い切れなければ意味がない。逆に、器用貧乏にならないか心配だ」
「なるほど。その向上心は見習いたいな」
「確かに、俺も自分の才能を諦めて旅に出た結果が、あれだからなぁ」
三人でそんなことを話し合っていると、とうとつにハンスが近付いてくる。
「おい、俺と勝負しろ!」
「は?」
突然俺にそう言って、木の棒を向けた。
本物の剣を向ける度胸は、流石に無いらしい。
対人戦か、そういえば試合形式はやったことがないな。
「なんだ? 怖気づいたのか?」
「おいおい、その辺にしとけよ」
「恩人に向けていい言葉じゃないぞ!」
俺が考えを巡らせていると、エーゲルとランジがイラつき始めた。
ここは、俺が普通に相手をした方がいいな。
「わかった。一回だけだぞ」
そう言って俺も手ごろな木の棒を拾い、ハンスと向き合う。
ハンスはあれでも剣適性があるので、警戒はしておくか。
適性系は、扱いや成長に補正がかかるからな。
「い、いくぞ!」
そしてハンスが俺に斬りかかってくる。
確かに剣は鋭く、型もきれいだ。
しかし何というか、それだけな感じがする。
「うーん」
俺はハンスの斬撃を回避して、すれ違いざまに攻撃を当てた。
「ぐぁ!?」
正直俺も我流で人のことは言えないが、その俺より酷いのは何故だろうか。
スキルを使っているつもりが振り回されているからか? それともスキルに頼り過ぎて考えることを放棄しているからか?
もしかして俺も人族だったら、これと似たような感じだった可能性がある。
スキルに驕らず、何が最適か考えて行動していこう。
ハンスはある意味、良い反面教師かもしれない。
それから何度か打ち合うが、似たような結果に落ち着く。
「それで終わりか?」
「だ、黙れぇぇ!」
結局試合は、サマンサがハンスに負けを認めさせるまで続いた。
だがハンスから恨みをかったようで、顔を合わせるたびに睨まれてしまう。
ハンスは根に持つタイプらしい。
というか、俺が助けたこと忘れてないか? 分かっててやっているなら、かなりのものだぞ。
エーゲルは災難だったと言い、ランジはあれには関わらない方がいいと言っていた。
俺もそう思う。
それから休憩後は何度かモンスターを倒し、もう一夜野営で過ごした次の日の午前中、ようやく村へ辿り着いた。
村の名前はハジミナ。
何の変哲のない、街道途中にあるただの村である。
そこにハプン行きつけの宿があるらしいので、お世話になることに。
代金は当然とばかりに、ハプン持ちである。
その後俺とエーゲルたちは冒険者ギルドに行き、ハプンたちは商業ギルドに行く。
盗賊たちのことは、ハプンが処理してくれるみたいだ。
俺たちは、道中手に入れた素材を売りに行くだけである。
ハジミナの冒険者ギルドはキョウヘンと同様に、少々さびれていた。
素材の売買も早々に済まし、三人で分け合う。
といっても道中そこまでモンスターは出なかったので、大したものではない。
ちなみに夜中のモンスターの素材は、全て俺の物になった。
流石に何もせずに寝ていただけなので、二人も受け取るのは断固拒否している。
しかし余計な計算が面倒なので、ちゃっかり三等分にしておいた。
ちなみに二日目の夜は、ゴブリンが数匹しか出なかったのでカードは増えていない。
その後は宿屋に戻り、一息つく。
すると何か用があるのか、二人が俺の部屋にやって来た。
「ジン君、改めて助けてくれてありがとう。盗賊から取り返した物だけど、お礼にこれを受け取ってくれ」
まずはエーゲルがそう言って、なんとスキルオーブを俺に手渡す。
「これは、スキルオーブか?」
「ああ、シャドーネイルというスキルらしい。闇属性の適性があれば、習得できるよ。そうでなければ、売ってもいい」
エーゲルの顔には、どこか陰があった。
このスキルオーブを手に入れたときに、何かあったのかもしれない。
「助かる。大事に使わせてもらう」
「そうしてくれると、助かるよ。僕には必要ないものだからね」
エーゲルとの会話が終わると、次にランジが前に出る。
「俺のは本当に大したものじゃなくてすまないけど、受け取ってくれ」
ランジが俺に渡してきたのは、一本の短剣
「短剣?」
「一応、ただの短剣じゃないぜ。魔力を流すと……」
「魔力を流すと?」
「僅かに光る」
「光る?」
試しに俺が魔力を流すと、短剣が淡く光った。
それだけの短剣だ。
「ランジ、君ってやつは……」
「し、仕方がないだろ! 俺からすれば、魔力で光る短剣は重宝したんだよ!」
「れ、礼を言う。こういうのは気持ちだ。きっと、いつか、おそらく役に立つだろう」
「下手な慰めは逆にきちいよ!」
ランジの悲痛な声が、部屋に響いた。
まあランジのお礼はともかく、エーゲルがくれたスキルオーブは普通にうれしい。
習得するかどうか、後でじっくり考えよう。