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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
東大陸編(下)
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東大陸編38『飛行機が飛べば進退窮まる』

 ユラ沖から北のリンド王国沖に拠点を移した皇国海軍の錨泊地。

 そこから補給を受け出撃した2機の九七式飛行艇が積んでいるのは合計24発の60kg通常爆弾と数百枚に及ぶ伝単。

 爆撃の標的はフュリス公国の首都フュリシル、フュリス公爵の居城からやや郊外に離れた競馬場跡である。

 今は競馬の開催は行われず、貴族の保養地として利用されるのみとなった実質的な空き地だ。

 それまでも、水上偵察機が地上偵察のついでに数十枚程度の伝単や石ころなどを落としていたが、ここにきて漸く本格的な攻撃を行う事となり、搭載量の大きい飛行艇が攻撃任務に宛がわれた。


 爆弾倉が開くと、まず大量のビラの束が投下される。

 伝単は公爵の宮殿の真上を中心にした首都を目標にされた。


『東大陸における皇国とユラ神国、皇国とリンド王国の結束は強固にして皇国には武力行使の用意がある。努々その現実から目を背ける事無かれ』


 続いて12発ずつの60kg爆弾が投下される。

 こちらは予定どおり郊外の競馬場跡地に落とされ、それなりの物的損害を与えた。

 厩舎に馬や驢馬といった家畜は常駐していないが、貴族が遠乗りに使う馬などを留めておくには現役の施設である。

 休憩所となる館なども今の季節は無人となっており、消火活動が出来ない為に一度火が点くと自然鎮火するまで燃え続ける。

 風向きによっては、もしかすると周囲に広がる森に引火して手の付けられない山火事のような事態になるかも知れない。

 与えた損害は詳細に目視確認したいところだが、低空飛行すると飛竜に追い掛け回されるので、爆撃任務を終えた2機の飛行艇は早々にフュリス公国の上空を脱して大内洋の泊地に帰還した。


 その後、飛行艇と入れ違いの水偵が追加の伝単をばら撒きながら戦果確認を行い、機銃で飛竜を1騎撃ち落すという戦果も挙げつつ、フュリス公爵に衝撃を与える作戦目的には十分と見込まれる爆撃結果を得たと司令部に報告した。

 上手く燃え広がらなければもう一度、場合によっては貴重な焼夷弾の投入も考えられていた皇国軍には朗報だった。



 対して、首都フュリシルの宮殿にて報告を受けたフュリス公爵の顔色は優れなかった。

 北方諸国同盟が通告した宣戦布告の理由と講和条件ならば、皇国や皇国軍が全面に出て来るのも解る。

 だがリンド王国の一地方を巡る領土紛争に介入するとなると、皇国にとって“同盟国だから”という以外の理由が無い。

(リンド王国に対する執着は相当だな……これは、早々に手打ちにしないと不味い)

 フュリス公国と皇国には正式な国交が無く、互いに外交官の遣り取りもしていないから直接の交渉の場は無い。両者と国交のある有力国も少ない。

 非公式にではあるが、リンド王国経由で通告された内容を要約すれば“皇国と話がしたければベルグまで来い”だ。

 相応の格式、つまりはリンド女王に謁見を許される程度の高位貴族なり有力人物であるならば、交渉の場を設けると。


 皇国軍が本気で介入してきたら、エイルーン回廊の奪還どころかフュリス公国自体の存続が危ぶまれる。

 存在自体は消されなくとも、リンド王国のように実態として皇国の臣下のように振る舞う事になろう。

 エイルーン回廊の全体ではなく、半分か三分の一くらいを条件に落としどころを探るしかないか?



 皇国に不満を持つリンド貴族を抱きこんで王家を討伐させるくらいしか打開策は無さそうだが、彼等とて王都を砲爆撃される惨劇を直に見たり、親族や知人、自領の民衆が大勢戦傷死している。

 皇国を相手に蜂起する覚悟があるかと言えば、ある意味で一番その覚悟に欠ける連中だ。

 皇国がリンド王国内で横暴に振る舞い、各地の貴族や民衆の反感を買うような状況ならやり易いが、現実は戦争被害が大きかっただけで素行自体は別に横暴でもないから、なかなかに難しい。


 皇国とは敵対するより手を組んだ方が利があるという話を流布する勢力も日増しに力を強めている。

 不満といっても、本当に信用出来る相手なのか、自分に利益の配分があるのか、自分の既得権益を奪われやしないか。というような不安が大きい。

 それらを完全に払拭する事は不可能だろうが、現実に利益を受けている者が居るのを見せられると心が揺らぐ者も多くなるだろう。

 ポゼイユ侯爵など元々裕福な家柄であったが、それでも以前は“ただの有力諸侯”であって、宮中や王国全体への影響力は限定的だった。

 それが皇国と親密な関係を築きだしてからというもの、まるで元からの宮中貴族のように、しれっと女王の側近のように振舞っている。

 また、皇国に対して協力を確約した西部や南部の貴族でも、水面下で様々な便宜が図られていると聞く。



 公国単独では、対峙するリンド王国にすら勝てるか怪しい。

 フュリス公爵は、もう“北方諸国同盟のがんばり”に頼るしかなかった。

 フュリス公国が倒れても北方諸国同盟が直接打撃を受ける事は無いが、北方諸国同盟が倒れればフュリス公国は潰れる。

 そして北方諸国同盟は、盟主であるマルロー王国が倒れれば自動的に潰れるだろう。


 結局のところ現在の東大陸の北方情勢は、リンド王国、マルロー王国、そして皇国という

 大国のパワーゲームの問題であって、国力も半端な公国が博打を打つ機会ではなかったのだ。

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