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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
東大陸編(下)
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東大陸編28『悩み多き中小国』

 ザラ公国の国土のほぼ中央に位置する首都ポカ。

 人口は15万程で、総人口の1割近くが集中する大都市だ。

 ポカの中央にある森の中に、ザラ公爵の居城であるポカ宮殿がある。


 公爵は公国軍総司令官を宮殿に招き、私的な相談とした上で今後の身の処し方を考えていた。

 公爵の懸案は、軍を前線に派遣するか否か。

 今はマルロー王国軍のために国内の街道を開放し、軍も後方支援に限って動いているが、平時で3個旅団相当、戦時にはそれを3個師団相当に増強可能な公国軍の実戦力は侮れない。

 マルロー王国軍に加わって戦果を挙げつつ勝利に貢献すれば、戦後の発言力も増すが、逆に敗北すれば国際的な発言力は勿論、リンド王国に対する負い目も大きくなってしまう。


 ザラ公国は国土のほぼ全体が平野で、南東部に大陸中央山脈の北端部が面しているくらい。

 山脈から北西に流れる大河であるデ・ゲーン河が、ポカの南東で枝分かれし、ポカの南を通って西向きにミィカース河がリンド王国から大内洋へ、ポカの東を通って北向きにメルス河がセソー大公国から極北洋のシテーン湾に流れている以外、どの方向からも出入りし易い、防衛には向かない地形なのだ。

 河川を使った交易には向くが、同時に河川を使った侵略も受けやすい。

 貿易都市として交通の便が良い事が、防衛面ではマイナス要素となる。


 首都であり相応の市壁もあるが、拡大する都市圏に対応しきれていない。

 宮殿はあっても、戦時に公爵や将軍達の拠点となるべき堅固な城塞も無い。

 あるにはあるが、火器を持つ現代軍に対する堅固さが期待出来ないのだ。

 現代的な城塞すら無効化する皇国軍の火力には無いのと同じだろう。


 強制徴募も含めた総力動員を行えば3個師団相当以上の陸軍になるとは言え、それは公国の存亡を賭けた決戦のためくらいなもので、通常の戦争では

 旅団の1個を師団に強化するくらいで、残りの2個旅団は支援に働く。


 そんな中で陸軍の1個師団を派遣するというのは、全軍の半分を派遣するのに等しい。

 ザラ公国の空軍は、1個飛竜連隊が4個飛竜中隊で編制され、予備も含めて65騎が所属するに過ぎない。

 飛竜基地はポカ郊外に1個があり、空軍の司令部や牧場も併設されているが、これは、列強国であればせいぜい大隊規模の“陣地”で運用する程度の空軍だ。

 陸軍の戦竜も同様で、全部で70騎。師団あたり20騎と損耗予備10騎という事で、“列強国”ではないが“大国”である事の証しとして、意地で維持している面が大きい。

 訓練途上の若過ぎる竜か引退した老過ぎる竜を連れてくれば20~30騎の水増しは可能だが、それは最後の最後にしか使えない後が続かない戦略だろう。

 それに、小手先の水増しで何とかなるなら大国マルロー王国軍は苦戦していない。


「マルロー王国のレイオン陛下から、我が公国軍に前線の一翼を担って欲しいという書状が来たのだが、軍の意見を聞きたい」

「閣下、マルロー王国の進軍が芳しくないという情報は連日聞き及びます。皇国軍が頑強に抵抗している事に、マルロー王国軍が前進を渋っているとか。今更、本腰を入れた援軍を出すのは……皇国に付け入る隙を与えるだけでしょう。ここは、マルロー王国よりもずっとベルグに近いのです。この意味はお解りでしょう?」

 勿論、公爵にその意味する所は解る。ザラ公国は全土がベルグからの爆撃圏内だという事だ。

 皇国から特別な待遇を受けているポゼイユ侯爵領に隣接している地勢では、下手な真似は出来ない。

 今は、マルロー王国軍の主力がセラーニャ侯国方面に展開しているから皇国軍やリンド王国軍もそちらを警戒しているが、ザラ公国軍が動けばそうも行かなくなる。

 皇国軍を相手に、リンド王国の北部と東部から挟撃という形が想定どおりに上手く運ぶか、甚だ疑問である。


「しかし、レイオン陛下の要請を断るというのも難しい。政の問題だからな」

「こちらは進軍の妨害をせず、補給物資の手当てまでしているのです。レイオン陛下には、既に十分な支援を行っていると愚考しますが」

 セラーニャ侯爵にしても、時勢が変わった事に対して協力を拒否したくても出来ないような雰囲気だ。

 協力すれば皇国に蹂躙されるが、協力を拒否すればマルロー王国に蹂躙されるのが目に見えている。

 だから兵は出さないが金や物資を出し通行を許可するという、消極的協力をしているのだろう。

 “北方諸国同盟”として、本気で居るのは盟主以外ではセソー大公国くらいなものではないか。


 とは言っても、後方任務と実際に血を流す前線任務では、違うのだ。

 後方の補給を滞りなくするというのも軍にとって重要な任務なのだが、実際に血を流すリスクと比較すると、どうしても軽く見られてしまう。

 奴隷同然の軍夫は言うまでも無いが、兵站担当の上級将校でやっと戦列を預かる前衛の下級将校と同格のような風潮がある。

 前衛に兵力を出さないと、それだけ軽く見られるのは当然となる。


 リンド王国への派兵を渋れば、マルロー王国が勝っても負けても国際的に“日和見で援軍を出さなかった”という不名誉な烙印を押されてしまうだろう。

 国際関係では敵でないなら味方とも言えないし、味方でないなら敵とも言えない。


 皇国は“北方諸国同盟”に対して宣戦を布告しており、北方諸国同盟に加盟する各国の使者に対しては「同盟から離脱すれば攻撃対象から外す」と宣告した。

 無論、形だけ離脱しても実質的な軍事同盟(軍需物資の融通等)が継続されたままであれば別だが、同盟から離脱して中立を守れば中立国として扱うし、リンド王国側に寝返ればより大きな恩恵があるだろうと宣伝するのだ。


 今は直接の被害に遭っていなくても、北方諸国同盟に連なる限りいつ皇国軍に攻められても苦情を言える立場ではないという事。

「同盟はそれなりに準備が整って進軍しましたから、初撃はもう少し上手く行くかと考えていましたが、見込みが甘かったようです」

「こういうやり方は外道だと解った上で言うが、血を流せばレイオン陛下にも申し訳が立つだろうか」

「皇国と一戦交えるのですか!?」

「この話は内密にして欲しいのだが、軍が無傷の今、リンド側に寝返ってマルロー王国の梯子を外すのと、皇国軍と決戦して“戦いたくても戦えなくなる”のと、どちらが人聞きが良いと思うかね」

「…………」

「これが最善の策とは思わない。納得してくれとも。名誉なのかも解らないが、白旗の準備をしてやってくれるか?」


 盟主として引けぬマルロー王国と、盟主に許可なく引けぬ同盟諸国。

 互いの国の君主達は、それぞれに問題を抱えていた。

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