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サプリメントを飲み続けた成果なのか、少しだけ体重が減り始めた。母と久しぶりに会った時「少し痩せた? ちゃんとご飯食べてるの?」と心配されたが、当の私は彼の好みの女性に近づけているのだと思うと嬉しくなった。彼は私のことを覚えていないかもしれないが、私は全てと言っていいほど彼のことを覚えている。
「髪切ったんだね。短い方が似合ってるよ」
廊下ですれ違った時、彼は無邪気に笑って言ってくれた。あの頃も私は地味で太っていた。そんな私を、彼は褒めてくれた。人生で初めて異性に褒められた。
一瞬で恋に落ちてしまった。
だけど、告白など到底できなかった。彼は私と違って、光の中にいるのだから。
潔い良いように見えて、欲深いことはよく知っている。現に同窓会に出る理由は、これで彼のことを忘れようと踏ん切りをつけるためであり、彼は私のことを好きなのではないかというあり得ない願望を確かめるため。
大学の授業が終わり、帰り支度をしていると隣に座っていた友達の川中ミサが訊いてきた。
「エマって、今バイト何かやってるっけ?」
「やってるよ。飲食店と治験モニター」
「え、治験モニターやってるんだ!」
ミサはその単語にやけに食いついてきた。最初は彼女も興味があるのだと思っていたが、話を聞くとどうやら違うようだった。
彼女の知り合いが製薬会社に勤めており、その会社で新開発されたサプリメントの治験モニターを募集していて、なるべく若い世代でそれも経験者を求めているらしい。
「中々集まらなくて、私のところへ話が回ってきたの。だけど私経験者じゃないし、なんだか怖いし……。そしたら、エマが経験者だったなんて。もし興味あるならやってみない? 報酬は相場の倍でいいって」
私は迷った挙句、承諾した。その会社が有名な大手企業だったのと、倍の報酬が受け取れるからだ。彼女は早速、私に連絡先を伝え「急だけど、明日この場所に来てほしいって」と駅前にあるカフェの住所も送ってきた。
明日はちょうど飲食店のバイトが休みだったため待ち合わせ時刻を十六時に設定した。トントン拍子に進む不安はありつつ、これで良かったと思うのであった。少なくとも、この時は。