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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
番外編
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番外編23『勝利の裏の綱渡り』

『またも勝ったり、無敵皇軍!』


 覇気のあるお馴染みの声で始まったラジオニュースは、またいつものように皇国軍の戦勝を伝えてきた。


『皇国国防省発表。皇国時間昨日午前5時、皇国陸軍はリンド王国軍の陸戦部隊20万余を撃破。対する我が軍の損害は非常に軽微。これにより、リンド王国の全面降伏が期待されます』


 国民人気も高いこのアナウンサーは、冷静に、しかし熱気を込めつつニュース原稿を読み上げる。


『我が皇国軍は西大陸での戦勝に続き、東大陸でも輝かしい戦果を収めました。皇国陸海軍は異世界異境の地にて御国の為に日夜戦っています。皇国国民も一層奮励努力し、国富を高めねばならないでしょう』


 国民への檄を飛ばし、1分間の短いニュースは終了した。



「一層努力せよと言われても、元手となる資源が無けりゃ何も作れやしない」

 自動車部品生産の下請工場の工場長は、半分せせら笑いながら呟いた。


 備蓄されている屑鉄や鉄鉱石に限りがあるため、八幡製鉄所を始めとした各地の製鉄所の操業は下火になっている。

 工場長の経営する工場は、鉄板を加工して自動車部品を生産する工場であるため、この影響をもろに受けていた。

 現状で、ギリギリ採算が取れるか取れないかのラインで工場が動いている。



 神賜島には良質な鉄鉱石が豊富にあり、それの採掘が始まっているとはいっても、まだ試掘といっていい段階だ。本格的な生産はまだ始まっていない。

 であるから、産業の米である“鉄”も貴重品なのだ。


 神賜島開発の難しい点は『全てが必要だが、全てに投資できない』という事だろう。


 鉄も石油も、殆どありとあらゆる資源を輸入に頼っていた皇国にとって、米国や英国、満州国等資源輸出国と切り離された痛手は計り知れない。


 今すぐに、自給出来ない資源を開発せねばならないが、一度に全部を軌道に乗せるのは不可能だ。

 神賜島開発には、100億円規模の特別予算が計上されたが、それでも一度に全部を開発するほどの技術も国力も、残念ながら皇国には無い。


 金属類は、スクラップを再利用したりする事で“備蓄が枯渇する日”を先延ばし出来るが、石油は使い捨ての資源だから、政府は石油開発を最優先としている。


 しかし、経済成長には新たな需要に耐えるだけの鉄生産が必要なのも事実。様々なインフラを整備するのに使用される機械に大量の鉄は不可欠。

 特に、鉄筋コンクリート製の高層ビルや橋梁等が全国各地で計画され、自動車や鉄道の新規生産需要が増えて来ている今、鉄の生産が伸び悩む事は経済成長に大きく水を差す事になる。


 昭和の時代から新たに始まった、明治維新以来の経済成長が、止まってしまうのだ。


 経済状況が悪化すれば、雇用情勢が悪化し、失業者が増える。

 それは、治安の悪化や最悪には赤化革命にも繋がりかねない危険な兆候だ。


 軍は勝った勝ったと景気の良い話を持ってくるが、国内の景気は悪くなりつつある。



 異国の地で勝ち戦に慣れ切ってしまっている前線の兵隊さんには解らぬ事もあるだろうと、工場長は思うのであった。

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