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Reset  作者: 半 ネイロ
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5


 朝のニュースをチェックするため動画サイトを開く。オススメ欄に出ているのは、どれも同じ惨事を告げる内容だった。私はすぐに検索欄で好きな曲のタイトルを入力、出てきたライブ映像のサムネをタップした。


 今は悲しい気持ちになりたくない。人生で一番幸せな瞬間に浸っていたい。後数時間で、この記憶が消滅してしまうのだから。


 ホテルを出る時は一人だった。天野くんより早く起きて、気づかれないように家に帰ってきた。多分天野くんは酒の勢いもあって発散できるなら誰でもよかったのだろうから、彼にとって不本意な現実を突きつける訳にはいかない。 酒を飲んで脇が甘くなっていたのと、明らかに男性経験が無さそうな私を最初から狙っていたのかもしれないけど、何であれ私は幸せだった。


 そしてその日も急激に深い眠りへ落ち、起きるまで前回同様、丸一日費やした。


 今日はちゃんと大学へ行く。ミサから病状を気遣うメッセージが何通も来ていたから、お礼を言わないと。


 私はカーテンを開け、雲一つない空を見る。周りのマンションに囲まれ日光は届かないが、清々しい気分に満たされていた。リセット・サプリメントのおかげでストレスが少なくなり、快眠することができたのだと実感する。


 机の上でスマートフォンが振動した。ミサからだと思って軽い気持ちで見たら、天野くんの名前が表示されていてスマートフォンを落としそうになった。 


 何で天野くんが私の連絡先を?


 失われた記憶の中には、天野くんと連絡先を教えあった過程があるってことだろうか。


 私はいくつかの疑問を無視し、メッセージを開いた。


「同窓会の夜、何があったか覚えてる? 星下と歩いていた記憶はあるんだけど」


 私と天野くんが一緒にいた? どうして?


 無意識に記憶を辿ろうとした。すると、頭に鋭い痛みが走った。今までに感じたことのない痛さに立っていられなくなった。


 リセット・サプリメントを飲んでしまった以上、記憶を追うのは不可能だ。本当は何があったか知りたかったが、諦めて返信をする。


「ごめん、私もよく覚えていなくて……」

「そうだよね。こっちこそごめん。変な事訊いて」

「大丈夫」


 彼が私と一緒にいたと言うならその通りなのだと思う。だけど、何か彼を不快にさせることをしていないか不安だった。


 考えても仕方ないと頭痛も治まったため大学へ向うことにした。大学へはいつものルートで時間通りに到着したのに、講義室へ入っていつもの席へ座ろうとするも、いつもの席の場所を忘れてしまった。多分久しぶりに大学へ来たからだ。


「久しぶりじゃん。もう風邪治ったの?」


 ミサが部屋の中でウロウロしている私を見つけた途端、駆け寄ってきた。


「あ、うん。もう大丈夫。ごめんね心配かけて」

「いいって。それより、もう授業始まるよ。ほら、座らないと」

「うん……」


 私は彼女の後をついていった。


 こんな遠かっただろうかと違和感はありつつ席に座り、ノートをパラパラと捲る。


 授業をサボりすぎたせいで授業内容を忘れてしまっている。これでは大学に通っている意味がなくなってしまう。リセット・サプリメントの使用を控えないと。


 そう決意して、私はまっさらなノートに講義内容を板書した。

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