第2話 変わろうとしているなら、止める理由はなくない?
眠い日本史の授業を乗り越えお昼。
友達同士で机をくっつけたり、購買部に行ったりする中。
『今日もお弁当作ったんだから……か、感謝しなさいっ!』
いつもの優菜ならこうやって上から目線で誘うのだが……。
「涼夜、お弁当食べよう」
「おう」
今日は口調が穏やかだ。
「今日も作ってくれてありがとうな」
髪が崩れないように撫でると、嬉しそうに頬を赤らめながらコクコク頷く。
「素直になった桐谷さん可愛すぎるだろっ」
「つか、アレで付き合ってないって……」
クラスの男子からの視線が痛い。
いつもはツン成分強めになる優菜。その厳しい口調は好みが分かれる。
だが、今はどうだ?
素直になった優菜の姿を見た男子は彼女にメロメロ。ギャップ萌え間違いなし。
注目を浴びたことが恥ずかしかったのか、優菜は俺の袖を控えめに握り、小声で。
「……2人っきりがいい」
「っ……」
ツンデレのツンが消滅してデレデレ。
今日はいつにもまして甘々だ。普段も可愛いが今日は一段と可愛い。
もはや、可愛いという言葉しか出てこない。
「チッ……」
「かぁ……ペッ!!」
舌打ちなどの不機嫌な声が聞こえる。
教室の前の方からは、「シャッ、シャッ」と何かを削る音が耳に入り、もう怖すぎてそっちを向けない。
そんなクラスに一年の女子生徒が訪れた。
「涼夜先輩っ!」
「ん? おお坂比奈」
俺を呼んだのは中学からの後輩、坂比奈真由だ。
「どうした?」
「どうしたじゃありません! その、幼馴染さんと和解したんですか!」
「和解……?」
和解って喧嘩すらしてなかったと思うが……。
「理由は何か分かりませんが、先輩に嫌われると思ってようやく改心したみたいですけど……先輩が傷ついたのは変わりませんからね!」
ピシッと優菜を指さす坂比奈。
坂比奈の言葉に優菜が気まずそうに俯く。
『遅い! もうちょっと早く動けないの』
『あんたいったい何度私を怒らせたら気が済むの』
キツイ口調だった。
態度も上からだった。
たまにイラつく時もあった。
けれど……
「いい方向に変わろうとしているなら、それを止める理由はなくない?」
「っ……それは……」
坂比奈は何か言いたそうだが、口をモゴモゴ。
クラスも気まずい雰囲気。
「よし、逃げよう!」
「え、あっ……」
俺は優菜の手を引き、急いで教室を去った。