番外編19『巡洋艦大井と北上の現在』
対潜巡洋艦大井。
元は球磨型軽巡洋艦であった大井は、現在は北上と共に「対潜巡洋艦」に改装されている。
元世界で仮想敵国であったソ連、ドイツ共に、潜水艦大国であった。
先の欧州大戦でも、ドイツの潜水艦がインド洋や太平洋で暴れ回った事からすれば、来たるべき第二次欧州大戦、あるいは第二次皇露戦争でも、皇海や太平洋を潜水艦が暴れ回ることは容易に想像がつく。
皇国は、対策として2隻の軽巡洋艦を試験的に「対潜巡洋艦」へと改装した。
潜水艦を制圧するためには、まず発見からだ。
大井と北上は、浮上航行中の潜水艦を発見するためのレーダーと、潜航中の潜水艦を発見するためのソナーが最新のものを搭載された。
また、対潜哨戒機や駆逐艦、駆潜艇等と密に連絡を取り合う為の高性能な指揮通信装置を装備。
武装は14cm単装砲が4門(片舷3門)と61cm4連装魚雷発射管2基(これは、開発中の対潜誘導魚雷も運用可能な新型発射管だ)、そして目玉は24連装ヘッジホッグ4基と288発の新型爆雷。
この新型爆雷は流線型で、従来のドラム缶型の爆雷よりも沈降速度が3倍速く、沈降精度も高い。
大井と北上の2隻は、皇国海軍の対潜任務における切り札的存在として、大いに期待されていた。
しかし、両艦の運命は転移によって大きく変わった。
転移後の世界に、皇国海軍以外で潜水艦は存在しない。
そうすると、片舷で14cm砲3門、61cm4連装魚雷発射管1基という、下手をしなくても特型駆逐艦より低い対水上艦性能では、同じ球磨型の中でも足を引っ張る存在になってしまった。
再転移で元世界に戻った時の事や、再改装する手間隙を考えれば、これを元の普通の軽巡洋艦に戻すという案は早々に却下された。
ある意味、戦艦以上に使いようの無い浮いた存在になってしまったのだ。
戦艦は、油さえ十分にあればこの世界でも十分に使い勝手がある。
その火力は、1隻で空母機動部隊の一斉空襲に匹敵するのだ。
だが、大井と北上はどうにもならない。
限界まで対潜関連装備を搭載しているので、汎用性が皆無だ。
呉の港に繋がれたままの大井と北上は、これからも港に繋がれたままだろう。
再び元の世界に戻る、その日まで。




