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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
番外編
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番外編03『異世界兵器の性能調査』

 イルフェス王国に進出した皇国軍は、以前から接触を持っていた大内洋のオレス王国の協力も得て、西大陸列強国を自負する現地の兵器の性能を調べた。



 兵器の中で、まず調査が行われたのが歩兵の友たる小銃である。

「割合に質の良いものですが……それだけです。本国に持って帰れば、骨董品としての価値はあるかもしれません」

 技官が撫で回しているのは、イルフェス軍近衛歩兵連隊に装備されていたマスケットの一つ、"ジリール"と呼ばれるものだ。

 近衛連隊の銃。つまりイルフェス側としては一番状態が良く、見栄えの良いものを選んだのだ。


「骨董品とは、手厳しいな」

「我が国の百式自動小銃と比べると、射程も威力も、装填速度も劣るのです。不発率も圧倒的に高い。射程は1/5以下、威力は、距離にもよりますが至近距離でも半分以下、遠距離になればその差は広がります。特に鎧、装甲の類への貫通力は半分では済まないでしょう。ジリール銃の銃弾は只の鉛玉で、徹甲弾はありませんから。ただし弾丸の口径自体は15mm以上、重量も20g以上あるので、人体へのダメージは相応にあります。決しておもちゃの銃ではありません。我が軍の将兵は鎧を着ませんから、遠距離でも致命傷になる可能性はあります」


「ふむ、射程は1/5で威力は半分か……しかし半分と言っても非装甲なら殺傷力十分と」

「はい。しかし有効射程で見るとさらに短くなるでしょう。そして装填に関してですが、三八式は実包5発、百式は実包10発を1度に装填できますが、このジリール銃は1発撃つごとに全てを装填しなおさねばならない。数発に一度は銃身内部を掃除して、点火薬、装薬、弾丸を順番に入れなければならないのですから、その手間をや。百式ならものの数秒で10発装填可能。銃の掃除も1日1度で十分です。そして不発率は100倍以上の差があります。比較にならないとまでは言いませんが、小銃としての次元が違うのは確かです」


「2、300年前の銃だな」

「はい。2、300年前の銃としてみれば良いものですが、昭和の時代には通用しません」

「しかし、それは逆では? 我々の銃が2、300年先を行っているだけで。このマスケットだって、この世界の平均から見れば上の方の性能じゃないか?」

「そうなのでしょうね。辺境では剣と弓矢で戦争をしている所もあるそうですから、立派な銃があるというだけでも軍備が整っている証しかもしれません」



 次に大砲が調査された。

 陸軍の野戦砲として最も一般的な1/2バルツ砲(2.5kg砲)、戦列艦の主力砲である2バルツ砲(10kg砲)、そして要塞等に設置され、あるいは攻城用に使用される最大級の砲である8バルツ臼砲(40kg砲)。

 いずれも、その重さの一個の砲弾が基準だが、小さな砲弾を数発から十数発纏めた葡萄弾や、さらに小さな小銃弾程度の子弾を数十発から数百発纏めた散弾なども発射可能である。


 ちなみにイルフェス軍最小の制式砲は1/8バルツ砲(625g砲)、最大の制式砲は16バルツ臼砲(80kg砲)である。

 前者は戦列艦やフリゲートに搭載される対歩兵用旋回砲で威力や射程の面からも主力とは言えず、調査からは除外されたが、後者は“イルフェスが製造しえる最大の砲(=この世界の列強国が製造しえる最大級の砲)”としての意味から、調査の対象とされた(実際は試作止まりの、実戦運用困難と思える代物であった)。


「歩兵に対する野戦砲としてはやはり十分脅威ですね。腐っても大砲です。弱点はやはり発射速度と、展開から撤収に時間がかかることでしょうか」

「射程はどのくらいあるのだ?」

「1/2バルツ砲で最大1.5km程度ですが、実用射程となるとその半分程度が限度でしょう」

「とすると750mが実用射程か」


「曲射ではなく直射で、跳弾を利用した射撃になりますので地面が平らで硬く乾いていないと使えませんし、その距離では弾丸の速度もかなり落ちていて、弾丸が肉眼でも視認できますので、発見できれば避ける事も可能でしょう。この世界の軍隊的には、それで隊列が崩れる事も敗北の原因の一つのようです」

「確かに、密集隊列でどこか一部が急に別方向に動き出したら、収拾がつかなくなるな」

「そこを、何が何でも逃げさせないのが良い腕の下士官だそうです」

「下士官とは、いつの世も辛いものだな」


「次に海軍の2バルツ砲ですが、これは陸軍とは事情が違いますね。まず射程が機銃程度ですので、駆逐艦でもアウトレンジ可能です」

「具体的には?」

「射程は最大でも3km程度。実用射程はその半分から1/3が良いところです。実際には、ほぼ必中距離と言える300m以内で使われる事が多いようですね」


「ゼロ距離射撃か」

「砲の装填と照準には、1分以上かかります。遠距離で撃って外して、敵に急接近されて撃たれるよりは、その方が合理的でしょう。砲の照準も各砲ごとの砲術下士官による目測で、統制射撃ではありませんし、跳弾射撃もそれ程精度の高いものではありません。それに大口径砲となると、弾薬の値段もあります。外して良い砲弾は無いのです。射撃距離が違いますから、海戦では100発撃って10発も当たれば御の字という、我が軍とは砲術の思想が違います」


「火力そのものは?」

「それは、10kgの砲弾が時速100km以上で突っ込んでくると考えてください。ちなみに我が軍の砲弾の重量は12.7cm砲で25kg程度、速度は時速1500km以上です」

「駆逐艦と比べて重量で半分以下、速度で15倍程度……となると現実的な破壊力は数十倍は違うな」

「はい。装甲を持つ艦であれば、ゼロ距離で撃たれても被害は殆ど無いでしょう。露出している非装甲の対空機銃座くらいは吹き飛ばされるかもしれませんが、主要装甲帯を撃ち抜くには火力が絶望的に足りません」


「戦艦なら?」

「戦艦とは、比べるのが間違っていますね。距離ゼロから喫水線下の非装甲部分を一斉射撃でもされなければ。護衛駆逐艦や海防艦等で臨検を行おうとする時に、接近した状態から不意に一撃でもされると厄介ですが」

「確かに、そのような事も考えられるな」



 次に調査されたのは航空爆弾。飛竜兵が使うものである。

 これは2バルツ爆弾(10kg爆弾)、4バルツ爆弾(20kg爆弾)、10バルツ爆弾(50kg爆弾)の3タイプがある。

 最も多く使われるのは2バルツ爆弾で全体の6割、次いで4バルツ爆弾が3割。10バルツ爆弾は、全体の1割にも満たない。

 そして全て榴弾か榴散弾であり、徹甲爆弾というものは存在しない。


「爆弾としては最軽量のものですね。大型手榴弾と言った方が良いかもしれません。我が軍で一般的な60kg対地爆弾に比べれば殺傷力も危害半径も半分以下です」

「爆弾重量が違うからな」

「爆弾は砲弾と違って上から落ちてきますので、敵の方陣の中心に落とす事ができれば大打撃を与える事が出来ます。地上を突撃してくる重騎兵や戦竜兵に対する防御陣形で理想的なのは方陣ですが、飛竜による爆撃があるためにこの方陣が取り難いわけですね。飛竜兵は敵情偵察が主任務ですが、戦闘に際しては空の砲兵となるわけです。砲兵や飛竜兵が敵の戦列に穴を開け、撹乱し、そこに歩兵、騎兵、戦竜兵がなだれ込む……これが、この世界での列強の戦い方のようです」



「ただし、これらの事実はあくまで相対的なものであって、敵の火力が我が軍に非常に劣るという事実を将兵に誤解して伝えてはなりません。すなわち、敵の火力は警戒するに値しないと考えるのは危険です。敵は、殺傷力を持った兵器でもって殺意を持って我が軍を攻撃してきます。対処を誤れば、それは将兵の血で償われる事になります。戦争という行為にとっては、相手がソ連だろうとライランスだろうと何処だろうと、何も違いはありません」

「忠告に感謝する。肝に銘じておこう」



 この世界で一般的に飼育されている軍用飛竜、名称をラントサルスと言うが、皇国にとっては当然初めて見る種である。

 皇国軍は、この飛竜の軍事的な価値がどれ程のものかを検証した。


 そこで解かった事は……

 全長(頭から尾まで)は8m~12m、体重は2.5t~5.5t、肉食性で1日に食べる餌の量は50kg~200kg。

 馬などの動物と違い数日分の食い溜めが可能だが、多く食べた直後は高速、長距離の飛行に支障がある。


 胴体や翼を中心に全身羽毛に覆われ、前脚(腕)が巨大な翼として進化しており、地上では尻尾でバランスを取りながら二足歩行する。

 歩行速度は約8km/h、走行速度は約30km/h。飛行速度は最大で約100km/h、通常は約60km/h程度。

 実用上昇高度は約800m、通常は500m以下。質の良い竜でも上昇限度は約2000m程度が一杯。


 1日分の食事後に人間や装備を乗せた状態での航続距離は約150kmであり、その際に運べる重量は120~150kg。

 無理をさせれば運ぶ重量を倍にすることも出来るが、航続距離は約1/4になり、疲労は倍以上になる。

 巡航速度で無理をさせれば、2倍の300kmも飛べるというが、それをすると着陸後1~2日は動けないとのこと。

 肉食なので牙による噛み付きを武器とする事もでき、その他に後脚での蹴りや尻尾も強力だということだった。

 ただし、空中戦はあまり得意ではない。生来、飛竜は空中から急降下して地上の獲物を捕食する生物だからだ。


 これらの能力は、生物として見た場合は驚愕に値するものだが、航空戦力として見た場合は特段驚くには至らない。

 30年から40年前の飛行機とあまり変わらず、日進月歩の航空機としては旧式に過ぎるだろう。

 そんな中で皇国軍関係者の注目を引いたのが、離着陸時の助走距離がほぼゼロということだった。安全面からすれば、数メートルから十数メートルの助走は必要だが、特に装備が軽い場合の離陸では助走が無くても3、4歩で離陸できる。

 着陸時であっても、数歩から十数歩の助走で完全に停止してしまうのだ。


「短距離離着陸性能。我が軍の飛行機にも是非とも欲しい能力だな」

「500mの滑走距離が半分の250mになるだけでもかなり違いますからね」

「垂直離着陸が可能な回転翼機が飛ぶ姿を見たが……あれでは戦闘や爆撃は荷が重いだろう。現状では人間3人乗せて飛ぶので精一杯だ。もっと進歩したならば話は別だが」

「飼育や調教の労を考えれば、素直に回転翼機の高性能化を目指す方が良いでしょうね」


 当初、新世界の兵器も利用できるなら利用すべきではと期待していた皇国軍の見解は、“何かを期待してはいけない。粛々と技術開発と戦術研究、それらに従った将兵の教育、訓練と兵器の生産に勤しむべきである。”という事だった。

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