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皇国召喚 ~壬午の大転移~(己亥の大移行)  作者: 303 ◆CFYEo93rhU
東大陸編(上)
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東大陸編18『大艦隊と大空襲』

「全機、攻撃開始」

 攻撃隊の指揮官が搭乗する九七式艦攻から、攻撃開始の命令が発せられた。

 零戦隊は小型艦を、艦爆隊は中型艦を、艦攻隊は大型艦を標的に、各々攻撃態勢に入る。


 リンド軍艦は、投錨して完全に停泊中である。

 皇国軍機の接近に慌ててマストを張り、錨を上げようとするものの、間に合わない。



 上空からの攻撃に対する防御など殆ど考慮されていないこの世界の軍艦に対して、大規模空襲が実行される。


 先頭を進んでいた零戦隊から、爆撃コースに入っていく。

 各々が60kg爆弾2発を抱えており、両翼の20mm機関砲も弾薬満載である。


 翼を翻し急降下、その後速度を調節しながら降下角度を緩めて行き、600km/h超で爆弾を投下しつつ、付近にいる艦に向けて20mm機関砲をお見舞いする。

 爆撃を食らった艦は元々小型艦であるので、60kg爆弾と言えども一撃で大破炎上する。


 両翼合わせて200発の20mm機関砲は、頑丈な木造の艦をもボロボロに破壊する。

 上部構造物、マストなどに命中し炸裂した機関砲弾は、周囲の人物を巻き込みながら船の備品を次々と使い物にならなくしていく。



 艦爆隊は、急降下爆撃によって高い精度で250kg爆弾を命中させている。

 固定目標が相手とはいえ、命中率は80%以上。

 48機の爆撃機から投下された爆弾のうち、40発は命中している。

 艦爆隊が狙った獲物は二層砲列甲板の艦が多数だが、爆弾は最上甲板や砲列甲板を容易に突き破り、艦底近くで爆発した。


 艦底に大穴が開き大量の浸水を始める艦、弾薬庫に誘爆して火災発生、あるいは爆沈する艦。

 爆弾が命中した殆どの艦が、大破ないし沈没した。


 水深が浅い場所で航空魚雷が使えないため、九七式艦攻は500kg爆弾を装備している。

 艦攻隊は、命中率を少しでも高めるために比較的低高度から水平爆撃を行う。


 と、艦攻隊の針路を塞ぐように飛竜が向かって来た。

 数は8騎。


 だが……。


 皇国軍にとっては低高度といっても、それでも高度1000m程度を飛んでいる艦攻隊に対しては、飛竜隊は下から追いかけるしかないのだが、九七式艦攻の速度は300km/hを超える。

 飛竜の速度の3倍以上だ。しかも、飛竜隊の位置エネルギーは低い。


 懸命に上昇を続ける飛竜だが、それも虚しく自分の遥か上を一瞬で通り過ぎて行く艦攻隊を阻む事は出来なかった。


 急降下爆撃隊よりも高い高度から投下され、十分な運動エネルギーを溜め込んだ500kg爆弾は、三層砲列甲板の大型戦列艦をも一撃で大破させた。



 被害を受けなかった艦は対空ロケット弾などで迎撃を行うが、皇国軍機の高速に照準が合わず、弾は明後日の方向へ飛んでいく。


 帆を張って出航しようとする艦も、隣の艦が沈没するなどして、邪魔になって動けない。

 しかも、上手く出港準備が整った艦も、風が凪いでいるせいで思うように速度が出ない。


 殆ど身動きが取れないまま、数十隻のリンド軍艦が炎上し、沈没した。



 身軽になった零戦隊は、20mm機関砲と7.62mm機関銃で無傷の艦の対空火器を制圧しにかかる。

 最上甲板に暴露している対空ロケットランチャーや、対空砲に向けて機銃を撃ち込み、多くを破壊した。



 第二次攻撃隊(内訳は第一次攻撃隊と同様)が戦場に到着したのは、第一次攻撃隊の1時間半後であった。


 混乱の中なんとか帆を張り終え、投錨地から脱出しようとする無傷のリンド軍艦達に、第二次攻撃隊が殺到する。


 96発の60kg爆弾、48発の250kg爆弾、同じく48発の500kg爆弾は、まだ無傷だった艦を次々と“廃墟”にしていく。


 何れの爆弾も、海戦で用いられる最大級の砲である6バルツカロネード砲弾よりも高威力なのだ。

 飛竜で運用可能な最大の爆弾である10バルツ爆弾と、皇国軍の60kg爆弾を比較すると、重さは10kg(20%)しか違わないが、破壊力は数倍以上違う。


 この世界で一般的に用いられている黒色火薬は、皇国で使われる火薬に比べて燃焼速度が遅い分、低い威力に留まっている。


 皇国軍では小型爆弾に相当する60kg爆弾ですら、この世界で最強の爆弾より高威力。

 250kg爆弾や500kg爆弾、さらに1000kg爆弾や1500kg爆弾などは、この世界の常識的な砲弾や爆弾の破壊力を大きく突き放している。


 想定外の大威力爆弾が次々と命中すれば、大型戦列艦と言えども沈没は免れない。

 そもそも戦列艦の砲弾は大半が爆発しないただの“砲丸”だ。

 砲丸の撃ち合いに最適化された戦列艦に、炸裂弾の雨は酷である。



 2次に渡った航空攻撃によって、リンド王国海軍艦艇は52隻が沈没し、39隻が修理不能な程の大損害を受けた。

 小破から中破程度に留まったのは、僅かに5隻だった。



 だが、第一航空艦隊の“鉄の暴風”はまだ終わりを告げない。


 第三次攻撃隊は、午後になってから発艦した。

 まだ浮かんでいる艦艇に対し、無慈悲なるとどめの一撃を見舞う。


 乱舞する皇国軍機と爆弾の雨に、リンド将兵は完全に意気消沈し、生き延びようと必死にもがく。

 2度に渡る攻撃で、対空弾も使い切ってしまったリンド艦隊は、3度目の攻撃に対して全く反撃する事も出来ず、ただ嬲り殺しにされるがままである。


 リンド艦隊は混乱の極みにあり、味方同士で衝突して沈没するような艦までいた。


「艦長、伝令! 主席提督、次席提督共に戦死の模様です!」

「うむ、少将はまだ指揮を取っているのか?」

「煙で将旗、信号旗共に見えません。少将が生き延びているとすれば、旗艦はキュナーズ号の筈ですが、ここからでは見えません」


 幸運な事に、まだ20mm機関砲の破片を受けた程度で大きな損傷の無かったフリゲート、ランモルン号の艦橋から、艦長は望遠鏡をキュナーズ号に向けた。


「360度、視界はほぼゼロだな」

「この煙のおかげで、爆撃の標的にならずに済んだとも言えますが……」

「酷い有様だ。あれだけの大艦隊が、一日で炎と煙になって海の藻屑と消えてしまうとは」


 世界に名を轟かす大艦隊が、僅か1日で、しかも一方的に壊滅してしまうとは。


「周囲の艦艇が大方沈没か動けない状態で、こちらも身動きが取れません」

「下手に動くと狙われるだろう。ここは“死んだふり”だ」


 ランモルン号は帆を張る事もせず、ただじっと嵐が過ぎ去るのを待った。



 第三次攻撃隊が去った後、船として浮かんでいられたのは僅か8隻。

 沈没した艦隊が魚礁となり、ダイビングスポットとなるのは、まだ先の事である。


 フレータル環礁のリンド王国艦隊をほぼ無力化した第一航空艦隊は、リンド王国本土を目指して東へ針路を取った。

 第一航空艦隊の次の仕事は、リンド王国にある4箇所の主要な海軍基地を空襲する事。


 北から順にフィロン、サラス、マンヌ、ユーム。

 この中で最も規模が大きいのがサラス基地で、最も規模が小さいのがフィロン基地になる。



 第一航空艦隊の方針は、最北のフィロン基地から順に叩いて行くという、大雑把だが確実とも言えるものだった。相手は移動できない基地である。


 第一航空艦隊は、フィロン基地の北西450km地点から攻撃隊を飛ばした。



 フィロン基地の将兵は、呆気に取られていた。

 “今頃来るのか。しかも空から!?”という感じだ。


 メッソール港が襲撃されたという情報が流れた時、海軍基地の人員は次は自分達だろうと思っていた。

 だからそれに備えて水雷を撒き、少ないながらもカノン砲などの対艦砲を海に向けていた。


 だが、待てど暮らせど皇国軍艦は来ない。

 これは、戦争が終わるまで大丈夫か? と思い始めていた矢先の襲撃だったのだ。



 基地の対空砲はたったの8門、対空ロケットランチャーに至っては8連装型が1基という有様だ。

 飛竜は10騎いるが、即応体制にあるのはそのうちの4騎のみ。

 残りの6騎のうち、4騎は偵察中、2騎は休養中である。


 空からの襲撃など、想定していないのだ。

 北の国境から100マシル(≒120km)は離れているため、飛竜による襲撃はまず想定されない。

 敵が飛竜母艦を繰り出してきたとしても、母艦1隻で運用出来る飛竜の数は精々20騎。

 飛竜母艦を何隻も同時運用している国は無いし、飛竜母艦の主な任務は偵察だから、後方の海軍基地が空襲に備える必要は殆ど無いのだ。


「敵襲! 敵襲!」


 気付いた時には、もう皇国軍機は爆撃態勢に入っていた。

 数十秒後、最初の爆発を皮切りに、基地の広範囲で爆発音が響き、人や物が吹き飛ぶ。


 飛竜の厩舎も爆撃に遭って、中の飛竜ごと破壊された。


 最初の空襲で早くも対空砲が破壊され、丸裸にされたフィロン基地は、2次に渡る空襲で停泊中の艦艇、小型艦用ドック、物資貯蔵庫、港湾作業船などを破壊され、基地としての機能を完全に喪失した。



 翌日、朝一番の空襲を受けたのはサラス基地。


 最も大規模な海軍基地だけあり、防衛戦力はある程度充実していた。

 対空砲24門に、12連装対空ロケット砲4基。

 航空部隊には関係無いが、対艦カノン砲も多数備えていた。


 だが、やはり照準装置が皇国軍機の素早さに対応していないため、対空射撃の精度が悪い。

 照準器を無視して、勘で狙いを付けようとする将校も居たが、付け焼刃では当たらない。


 撃ち損じの続く対空砲に対し、皇国軍艦隊航空隊の先鋒は爆撃と機銃掃射で応戦する。

 対空砲が沈黙すると、爆撃隊は停泊中の艦艇やドック、基地施設等を徹底的に破壊する。


 3次に渡る400機の戦爆連合の大空襲により、東大陸の西海岸で一、二を争う規模を誇ったサラス基地は見る影も無く破壊された。


 基地は炎に包まれ、凄まじい死臭と爆薬の臭いが混ざり合った、吐き気を催すような異様な“瘴気”に包まれていた。


 死体と瓦礫の山に、生存者も自分が生きているという実感すら失ったであろう。


 サラス基地には、数機の九七式艦攻から『皇国軍に降伏せざる者の末路、この基地の如し』という“脅し文句”が印刷された宣伝ビラが投下された。



 後は、皇国艦隊にとって“消化試合”であった。

 翌日、マンヌ基地とユーム基地は、伝書鳩により前日のサラス基地の襲撃の報告を受けていたため、皇国軍の空襲に備えていた。


 だが、備えといっても数門の対空砲と対空ロケット砲、十数騎の飛竜では、出来る事は限られていた。

 皇国軍による一方的な殺戮に、2つの基地は降伏する間もなく破壊し尽くされた。


 これで少なくとも数ヶ月、リンド海軍は母港を失う事になる。



 皇国海軍の艦隊航空隊は、故障や着艦時の事故等で6機の飛行機を失った(うち1機は修理可能)以外、損害は無かった。


 暴風雨のような破壊の限りを尽くした第一航空艦隊は、補給のため一旦東大陸を離れていった。

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