番外編39『大事件 その後』
皇国陸軍が構える陣地に、側面から戦竜が突進してくる。
八九式軽戦車の車長は双眼鏡を構え、周囲を見渡した。
「居た。10時の方向、距離は300m、砲は2門、向きを調整してる」
突撃してくる戦竜は歩兵の機関銃や狙撃銃、擲弾筒に任せる。
戦列歩兵は150m以上の距離から射撃を繰り返しているが、戦竜や戦列歩兵は囮だ。
戦車を停車させ、セソー大公国軍の大砲が隠れる場所に主砲と車載機銃を叩き込む。
停車時間は5秒程で、すぐに移動を指示する。
仮に外していても、移動すれば敵は砲の照準を改めるのに時間がかかる。
戦竜を討取った歩兵部隊も、小隊ごとに戦車に続き、残敵の掃討と周辺警戒を行う。
会敵から30分程で、戦竜6頭と1バルツ野戦砲4門を含むセソー大公国軍の特務部隊は壊滅した。
皇国軍に重大な損害を与えられる“かもしれない”戦法は、結局は装備と戦術の差で無力化を余儀なくされる。
列強のリンド王国軍ですら討取るのに多大な犠牲を払った皇国軍戦竜を、遥かに少ない犠牲で討取った。
それは事実だったが、大局的に見れば単に運が良かっただけで、後に続くような戦法ではなかったのだ。
これなら結局、重厚な布陣の戦列歩兵を中心とした部隊で迎撃した方がまだしも成功率は高いのではないか?
そんな事も囁かれ、奇襲も強襲も封じられたセソー大公国軍は、首都ロマディアに後退し続けるしか無かった。