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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
東大陸編(下)
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東大陸編57『皇国による平和』

 結局、新しいセソー大公である小レオニスの摂政に推挙されたのは、叔母にあたる前大公の妹レミニアだった。

 弟だとそこそこ大物だし、本人が嫌がっている。

 レミニアは、本人に大した権威も権力も無いが、腐っても大公家の血筋なので他の貴族からの横槍を無視しても崩れない程度の土台はある。

 リンド王国への留学経験があり、前大公の下では内務省で働いており、政務能力はある。

 候補は居ないかと匙を投げて、それが頭にぶつかったような形の推挙。

「大臣達が勝手に決めて、事後報告ですか」

 ロマディア騒乱にて負傷したレミニアは、郊外の自宅で療養中であった。

 銃撃を受け、軽い裂傷で済んだが、一歩間違えれば死んでいたのだ。

 貴族や関係者達が押しかけて来た時、レミニアは乗馬を留めておく厩舎で、愛馬の世話をしていた。

「私がこのような怪我を負う原因となったのが、そもそも――」

「レミニア殿下! 時間が無いのです!」

 そう言って、外務卿が条約の書面を差し出す。

「これに摂政として署名しろと?」

「はい!」

「内容を見た上で言ってますか?」

「我が国に選択肢はありません。期限が来れば皇国軍の再攻撃が始まります」

「ロマディア市内には、反乱軍を取り締まり治安を維持すると居座ってますが、あれらも攻撃してくると?」

「恐らくは……」

 レミニアにも言い分がある。

 ここまで脅迫に近い形で署名させようという事を、何故前大公で本来の当事者であるレオニスに行わなかったのか。

 マルロー王国が抜けた段階でレオニスを“説得”していれば、こんなごたごたにはならなかった。

 それを、レオニスが居なくなった途端に立場の弱い自分に押し付けてくる……理不尽だ。

「現リンド王室の承認。これは認めるしかありません。私も異論はありません。内政干渉の禁止にしても、明文化の上で認めざるを得ないでしょう。ですがこの賠償金の金額は? 減額交渉してこれですか? こんなの、国が無くなってしまいます」

「皇国が欲して、我が国から差し出せるようなものは他に無く……」

「皇国製品を輸入するのでは駄目なのですか? あと領内の通行権とか……

何でもいいから賠償金の代わりになりそうな事を提案して下さいよ。私を推挙したという事は、当然私が会議の矢面に立つのでしょう?」



 以下は皇国に対しての義務であるが、リンド王国に対しての義務(王室への意見無用、賠償金等)や、皇国とリンド王国とマルロー王国の三者の許認可が必要な事業なども設定された。


 ・国交の樹立と通商の開始。公使館と商館をロマディアに置く。

 ・賠償金を金または銀にて支払う(総額の35%以上は金である事)。

 ・毎年一定量以上の皇国製品を輸入する(品目や金額は都度改定)。

 ・皇国の皇室及び婚姻、血縁関係のある他国王室等への批判の禁止。

 ・皇国が指定するシテーン湾に面する場所に無償の労働力を提供する。

 ・ノイリート島とその付属島を割譲する。

 ・上記を除くセソー大公国の領土(属領含む)を無期限の租借地とする。なお租借料は無料とする。

 ・上記租借地における皇国軍の駐留と通交を無制限に認める。

 ・上記租借地における特定の税収の一部を皇国のものとする。

 ・上記租借地における特定の資源採掘権を皇国のものとする。

 ・上記租借地における皇国の領事裁判権と治外法権を認める。

 ・セソー大公国の国内法につき新法の設定、旧法の改定、各種行政の重要懸案については皇国との協議を必要とする。


 ……等々。



 賠償金は当初要求より大幅に減額されたが、その分本土が租借地とされ、一般的な領事裁判権の範囲を超える無制限の治外法権まで盛り込まれた。

 皇国の領土になった訳ではないので、この地域は依然セソー大公国の固有の領土であり、皇国の天皇と皇族、臣民は皇国法に従うが、それ以外の人々はセソー大公国法に従うという二重規範が適用される。

 しかもそのセソー大公国法は皇国との“協議”によって決められる。


 マルロー王国が手を引いた後もあがき続け、皇国兵のみならず自国兵や自国民をも無駄に傷つけた事への懲罰的な意味が多分にあった。

 これくらいの譲歩をしなければ皇国が納得しなかったという事でもある。

 外務省を通じて東大陸に伝えられた内大臣府と宮内省の強い要望もあった。


 また、この地は大陸北方の極北洋に面する要地であると共に、リンド王国とマルロー王国という北方の二大列強国の緩衝地帯としても機能していた。


 大陸北方に野心を見せる東方や南方の列強や大国が、セソー大公国を誑かして足掛かりとし、再びこの地に騒乱が起きるような事を皇国は何よりも望まない。

 故に、しばらくの間は皇国がセソー大公国を事実上の植民地、あるいは保護国とする事で睨みを利かせるという理由もあった。



 レミニアは、この条約に署名する際、周囲の重鎮に漏らした。

 曰はく――

『私が大公殿下の摂政として署名する訳で、責任は全て私にある。大公殿下が成人なさった後であっても、決してこの件を持ち出して大公殿下の私生活や政務を煩わせる事をしてはならない。いずれのこの条約について大幅に改定する必要があるが、皇国のみならずリンド王国やユラ神国も納得させねばならない。その為には、この件を持ち出して政争の具にするような面を特に列強各国に見せてはならず、粛々と条約内容を守る事。その時になったら当事者だった私が大公殿下を補佐する。事が成った後であれば、私はどうなろうが受け入れる』



 レミニア・カミーロはセソー大公国憲法を制定し、小レオニスの成長とセソー大公国の発展を見届け、何よりの懸案だった皇国との諸条約をほぼ誰の目から見ても満足の行く形で改定させると、即座に隠居した。

 その後、程なくして絞首自殺。享年45歳。

 生涯結婚せず、大公と国に尽くした麗婦人の、あまりもあっけない最期。


 不穏を感じていた使用人が毒になり得るものや刃物等を厳重に管理している中での事であり、貴族に対する斬首でなく平民に対する絞首を自ら選んだ事は、多くの者に衝撃を与えた。


 北方諸国同盟との戦争当時の皇国関係者で自害する者すらおり、君主や元首でもない相手に皇国天皇から異例の弔電が出された。


 幼い頃から影に日向に支えてくれた小レオニスにとっては実の母親を失うよりも辛かったと手記にある。

 東大陸初の立憲君主、セソー大公レオニス・カミーロ曰はく

 “私にとって、叔母のレミニアは姉であり母であり父であった”

 “レミニアが自死した事で、私は真に大公として独り立ちせねばならなかった”


 レミニアの遺産は生涯を過ごした小さな邸宅と僅かな現金のみであったが、セソー大公国に対する有形無形の遺産は金額では計れないものだとされる。




 セソー大公国との講和が成り、東大陸での戦争状態は終わった。

 特に東大陸では、大内洋に面するユラ神国、リンド王国という二大列強国と同盟関係を結び、影響力を揺るぎないものとする事に成功。


 本土列島と神賜島。

 大内洋、西大陸、東大陸。

 この新世界に瞬く間に名を轟かし、世界の覇権を握った皇国は、従来の『列強国』という概念を超える『超大国』として、千年を超える繁栄を誇る事になるのである。




 平成元年2月。


 冬の新宿御苑にて執り行われた大喪の礼には、皇国に次ぐ大国であるリンド王国女王、シャーナも王配の陽博と共に参列している。


 21発の弔砲は、皇国にとって転移前という古い時代の終わりであり、新しい時代の幕開けでもある砲声であった。

『皇国召喚』本編(西大陸編、東大陸編)は以上となります。

ご精読ありがとうございました。

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