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彼らは撃退する

「まただよ」

 うんざりした声が漏れる。

 隣にいる者も同じだ。

「いい加減にしてくれ」

 同調するように声をもらす。



 自警団に所属してる二人は、もたらされた情報をもとに行動を開始していく。

 銃弾程度なら簡単に弾き返す装甲服を身につけ。

 それ以上に攻撃をほぼ無効にするバリア発生装置を装着する。



 ここに遠距離攻撃用の銃と、接近時の戦闘に備えて刀を持つ。

 今となっては原始的な武器だが、人間が相手ならこれで充分だった。

 下手に強力な武器を使って、周囲を破壊するわけにもいかない。

 いっその事、生物だけを殲滅するエネルギー兵器を使えれば良いのだが。

 巻き添えを極力減らすために、こういった武器は使用禁止となっている。

 使うとしたら、よほどの事があった場合だけだ。



 そんな対人用の装備を身につけた自警団の二人は、人工知能が示した場所へと向かっていく。

 テロリスト出現の報告が出たからだ。

「それで、今回はなんて言ってるんだ?」

「通りです」

 質問に答えたのは、相棒では無い。

 報告をもたらした人工知能である。



「人間らしい生活を。

 人工知能による支配を抜け出せ、だそうです」

「相変わらずだな」

 ため息をもらしながら、自警団二人は呆れる。

「何が不満なんだか」

 彼からすれば信じられないことだった。



 世界に人工知能がひろがって何百年にもなる。

 その助けにより、人は様々な恩恵を受けた。

 労働をする必要がなくなり、好きな事だけしていく事ができる。

 それこそ、日がな一日何もせずにボケッとしてる事だってできる。

 必要にして十分な物資は人工知能が提供してくれる。



 あらゆる人類が望んだ状態だろう。

 飢え死がない、欲しいものが手に入らないという状態から解放された。

 原始時代から常に続く艱難辛苦の全てが消えた。

 働かなくても生きていける、それもかなり豊かな生活が出来る。

 そんな状態を保つ人工知能は、人類になくてはならないものになっていた。

 そんな世界を人類は受け取っていた。



 しかし、全ての人間がこの状態をよしとしていたわけでもない。

 不自由のない、不足のない状態を否定する者達もいる。

 もっと自然な状態に戻ろう、という主義主張を唱える者達がこれだ。



 そういった者達はあえて人工知能のもたらす利益を拒否した。

 昔ながらの生活に戻っていった。

 アメリカにいるアーミッシュと呼ばれる者達と似たようなものだ。

 あえて文明化せず、昔ながらの生活をしようという考え。

 それ自体は決して悪いものではないだろう。



 とはいえ、本当に文明を捨ててるわけでもない。

 否定してるのは人工知能による補助だけ。

 科学的な道具や機械は普通に使う。

 様々な決定に人が携わろうという程度のものだ。



 そういう生き方を人工知能は否定しない。

 基本的に人工知能は人の望みをかなえる存在だ。

 人がそう望むなら、援助を控えるくらいの分別はあった。



 ただ、それを村や町など他の人が住む場所で行うのは無理がある。

 そういった場所は人工知能による補助が行き渡っている。

 自動的に動く様々な補助が組み込まれている。

 ただそこにいるだけで人工知能の恩恵を受けてしまう。



 その為、人工知能に頼らない生活を望む者は、こういった社会基盤がない場所に移動せねばならない。

 地球化された他の星がこれになる。

 既に太陽系以外の星々に進出した人類は、あえて人工知能による自動化をしてない星を用意している。

 人間らしい生活といって人工知能のいない生活を求める者はそこに移住する事になっていた。



 もっとも、機械や電子機器などはさすがに存在している。

 それらを人間が扱うのか、人工知能が操作するのかの違いがあるだけだ。

 さすがに着の身着のまま放り出すわけではない。



 そういった場所へと向かった者達は、自分が望んだ生活が出来る。

 もっとも、たいていは数日で元の状態を求めていく。

 なんだかんだで人工知能に頼り切った生活は便利だ。

 それに慣れ親しんだ者達が人工知能の補助の無い生活など出来るわけが無い。

 例外的はもともと野外でのキャンプなどのアウトドアを好んでる者くらいだ。

 そういった者達は趣味で始めたキャンプを繰り返している。

 自然の中での生き方を身につけている。

 人工知能が無い状態に体を慣らしている。

 そうした下地がある者が、あえて人工知能に頼らない生活が出来るのだ。



 そうではない者達に人工知能の補助無しの生活が出来るわけがない。

 数日もせずに根を上げた者達は、即座に人工知能に回収されて元の生活に戻っていく。

 補助の無い生活を求めてるとはいえ、人工知能は人を見捨ててるわけではない。

 常時監視をしていつでも手助け出来るようにしている。

 助けを求められれば、助けが必要なら即座に動き出す事ができる。

 結局、完全に人工知能から切り離されてるわけではないのだ。

 なんだかんだで補助は受けている。



 その恩恵を無視して人工知能の無い世界を求める。

 自警団の二人には理解出来ないことだった。



「自分でやるってのがどんだけ大変なのか分かってないんだろうな」

 片方はかつて人工知能の手助けを断って、別の星で過ごした事がある。

 たった数日だが、それで自動化されてない生活の大変さが身にしみた。

 だから、人工知能の排除という考えを放置出来なかった。



「やった事があれば、少しは理解出来ると思うんだけどなあ」

 もう片方も人工知能の補助がない生活がどれだけ大変かを知っている。

 こちらはキャンプが趣味で、休暇のたびに野外でテントをはっている。

 そういった事を繰り返しているおかげで、文明のありがたさを理解していた。



 そんな二人からすれば、人工知能を排除しようとする考えが理解できない。

 どうしてもしたいなら、専用の星があるのだからそこに行けばよい。

 人工知能があえて手助けしない場所は既にあるのだから。

 そうした場所に自ら赴き定住するだけで望む状態が手に入る。

 人類全体からすればごく一部だが、そこで生きてる者達もかなりの数になる。

 なぜその中に加わらないのか?

 自警団の二人は常に抱くこの疑問の答えをいまだに見つけられなかった。



 ただ、人工知能排斥派はこれらが手助けしない場所を求めてるわけではない。

 人類社会からの完全なる人工知能の排除を求めてる。

 多くの人類がそれを受け付けるわけがない。



 そういう事を言ってる者達の中で特に理解不能な事がある。

 その中には、人工知能のない生活を経験した者達も含まれてる事だ。

 それも、人工知能の手助けのない生活を続けてる者では無い。

 そういった者が人工知能を不要と断定するならまだ納得もする。

 しかし、人工知能排斥派の中にいるのは、手助けの無い生活で挫折した者がいる事だ。



 人工知能の手助けなしの自立自活は難しい。

 その事を体験したにも関わらず、人工知能を否定する。

 驚くべき事にこういう者の数はかなりいる。

 自警団の二人にはもう理解が出来なかった。



「なんでなんだろうなあ」

「さあねえ」

 無駄や無意味と思える人工知能への反発。

 それが出来ないと分かってるにも関わらず、無駄な反発をしている。

 そうする理由が二人には分からなかった。



 人工知能なくして自活は出来ない。

 無くても生きていけるだけの能力がそもそもない。

 一度はやってみて挫折してそれは分かってるはずだ。

 今は人工知能から手助けを得て生活しているのだ。

 それでも人工知能の排除を求めて叫ぶ。

 異様だった。

 異常と言っても良いかもしれない。



 そういう連中はあちこちで人工知能の端末を破壊していく。

 生活補助のためにあちこちに設置された機器を破壊していく。

 たんに世の中を悪くしていってる。

 そんな破壊活動を放置しておけるわけもない。



 ただ、人工知能はこれらの行動を阻止する事ができない。

 人間が行ってるからだ。

 人に危害を加えない事などが人工知能の設定に組み込まれている。

 たとえそれが犯罪・破壊活動であってもだ。

 この為、どうしても人の手によって止めるしかない。



 自警団の二人が活動してるのはこの為だ。

 明確な政府などが存在しない、必要なくなった世界において、自分の身は自分で守るしかない。

 こういった自発的に行動している者達が、人工知能の手が出せない分野で活動していた。

 これが社会を円滑に動かす事にもなっている。



 そんな彼らは破壊活動を行う者達がやってくるのを待っていた。

 人工知能からの事前情報で、どこにいるのかは分かってる。

 あとはその時が来るのを待つだけだ。



「本当に、何考えてんだろうな」

 人工知能に囲まれて生活してるのだ。

 どこで何をしてるのかなど筒抜けだ。

 そういうところに一切警戒感を抱かないような破壊活動者の行動は理解が出来なかった。

 もう少し隠す努力をしたらどうかとすら思う。



「おかげで楽が出来るけど」

「まあな」

 相手の行動に呆れていく。

 何も分からないよりはマシなのも確かだが。



 そんな彼らの前に、破壊活動者があらわれる。

 総勢9人。

 この手の活動集団としては比較的多い方だ。

 もっとも、頑張ってもこれくらいの数にしかならないとも言う。

 それほど現状に満足してる者が多いという事でもある。



 平穏に暮らすその他大勢から切り離された一欠片。

 ただそれだけの存在に、自警団の二人は全く同情も同調も出来ない。

 人工知能が動かす作業機械に片付けられていく死体を、蔑みのこもった目で見下ろすだけだ。



「なんでこんな事するんだか」

 理解が出来ない行動と思考に疑問が出る。

 数は多くは無いが必ず出てくるこうした問題。

 そうする理由はいまだに完全に解明されてない。

 だが、こんな愚行に触れる機会の多い自警団である。

 明確ではなくても、何となく察しはしている。

「暴れたいだけだろ。

 どうせ、今度も」

「だろうな」



 それが自警団活動を続ける彼らの考えだった。

 ただ反抗したいだけ。

 現状に反発したいだけ。

 その為にもっともらしい理屈を付けている。

 なので中身が伴ってない事がほとんどだ。



 だが、彼らの言動や行動から感じ取れる事もある。

 人工知能によって集められた情報から、何となく察すものがる。



 主導権を握りたい、自分が上でないと気が済まない。

 そういうところが感じ取れる。

 何らかの問題を起こす者達にはこういう性質が感じられる。

 そんな彼らにとって、人工知能は邪魔でしかない。

 可能な限り公平で公正であろうとする人工知能がいると、自分が上にのし上がれない。

 誰かの上に立ってないと気が済まない。

 より多くの人間を下に見たくてしょうがない。

 人が一人で無理なく生きていける人工知能の世界では出来ないことだ。



 究極の個人社会である。

 政府や企業のような巨大な組織が必要なくなっている。

 巨大な組織でなければ、階級社会が作れない。

 階級社会が無いと、明確な上下関係が作れない。

 上下関係がなければ、見下せる人間を作れない。



 それが我慢できない者が様々な問題を起こす。

 そのたびに自警団が動くことになる。

 平穏な世の中を崩されてはたまらない。



「どうしてここにもこういう連中が出てくるんだかなあ」

 そんなぼやきもある。

「せっかく生まれ変わったっていうのに」

「まったくだ」

 自警団二人は呆れて嘆くしかない。



 この二人も転生してきた者達だ。

 人工知能が補助するこの世界で平穏に暮らしてきた。

 それを保ってくれてる人工知能の必要性を充分に理解している。

 わざわざこの状態を壊すつもりはない。

 出来る限り守って保ちたいと考えている。



 そんな自警団の二人のような者達からすれば、破壊活動者は邪魔でしかない。

 働かなくても生きていける世の中を手放したくはない。

 そんな世の中を守るために、自警団活動をしていた。



 それに人間による忖度や憐憫もない。

 こういったものによる不条理な判断がない。

 機械的に善し悪しを判断していく。

 そんな人工知能が作る社会は、二人にとって天国だった。

 悪さをしなければ問題なく生きていける。

 それは何一つ難しくはないのだから。

 普通に生きていれば、何の咎めもない。



 それだけでも二人にとってはありがたい。

 前世において、このあたりの理不尽や不条理を経験してるから特にそう感じるのかもしれない。



「でも、出て来るもんは仕方ない」

「一つ一つ潰していくしかないか」

 出来ればこんな面倒な事はしたくない。

 だが、やらねば問題はどんどん大きくなる。

 だから少しでも小さいうちに片付けていくしかなかった。

 幸い、時間はいくらでもある。

 問題行動を起こす輩を取り締まる事は難しくもない。



「とりあえずこれで暫くは平和か」

 当面の問題は片付けた。

 次に何か起こるまでは暇になる。

「じゃあ、また」

「ああ、また今度」

 そう言って二人はそれぞれの住処に向かっていった。

 それぞれの日常に戻るために。



 不穏はこうして排除されていく。

 事件は表に出る前に完全に消し去られた。

 多くの者が知らないうちに。

 ただ関係した者達だけが、問題になりそうな出来事があったのを記憶するだけ。

 なべてこの世は事もなし、である。

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