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第5話 モヤモヤなんて上書きすればいい

 それから休日を迎えたものの、優菜と過ごすことなく、時刻は夜の8時過ぎ。


 日もすっかり暮れ、暗闇が夜空を覆っていた。


「はぁ、疲れたー……」


 今日は非常に疲れた。

 両親に借り出され、実家の手伝いに。

 その両親は俺に電車賃を渡し、自分たちはホテルに泊まって帰ると言った。


 全く、どこまでもバカップルな両親だ。


 そんなことを考えながら浴室で髪を洗う。


 明日は学校だし、早く寝よう。


 がららら


「ん?」


 扉が開く音がした。

 だが、両親は不在。


 え、幽霊……??


「……涼夜」


「その声は……優菜?」


 髪の毛を洗っている途中だったので、お湯で流し、人物を再確認。


 そこにはバスタオル一枚を巻いた優菜の姿があった。


 色々聞きたいことがあるが、とりあえず……。


「えっと、どうした?」


「お風呂……」


「え?」


 聞き取れなかったのでもう一度、聞き返すと、優菜は頬を赤く染め、


「い、一緒にお風呂入るもん!!」


 もん!!って言われましても……。


「身体洗ってあげるからっ!」


「ええ、ちょっ——」


 俺の動揺など他所に、股にタオルをかけられ、されるがままになる。


 優菜は備え付けのボディソープをたっぷり両手に取り……俺の右手を握った。


 恋人と手を繋ぐように指を絡め、ぬるりと解く。それは私に任せてと言っているようだ。


「っ……」


 なんか……エロい。


「じゃあ……洗うね?」


「おう……」


 背中に触れたのはタオル。

 手じゃなかったなんて残念がる自分がいた。


 背骨に沿ってゴシゴシ。次に脇腹を優しくくすぐる。


「ごめん、くすぐったかった? じゃあ、これなら……どう?」


「あーうん。そのくらいが気持ち良いな」


「……」


「……」


 互いに恥ずかしがって無言になる。


 しかし、一緒に風呂に入ったおかげで、この前の気まずさとかは無くなった。


「なぁ、優菜」


「うん?」


 今度こそは俺から言ってやらないとな。 


「お互いに不満があった時は喧嘩なりすればいい。喧嘩するほど仲がいいって言うしな。で、最後は仲直り(イチャイチャ)してモヤモヤなんて上書きすればいいさ」


 数秒の沈黙後、優菜はゆっくり首を縦に振った。


「うん……分かった。そうする」


「やけに素直だな」


「素直じゃないほうがいい……?」


「いや、どっちでもいい。めちゃくちゃ可愛いことに変わりないから。けど、無理に素直にならなくてもいいぞ。たまには照れ隠ししてもいいんじゃないか?」

 

 確かに素直な優菜は可愛い。

 だが、なるべくツンの部分を出さないように我慢しているため、しゅんとしおらしくなり、いつもより元気がないように見えたし、やりにくさを感じた。


「……無理してたのバレてた?」


「ああ、そりゃ幼馴染……じゃなくて彼氏ですから」


 カッコつけてニコッと笑ってみせると、羞恥に耐えられなくなったのか優菜は顔を真っ赤にした。


 そして俺としてもそういう恥ずかしいことを言わないと気が済まないぐらいに、優菜への想いが胸に溢れてしまっていた。


「じゃあ早速、アンタに不満を言うから……か、覚悟しないさいっ」


「おうよ、どんどこい!」


 優菜はすぅと息を吸い。


「ちゃんと言ってくれないと安心できない! その……私は涼夜のなんなのかを」

 

 ……どうしてコイツはこんな男心をくすぐることばかり言うんだろう?

 

 あーもう! 可愛すぎるんだよな、俺の彼女は。ならば言ってやろうじゃないか。


「優菜は俺の彼女だ。1番大好きで、愛していて、これから先も1番隣にいる存在。嫌と言われても絶対離してやらないからなっ」


 最後は恥ずかし過ぎてヤケクソになったが、優菜はとびきりの笑顔を見せてくれた。


 それから2人で浴槽に入る。

 

「涼夜、もう少し後ろに行って」


「お、おう」


 浴槽は2人で入るには少し狭い。

 だが狭い分、優菜に密着できるのでよしとしよう。


 俺は後ろから優菜を抱きしめている状態である。


「一緒にお風呂入るなんて何年ぶりだろうね?」


「さぁな……でも、これからはまた一緒に入れるってことだよな」


「……」


「え、入ってくれないの?」


「……ばかぁ」


 耳が赤いのは湯船の温かさのせいだけでは無いだろう。


「……ねぇ、涼夜。私、今凄く幸せ」


「俺だってそうだよ」


 抱きしめる力をちょっと強めると、優菜はくすぐったそうに身をよじった。

  

「あ、タオル……」


「タオルがどうかした?」


 一応、お互いの身体を隠すように巻いているバスタオル。


「アンタと私の仲だし、別に隠さなくていいかなと思って……」


「っ……」


 俺としても優菜の生おっぱいを是非とも拝みたいが……。


「……俺は今、すごいことになってるんだが、それでも見たい?」


「っ、す、すごいことって……」


 何を想像したのか、優菜の顔が赤く染まる。

 何をと言ったら俺の股間しかないけどな。


「へ、変態……ばかっ……」


「可愛い彼女が一緒にお風呂入りたいって言って時点で堪らないのに、こんなに密着したらそりゃこうなるよ」


 頑張って理性を保っている自分を褒めて欲しいよ。


「……まぁ、涼夜は私大好き変態だからしかないわね」


「おう、仕方ない仕方ない……」


「……」


「……」


「……ふふふっ」


「あははっ」


 なんだかおかしくなって2人して笑う。


 これからも、こんな風に温かくて笑いが絶えない日常を願わずにはいられない。



◆◇


 朝8時。

 制服に着替え、リビングに降りると、母さんの姿があった。


 親父はそのまま仕事に行ったのだろう。


「つか、なんでお赤飯なのさ」


 母さんが優菜と一緒に用意していた朝食の中にお赤飯があった。


「そりゃ、優菜ちゃんとやぁぁぁと恋人になったんでしょ。はぁ、どれだけ優菜ちゃんのご両親とこの日を待ったか。アンタも付き合ったなら連絡よこしなさいよっ!」


「げっ、なんで付き合ったことを母さんが……」


 両親にはまた改めて(めんどくさい事になるから後回しで)報告をしようと思っていたが、どうやら優菜が話したみたいだ。


「涼夜ごめん。おばさんに()()する時に恋人の件、うっかり話しちゃった」


「いや、話すのは全然いいけど……ん? 相談?」


 説明してもらったことをざっくりと要約すれば、優菜がウチの母さんに仲直りする方法を相談したところ「一緒にお風呂に入ればOK」とアドバイスとウチの鍵を貰ったとか。


 喧嘩とかそんな大事なことではなかった気はしたが……。


 って、俺はまんまと親の策略にハマったという訳か。いくら優菜が相談したからと言って、息子の恋愛には入ってほしくないものだ。

 

「涼夜と喧嘩した時は優菜ちゃんの肌さえ見せとけばイチコロだから」


 と、得意げに話す母さんには若干ムカついたが、優菜には「ありがとな」と頭に手を伸ばし撫でる。

 

 恋人とイチャイチャしたり、一緒に過ごせるのを改めて幸せだと感じた。


 そして、両親が未だにイチャコラしている意味が、何となく分かった気がしたのだった。





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