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1 ジョギング、そして転生

「どこだ……ここ?」


 目を覚ますと、俺は一帯が真っ白な場所にいた。

 部屋かと思えばそうでもなく、壁や天井が見えない。

 境のない空間がどこまでも続く。そんな場所だった。


「はじめまして。大北和おおきたかずさん」


 そして気づけば目の前にめちゃくちゃ美人な女の人がいた。


「えーっと、あなたは?」


「私は俗に言う神という存在ですね。どうでしょうか? 驚かれましたでしょうか?」


「ええ、まあ少し」


 神って言ったよなこの人自分のこと。普通なら相当にやばい人認定しているところだけど、状況が状況だけにそうも思わない。ていうかどこだろここ……俺は今日も朝からジョギングをしていただけなのにな。


「すみません。ここは一体どこなのでしょう」


「ここは天国ですよ。和さんは死亡されたのです。それでこうしてお呼びしたというわけなのですよ」


「死亡、だって?」


 はは、何を言っているんだこの人は。百歩譲って神様だというのは信じてもいい。しかし俺が死んだだって? そんなバカなことを。俺は日々ジョギングでトレーニングを積んでいるんだ。足腰を鍛え、新陳代謝を上げ、日の光も十分に浴びる。身体も心も健康そのものと言っていい。


「あの、そんな冗談流石に通用しないですよ。なんてたって僕の趣味はジョギングなんですからね。この世で一番最強の趣味なんですよ。その最中に、俺が死ぬだって? ばかばかしい」


 そう、俺の趣味はただ一つ。ジョギングだ。

 俺はこれを幼少期のころから今現在十七歳になるまで毎日欠かさず続けてきた。他のやつらがやっているようなテレビゲームだったり、カラオケやらボーリングやらそういったくだらないことは一切やってない。なんならスマホすら持っていない。

 人生ジョギングさえあれば十分だ。それだけで俺は生きていける。ジョギングは俺の全てなのだ。


「いやー、まぁ信じたくないお気持ちは分かるのですが、残念ながら真実でしてね」


 そしてそんなジョギングを趣味にしている俺が死んだなんてことをこの女は抜かしているわけだ。正直理解に苦しむ。


「じゃあどうやって死んだのか、説明してみてくださいませんか? それが合理的なものであるならば、僕にも一考の余地があるでしょう。しかし悪いがジョギングだ。この最中にどう死ぬのか説明することは、密室殺人の証明よりも難しいですよ。さあ、ぜひともお聞かせ願えませんかね」


「いえ、普通に疲労骨折で脚の骨が皮膚から突き出て出血多量で死亡したみたいですが」


「……」


 そう言われ思い出した。

 確かに、ジョギング中何かがおかしいと思ったんだ。

 そして脚を見てみたら、白い骨が生えてきていたんだったっけ。

 でもそれでも十分くらい無理をして走り続けたところで、急にめまいがして、そこからはよく覚えていない。


「なんで……なんでそんなことが起きるんだよ! おかしいだろ! ジョギングの最中だぞ!?」


「まぁですからやり過ぎということだったんでしょうね」


 女神と名乗る女はこともなげに言う。

 その態度がやけに癪に障った。


「なんだお前! ジョギングをバカにするっていうのかよ!」


「落ち着いてください。別にバカになんてしていませんよ。でもジョギングのせいで死亡されたというのは紛れもない事実じゃないですか」


「そんなこと俺は信じないぞ! 絶対嘘だよ、嘘に決まってるんだ!」


「ヤバいなこの人もう関わらないとこ……ああ、話を進めましょう。和さん、大丈夫ですよ。実はですね、ここに和さんをお呼びしたのには理由があるのです」


「なんだよ! 早く言えよ!」


「ええ、和さんには異世界に転生していただく権利をお与えしようかと思いまして」


「……異世界だって?」


 なんだ、異世界って? 地球ではないということか? 他の惑星? 他の宇宙? 駄目だわけがわからない。


「お前! 俺を混乱させる作戦だな!」


「違いますよ。本当に異世界に転生できるんですよ新たな命を持って」


「新たな命……? え、ていうことは俺、生き返るってこと?」


「そうです。生き返るんです、しかもそのままの姿で。またジョギングをすることができるんですよ」


 な、なんだって、異世界に転生ってのをすることで、俺は再びジョギングをすることができるようになるのか……え、それって……


「ちょーナイスじゃーん! ナイスナイスーナイスナイスー! ナイスの舞ー!!」


「きっつ……あ、いえ、ご気分の方よくしていただけたようで恐縮です」


 ああ、なんだそうなんだったら早く言ってくれよ。

 俺、もう一生ジョギングできないのかと思ってたわ。

 なんかさっきまでイライラしてたけど、ジョギングができるのであればもう何だっていい。なんならジョギングをすれば頭も心もスッキリとなって、オール万事解決となるわけだし。


「そ、そうと決まれば早く異世界に転生させてくれよ!」


「そう急かされずともご案内させていただく予定ですよ。あ、そしてもう一つ、転生するに当たって能力を一つ決めていただくことになっているのですが」


「能力? なんだそれは、俺のジョギングの能力は世界一だぞ?」


「まぁなんと言いますか、新たに特別な力というか元々和さんが持っているものとは別の力をお授けしようかと思っているのです。例えば強力な炎を発生させる魔法を撃てるようになるとか」


「いらないよそんなの。ジョギングさえできれば俺はなんだっていいんだよ!」


 と、思ったが、少し間が空き冷静になって考えてみると、それはかなりナイスなことなのではないかと思えてきた。ようするに後付で力を手に入れることができるってことだろ?


「……うーん例えば今後二度と骨折しないように、丈夫な身体したりとか」


「ええ、勿論そのくらいでしたら可能ですね」


「マジですか!?」


 俺は女の顔に思わずぐいっと近寄ってしまう。


 そ、それができるというのなら、俺はもう無敵だぞ!? 最強のジョギングに最強の身体が手に入れば、まさに鬼に金棒。もう俺を止められるものはなくなる。はは、やはりジョギングは最強だったんだ。疑う予知なんかない。ジョギングイズキング。俺はジョギングだーい!


「では超丈夫な身体になる、という能力でよろしいですかね」


「ああ、もうマジでそれで頼む!」


「では最低限の手順はすみましたので、異世界に転生していただきますね」


 そう女が言った途端、俺の身体が黄色く発光し始めた。


「な、なんだよこれは!」


「少しお待ちいただければ、異世界に転生なされます」


「ああ、そういうとか! ひゃっほーいジョギング楽しみだー!」


 そうして俺は過去最高級のテンションで、異世界に転生することとなった。

 全人類見てろよ。俺のジョギングが異世界を蹂躙する瞬間をよッ!



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