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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
東大陸編(下)
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東大陸編26『対処不能の防空戦』

 皇国軍の爆撃機に一方的に蹂躙されたマルロー王国軍の前衛部隊では、対空砲兵将校や工兵将校等が緊急の対策会議を開いていた。


「敵は12騎だったが、それにも拘らず石と爆弾を雨のように落とされたな」

「落とされた爆弾そのものは、通常の2バルツか4バルツの爆弾でしたが、数が問題です。おそらく400発から500発を一気に落としたのでしょう」

 つまり、1騎あたり爆弾30発以上に加えて数百の石ころを投げ落としたのだ。


 何とはなしに“空の要塞”と渾名されるようになった皇国軍の重爆撃機の具体的な性能が、身近な爆弾に換算して飛竜の数十倍という現実は、マルロー王国軍の将軍の継戦意欲すら揺さぶるに十分だった。


 数十機の猛爆“だけ”でリンド王国軍や西大陸のライランス王国軍が壊滅したのは魔法でもなんでも無い必然だったと、漸く自分達の理解の範疇で議論が可能になったは良いが、リンド王国軍の辿った惨劇を知るにつれ、次は自分達だと思うと背筋が凍る。

 安全な(と考えられている)王宮に居座る国王は良いが、軍人や国境に近い都市の民にとっては、これは死刑宣告だ。


 皇国軍はリンド王国との戦争でかなり消耗しているから、それが回復しないうちに強襲すれば皇国の大陸介入を諦めさせる事も可能だと見積もったのは大いなる間違いだったという事になる。

 リンド王国に展開中の航空戦力の一部が動いただけで、今回の損害なのだから……。


「このまま、防空対策が不十分なまま進軍を続けるのですか?」

「今更、戻る事は出来ないだろう。セソー大公国方面からの部隊が孤立する」

 “飛竜対策”ではなく“防空対策”が不十分と、軍の対皇国戦術の不備を指摘して遠回しに退却を提案する作戦参謀に対して、師団参謀長が戒めの言を発したが、部隊を預かる前衛師団長は、むしろ退却の方便が出来たと考えていた。

「ベルグに近づけば近づくほど、皇国軍に加えて残存するリンド軍の迎撃も苛烈になるというのは誰もが認識している事と思うが、そもそも此度の作戦は速度が重要だった。リンド国内での皇国軍の迎撃態勢が整う前に、ノールベルグ城に迫るのが前提だった。その前提が崩れたのだから、引き返して講和を持ちかけるよう、陛下に直訴しても良いと考える」

 将軍の“弱気な”発言に、司令部に詰める師団幹部達も驚きを隠せない。

 特別に勇猛という訳では無いが、特別に弱気な人物でもなかったのだ。


「前提が崩れたからといって、まだ部隊は動けぬ程の損害を受けていません。セルシー、スコルマード、ポゼイユを落とせば交渉材料にはなるでしょう」

「セルシーの港、スコルマードの塩山、ポゼイユの金貸しか?」

「セルシーに関しては、フュリス公国が漁夫の利を得るように動いています。エイルーン回廊がフュリス公国のものに戻るのも、悪い話ではないでしょう。スコルマードの重要性は今更は言うまでもありませんし、ポゼイユは親皇国派の領地です」

「そこを攻略して、改めて通告するのか? 撤兵と引き換えに皇国人の排除を? 今回の事で、リンド女王も変な所は父親に似て頑固なのが分かったのだ。またセグーニュに逃げられても、今度は違う。後詰に“皇国軍”が居るのだ。時間は敵の味方だ。やるならば女王と王配の首を狙うしかなくなった。それでもやるのか? ワイヤンの陛下は何と?」

「一日も早く、神聖なるロナルナ大陸から皇国を追い落とす事を“切望する”と……」

 ワイヤンの王宮や司令部との通信の内容は出発時と変わっていないが、これはそのようにせざるを得ないという政治の問題であった。


 皇国の気味悪さは感じつつも、リンド王国軍の末路を見れば安易に皇国に敵対するというのは国の存亡に関わる。

 故に、列強ではない中小の国家はリンド王国とマルロー王国のどちらにも与さずに中立で居たがったのだが、“味方でないなら敵”という世界の理の中で日和見は許されない。

 リンド王国を救援に行くという名目で集めた軍でリンド王国に攻め込む件について、周辺諸国を半ば

 強引に説得する形で協力させたのだから、今更マルロー王国から率先して退くなど政治が許さないのだ。


 実際に戦わずとも、軍は動員するだけでも大変な金がかかる。

 退いたら、北方諸国同盟の大使達は何の成果も得ぬまま出費だけ強要されたとランブルーシ城に詰め寄るだろう。


 しかし、それはそれとして純軍事的な立場から見れば、結論は一つに集束する。

(大陸から皇国を追い払うなど、不可能だろうな……)

 皇国は、大陸に介入して自国の勢力圏を獲得する為にリンド王国を手放しはしないだろう。

 リンド王国は、軍は壊滅したといっても民や都市は依然として存在するのだ。

 東西大陸間の航路が安定する上に異界の珍しい文物が交易品に入るので、大内洋の島嶼国家であるリロ王国やオレス王国も皇国に協力的。

 今や大内洋に面している大国は積極的か消極的かはともかく“皇国派”であり、その大国に従属する中小国も然りである。


 極北洋や大外洋から大内洋へ軍艦を回しても、十中八九リンド王国海軍と同じ末路になるだろうから、皇国の影を大陸から排除するには、陸軍と空軍が正面から決戦して打ち破るしか方法が無い。

 が、それが非常に困難なのはリンド王国が身をもって実証してくれたのだ。


 より大きな負債を残す前に、負債が小さなうちに損切りすべきだが……。

 間の悪い事に、諜報員からの情報では皇国陸軍の本隊と思しき大部隊がベルグを出撃したという。

 皇国軍の進軍速度から、これでポゼイユ攻略にかけられる時間は1~2週間が精々となってしまった。


 その間、ベルグ方面からの空の脅威を受け続けなければならないとすると、ポゼイユ正面の兵力が一時的に優位だろうが最終的に磨り潰されてしまう。

 毎日0.5%ずつ兵力が減る計算で、10日で5%も減ってしまうのだ。

 1日で50%を損耗したリンド王国軍の二の舞は御免である。


 ワイヤン宛の書簡には、皇国軍の本格介入によって作戦の完遂は困難になりつつある事が記されたが、これが王都に届く頃には戦争の主導権が決定的になっているだろう事は多くの者が予想していた。

 勝てばポゼイユを策源地にベルグ方面への道が開けるが、負ければ連鎖的に北方戦線も……。


「退却が許されないのなら。無理に攻めるよりは、いつでもポゼイユを攻撃可能な辺りに居座って戦力を温存しつつ圧力をかけようと思う。我々が壊滅して、皇国軍が北方に集中してきたら終わりだからな。バーレリー砦からも援軍は期待出来る。粘れるだけ粘るのだ」

「解りました。そのように作戦の検討を致します」

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